物質・材料研究機構(NIMS)は9月10日、溶液を塗って乾かすだけで、性質の異なる素材同士を強く接合できる新技術を開発したと発表した。本来は接着しにくいガラスと柔らかな高分子の組み合わせで、7メガパスカルを超える接合強度を確認したという。成果は同じ10日、科学誌「Small」のオンライン版に掲載された。
7メガパスカルは、1円玉大の面で220キロ
メガパスカルは、ある面積にどれだけの力がかかるかを表す単位だ。NIMSは公表資料のなかで、7メガパスカルという強度を「1円玉(半径1センチ)の大きさに接着させた場合、220キロ以上の重さに耐えられる」と説明している。1平方センチメートルあたりに直せば、およそ70キロにあたる。
この数字が意味を持つのは、比較対象があるからだ。NIMSによると、7メガパスカル超という値は、多孔層を挟まなかった場合や、孔のない平らな塗膜を作った場合と比べておよそ2倍にあたる。同じ素材の組み合わせ、同じ引っ張り方で測って2倍になったということで、接着剤の中身を変えたのではなく、接着層の「形」を変えただけで得られた差である。
硬い素材と柔らかい素材は、そもそもくっつきにくい
NIMSによると、自動車など輸送機器の軽量化による燃費向上が求められるなか、金属やガラス、セラミックスといった硬い素材と、ゴムやプラスチックなどの柔らかい高分子を組み合わせる「マルチマテリアル化」の重要性が急速に高まっている。フレキシブルな電子デバイスや、柔らかい素材を使う次世代ロボット(ソフトロボット)でも同じ課題がある。
問題は、性質の異なる素材同士がそもそも接着しにくいことだ。硬さや熱膨張率が大きく違うため、接合した面に力が集中し、そこが壊れる起点になりやすい。
くっつきにくさには、もう一つ「極性」という軸がある。極性とは分子のなかの電気的な偏りを指す言葉で、NIMSは公表資料の用語解説で、極性が大きい素材と小さい素材では性質が異なるため接着しにくいことが多い、と説明している。ガラスは極性が大きく、ゴムやポリエチレン、ポリプロピレンのような高分子は極性が小さい。今回の実験がガラスとスチレン・ブタジエン系のエラストマーという組み合わせを選んだのは、硬さの違いに極性の違いが重なった、本来なじみにくい相手で試すためである。
接合の手段として、ネジやボルト、溶接は信頼性が高い。ただし一点に負担がかかる、重量が増える、薄い基材には使えないといった弱点がある。面全体でくっつける接着接合なら荷重は分散するが、こちらは接合する素材の組み合わせごとに、双方になじむ接着剤を個別に設計・開発する必要があった。
もう一つの手として、レーザーや機械加工、化学エッチングで基材の表面を削って凹凸をつくり、そこに高分子を食い込ませて強度を高める方法も知られている。船の錨(アンカー)を下ろしたように引っかける「アンカー効果」と呼ばれる仕組みだ。ただしこちらは大がかりな設備と工程が必要で、削りかすや洗浄液が出るため、エネルギー消費や環境負荷の面で課題を抱えていた。
「化学で付ける」と「引っかける」の役割分担
今回の技術は、接着剤そのものの相性を高めるのではなく、接着層に「構造」を持たせるという発想だ。片側とは化学的な親和性で強くくっつけ、もう片側とはアンカー効果で引っかける。こうすれば、接着層が両側の素材になじむ必要はなくなる。
構造を作るのに使ったのが「粘弾性相分離」という現象である。相分離とは、ドレッシングのなかで水と油が分かれるような現象を指す。ふつうは量の少ない側が球状の液滴になるが、高分子のような固体成分が混ざっていると、速く動ける液体のほうが先に集まり、高分子の網目が取り残される。この場合は量が少ない側でも、つながった網目構造を作れる。
この現象には、できあがる構造の質を自動的に高める性質もある。NIMSの説明によると、相分離が進む過程では力学的に弱い部分が優先的に淘汰され、強い部分が残るとされる。設計図を描いて削り出すのではなく現象に任せることで、耐久性に優れた多孔構造が下から積み上がる(ボトムアップで得られる)という理屈だ。強度が2倍になった理由は、後述する食い込み構造だけではない。
研究では、揮発の速い溶媒と遅い溶媒を混ぜた液を使った。塗った後にまず速い溶媒が飛び、残った溶媒のなかで高分子が網目を作る。その乾燥速度を調整すると、網目が固まるタイミングを制御でき、孔の大きさを変えられる。こうしてできた層を「多孔質アンカー層」(PPA=Printable Porous Anchor)と名付けた。
実験では、ガラスと相性の良い極性高分子で多孔膜を作り、そこにガラスとはなじみにくいスチレン・ブタジエン系の熱可塑性エラストマーを、溶液の塗布や熱圧着で染み込ませた。多孔膜の塗布にはスピンコート(溶液を載せて回転させ、遠心力で薄く広げる方法)を使っている。できた塗膜を原子間力顕微鏡で観察すると、孔の大きさがサブマイクロメートルから数マイクロメートルの範囲で制御できていることが見て取れたという。
相手に選んだスチレン・ブタジエン系のエラストマーは、実験のためだけに用意した特殊な素材ではない。極性が小さく、ポリプロピレンやポリエチレンといった接着しにくい素材に対する相溶化剤・接着性改質剤として、すでに広く使われている材料だとNIMSは説明している。難接着系の素材を扱う現場にある材料で、相性の悪さを構造で埋められたことになる。
孔が開いた膜は、マイクロメートルほどの孔が光を散乱させるため白く濁って見える。ここに相手の素材が入って孔を埋めると、両者の屈折率が近い場合には透明な外観に変わる。見た目の変化が、孔が埋まったかどうかの目印になる。
なぜ2倍になるのか 破壊のしかたが変わる
強度が上がる理由は、計算機シミュレーションで調べた。平らな面で2つの素材を貼り合わせた場合、わずかに引き伸ばしただけで境目にひずみが生じ、その面に沿って破断が一気に進む。一方、互いに食い込んだPPA型の構造では、境目に沿った破断がそもそも起こりにくく、素材そのものが部分的にちぎれながら少しずつ亀裂が進む。結果として、より大きく変形しても壊れない。
この耐久性は、小さな孔に柔軟で粘り強い素材をしっかり入り込ませたときに最も高くなった。研究チームは孔の大きさを系統的に変えた実験でも、力学的な最適化ができることを確認している。NIMSは、こうした仕組みが真珠層など自然界にある高耐久素材とも通じるとしており、接合層そのものを構造化する設計の重要性を示す結果だとしている。
直径15センチの大面積でも作れる
実用化を考えるうえで見逃せないのが、作り方が特殊な装置に依存しない点だ。多孔膜は溶媒の揮発と相分離だけで生じるため、さまざまなコーティング方法で作ることができ、6インチ(直径15センチメートル)の大面積でも製膜できるという。表面を削る工程がないので残渣も出ない。
研究は、NIMS高分子・バイオ材料研究センターの荒井俊人独立研究者が行った。論文の題目は「Topological Structuring of Adhesive Layers to Enhance Resistance Against Interfacial Fracture」で、著者は荒井氏ひとりである(DOI: 10.1002/smll.75296)。Small誌に9月10日付で掲載された。NIMSは物質・材料科学に特化した国立研究開発法人で、本部は茨城県つくば市千現にある。
NIMSは、PPAを用いた接合方法について、両側の素材になじむ接着剤を開発するという従来の各論的なアプローチから脱却し、多彩な素材の組み合わせに対応できるプラットフォームとなる可能性を秘めている、と位置づけている。現在は汎用性をさらに広げるため、接合部の放熱性や電気的な接続を妨げない「導電性の付与」と、過酷な環境に耐えられる高耐熱性の高分子を使った多孔アンカー層の開発を進めている。想定する応用先は、薄く軽く曲げられる次世代電子デバイスや、医療・介護の現場で使う安全なソフトロボットの製造だ。肌に貼る電子デバイスの側では、伸縮する異方性導電フィルム(ACF)を理研などが開発 厚さ300ナノメートル、5倍に伸ばしても通電 常温・無加圧で肌に貼れ、通気性は医療用フィルムを上回るのように、貼り合わせる相手の材料の側でも開発が進んでいる。
