大阪大学と情報通信研究機構(NICT)、浜松ホトニクスの研究グループは9月1日、複数の量子コンピュータを光でつないで1台のように動かすための装置で、並べた10個の原子から出た光子を同時に取り出して検出することに成功したと発表した。同時に扱える本数としては世界最多で、これまでは数本程度が限界だった。研究を主導したのは大阪大学量子情報・量子生命研究センターの山本俊副センター長・教授らのグループで、論文は米国の科学誌Opticaに8月31日午後10時30分(日本時間)付で掲載された。

1台では1万量子ビットが限界

量子コンピュータが特定の問題で現在のコンピュータより速く計算できることは、すでにいくつかの例で示されている。だが社会で役立つ計算を任せるには、計算の途中で生じる誤りを訂正しながら動き続ける「誤り耐性型汎用量子コンピュータ」が要る。NICTの発表によると、その誤り訂正にたくさんの量子ビットを費やすため、実現には100万を超える量子ビットが必要と考えられている。

問題は、1台に詰め込める量子ビットの数に物理的な上限があることだ。レーザーで原子を格子状に並べ、原子1個ずつを量子ビットとして使う「中性原子方式」の場合、100個×100個の合わせて1万個程度が現在の見積もりとされる。100万を1万で割れば100台。単純計算でも、それだけの台数を束ねて1台として動かさなければ目標には届かない。

そこで浮上するのが、スーパーコンピュータやデータセンターと同じ発想である。小中規模の量子コンピュータを大量につなぎ、全体で1台として計算させる「ネットワーク型量子コンピュータ」だ。ただし、つなぎ方は光ケーブルでデータをやりとりする普通のネットワークとは違う。量子ビットと「量子もつれ」の関係にある光子を発生させ、その光子を相手側へ送り、量子テレポーテーションと呼ばれる手順で量子ビットの状態を転送する。量子もつれとは、片方の状態を観測すると、もう片方の状態が必ず決まってしまうような強い相関のことで、古典的な物理では説明がつかない。

32本の光の通り道のうち10本を使う

この転送を一度に何本も並行して行えるかどうかが、接続の太さを決める。従来の多重化は光ファイバーを並列に束ねるやり方で、集積度が足りず数本程度にとどまっていた。中性原子は数マイクロメートル(1マイクロメートルは1ミリメートルの1000分の1)の間隔で並んでいるため、束ねたファイバーでは原子の間隔に合わず、通常の中性原子量子コンピュータに対応できなかった。

大阪大学のグループが使ったのは、ガラスの基板の中に光の通り道を32本作り込んだ「集積光導波路アレイ」である。数マイクロメートル間隔に並んだ10個の原子の位置を精密に調整し、原子1個ずつから出た光子を、隣り合う10本の通り道へ結合させた。光子は10本の光ファイバーを通り、10チャンネルの超伝導ナノストリップ光子検出器で受け止められる。この検出器は、幅100ナノメートル以下の極細の超伝導線に光子が当たったときの抵抗の変化を捉えて光子1個を数える装置で、NICTが開発した素子技術をもとに浜松ホトニクスが今回のために新たに組み上げた。32チャンネルを備え、国内最大の規模だという。

実験では、原子の量子ビットの状態と光子の偏光状態が量子もつれの関係にあることの一部も確かめられた。読み出しの本数を増やしただけでなく、その光子が量子コンピュータの接続に使えるものであることまで示した形になる。導波路は32本あるため、研究グループは将来的に約100本規模まで多重化を広げられる技術だとしている。

2050年を見据えた国家プロジェクトの一部

今回の成果は、科学技術振興機構(JST)のムーンショット型研究開発事業の目標6「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」に採択された研究開発プロジェクト「誤り耐性ネットワーク型量子コンピュータ」などの一環として得られた。総務省のICT重点技術の研究開発プロジェクトからも支援を受けている。

役割は3者で分かれている。大阪大学が研究全般を統括して実施し、NICTが超伝導ナノストリップ光子検出器の技術提供と素子作製工程の一部を担当、浜松ホトニクスが検出器システムを開発して提供した。大阪大学のグループが中性原子アレイを用いたネットワーク型量子コンピュータの研究開発を始めたのは2020年で、装置の構築から接続方式の設計までを6年がかりで積み上げてきた。

山本教授は発表の中で「中性原子アレイから超伝導ナノストリップ光子検出器システムまで研究開発を行い多重光接続の最初の実証ができました」とコメントし、今後はさらに多重度を増やしたうえで、中性原子量子コンピュータ同士の接続の実証に進むとしている。