金沢大学ダイヤモンド研究センターの德田規夫教授らの研究グループは9月18日、産業技術総合研究所(産総研)先進パワーエレクトロニクス研究センターの長井雅嗣研究員らとの共同研究で、ダイヤモンドを使った「トレンチ型反転層チャネルMOSFET(モスフェット)」の動作実証に世界で初めて成功したと発表した。作製した素子は室温に加え、300度の高温環境でも明瞭な動作を示した。

溝の側壁を電流の通り道に使う

MOSFETは、ゲートと呼ぶ電極にかける電圧で電流を流したり止めたりする半導体素子だ。このうち、電気自動車(EV)のモーターや送電網のように大きな電力を扱う用途に使うものをパワーデバイスと呼ぶ。電力の形を変えるたびに熱として失われる損失をどこまで削れるかが、省エネルギー性能を左右する。

トレンチとは「溝」を意味する。トレンチ型は、半導体に溝や窪みを設け、その側壁を電流の通り道(チャネル)として使う構造で、電流は基板の縦方向に流れる。側壁を使うぶん、同じ面積により多くの通り道を詰め込める。加えて「JFET抵抗」と呼ばれる、電流が細い経路を通るときに生じる損失成分もない。金沢大はこの2点を挙げ、電気の通りにくさ(オン抵抗)を低く抑えられる、低損失化に最も有利な構造だと説明している。

平らな基板表面に通り道を作る「プレーナ型」は、同じ縦型でもこの2点で不利になる。今回の成果は、これまで実現していた横型から、プレーナ型を経ずにトレンチ型へ一足飛びに到達したものだ。反転層を通り道に使う縦型のダイヤモンドMOSFETとしても、世界で初めての動作実証となる。

ニッケルに炭素を溶かし、薬品を使わずに溝を掘る

ダイヤモンドは電気を遮る力が強く、熱を逃がしやすい性質を併せ持つことから、「究極の半導体材料」と呼ばれてきた。ただしトレンチ型のダイヤモンドMOSFETは、これまで報告されたものだと、原理上ノーマリーオフ動作を安定して実現できない課題があった。ノーマリーオフとは、ゲートに電圧をかけていないときは電流が流れない特性のこと。停電や異常が起きたときに自動で電流を遮断して止まるため、パワーデバイスには欠かせない。

解決策とされてきたのが、原理的にノーマリーオフになる「反転層」を通り道に使う方式だった。ところがダイヤモンドで反転層を作れる結晶面は{111}面に限られ、従来の溝の掘り方では、その面を側壁に持つ溝を十分な品質で形成できなかった。

研究グループは、高温の水蒸気の中でダイヤモンド表面の炭素をニッケルに溶け込ませ、薬品やプラズマを使わずに削る独自の技術を使った。{111}面だけ削れる速さが極端に遅くなるため、他の面が先に削られ、狙いどおり{111}面を側壁とする逆ピラミッド型の溝が残る。この側壁が通り道として使えることを実証した。

2016年の横型から10年、EVと電力網へ

同じグループは2016年8月、ダイヤモンドを使った反転層チャネルMOSFETの動作実証に世界で初めて成功したと発表している。当時は電流を基板の水平方向に流す横型で、高い電圧に耐えさせようとすると抵抗が急増するため、大電力用途には向かない構造だった。それから10年で、最も損失の小さい縦型構造にたどり着いたことになる。

ダイヤモンドを使ったパワー半導体の実用化研究は、産総研でも進む。同研究所は2025年3月、ダイヤモンドMOSFETを314個並列につないで2.5アンペアの電流を高速で切り替える動作を確認したと発表した。電流を切るまでの時間は19ナノ秒(1ナノ秒は10億分の1秒)だった。

今回の研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と日本学術振興会の科学研究費、科学技術振興機構(JST)の創発的研究支援事業などの支援を受けた。論文は9月4日に『Diamond and Related Materials』のオンライン版に載り、9月10日に正式掲載された。研究グループは今後、素子の構造を最適化して損失をさらに減らす方針で、将来はEVや電力網への搭載を目指すとしている。