Preferred Networks(PFN、東京都千代田区)とグループ会社のPreferred Computing Infrastructure(PFCI)は9月18日、PFNが独自に開発するAI半導体「MN-Core 2」の計算資源を、材料探索用のシミュレーター「Matlantis」向けに2026年中に提供し始める計画を発表した。電池材料に使われる結晶の構造計算など、MN-Core 2がGPU(画像演算装置)より速く処理できる一部の計算が対象となる。Matlantisを使う企業や研究機関は、これまでの利用環境を変えずにこの計算資源を使えるようになるという。
GPUの最大4倍、精度は保ったまま
PFNの発表によると、Matlantisのシミュレーションはこれまで計算資源にGPUを使ってきた。ただ、電池材料用の結晶などの構造については、MN-Core 2が「同じ精度を維持したまま」GPUの最大4倍程度の速さで計算できることが確認されたとしている。
理由としてPFNが挙げるのは二つある。一つはMN-Core 2の、演算量あたりのローカルメモリ(演算装置のすぐそばに置く記憶領域)の容量がGPUに比べて大きいこと。もう一つは、ソフトウェアによる制御の自由度が高いことだ。手元に置けるデータが多ければ遠くのメモリへ取りに行く回数が減り、処理の順番を用途に合わせて細かく組めれば無駄な待ち時間も削れる。決まった形の計算を繰り返す場面では、これが速さの差になって表れる。
裏を返せば、あらゆる計算が速くなるわけではない。今回の対象もPFNは「MN-Core 2による高速化がGPU比で最大4倍程度可能なシミュレーション」と限定している。現在は一部のMatlantis利用企業・団体に試験提供して実用性を検証している段階で、2026年中の提供開始に向けて開発を進めているという。
150超の企業・大学が使う「材料探索AI」
Matlantisは、96種類の元素を任意に組み合わせたときに現実世界でどんな物性を示すかを、コンピュータ上で試せるクラウドサービスである。AI技術を応用することで、従来手法の最大数千万倍の速さでシミュレーションできるとPFNは説明する。
中核にあるのは、PFNがAI技術で開発した材料基盤モデル「Matlantis PFP」(機械学習原子間ポテンシャル)だ。原子どうしに働く力を量子力学の計算で毎回解く代わりに、あらかじめ学習させたAIモデルで近似して求める仕組みで、計算時間を大きく縮められる。新材料の候補は組み合わせの数が天文学的になるため、実際に合成して試す前にコンピュータ上でふるいにかける工程の速さが、そのまま開発期間に効いてくる。次世代電池や触媒、半導体素材の探索を目的に、世界で150を超える企業・学術団体が利用している。
運営するMatlantis株式会社は2021年6月の設立で、設立時の出資比率はPFNが51%、ENEOSが49%だった。2024年6月には三菱商事が業務資本提携を通じて株主に加わっている。サービスは2021年7月に国内で始まり、2023年4月には米国でも提供を開始した。
半導体からサービスまで自社グループでつなぐ
今回の提供は、PFCIが運営するAI向けクラウドサービス「Preferred Computing Platform(PFCP)」上にあるMN-Core 2の計算資源を、Matlantis株式会社に提供する形をとる。PFCIは、MN-Coreシリーズを主な計算力とする計算基盤を手がけるために2025年に設立されたPFNグループの会社だ。
これが実現すると、AI半導体(MN-Core 2)、計算基盤(PFCP)、基盤モデル(Matlantis PFP)、利用者が触れるサービス(Matlantis)が、すべてPFNグループの内側でつながることになる。PFNは、顧客の課題解決には自社製・他社製にかかわらず最適な技術を組み合わせてきたとしたうえで、今回は「自社グループ製の技術の組み合わせがMatlantisのユーザー目的に最適である」と判断したと説明している。
MN-Core 2のカタログ性能は、倍精度(FP64)で12テラフロップス、単精度(FP32)で49テラフロップス、TF16で393テラフロップス。電力1ワットあたりの性能はTF16で1192ギガフロップスとされる。初代のMN-Coreは台湾積体電路製造(TSMC)の12ナノメートル世代で作られ、2020年に構築されたスーパーコンピュータ「MN-3」に160基が積まれた。AI向けの計算では汎用のGPUを大量に並べるやり方が主流だが、用途を絞った自社設計の半導体を実際の商用サービスの裏側に据える取り組みが、国内から出てくる形になる。
