国際統合山岳開発センター(ICIMOD)は9月16日、8月26日にネパール北部で起きた氷と岩の大規模な崩落と洪水を受け、ネパール政府とともに15〜17日にカトマンズで高官級会合を開いたと発表した。バングラデシュ、ブータン、中国、インド、ネパール、パキスタンの政府関係者と国際的な雪氷の専門家ら80人超が参加し、山岳災害が連鎖するリスクにどう備えるかを共同の行動計画にまとめる。
ICIMODは、ヒンズークシ・ヒマラヤ地域の8か国が参加してネパールに置かれた政府間の研究機関だ。会合はスイス大使館の支援を受けて開かれ、2025年に同様の氷岩雪崩に見舞われたスイス・ブラッテンの対応にあたった専門家も加わった。参加者はまず被災地そのものに立ち、そのうえで2日間、何が起きたのかの再構成、スイスの事例、地域内の類似災害の比較を突き合わせている。
斜面が崩れ、30分で水位が9メートル上がった
崩落が起きたのは、ネパール中北部にあるランタン・リルンの北向き斜面だ。NDRRMA(ネパール国家災害リスク削減管理庁)の第1報によると、中国との国境に近いボテコシ川上流、ラスワガディの約20キロ上流で、およそ1平方キロメートルの岩と氷河の塊がはがれ落ちた。塊は斜面の堆積物を巻き込みながら泥流に変わり、ボテコシ川からトリシュリ川へと流れ下っている。
水の増え方は尋常ではなかった。ICIMODによれば、トリシュリ川のガルチ観測所では水位が30分で最大9メートル、下流のマレクでも同じ程度の時間で7メートル上がった。観測所そのものが流された地点もある。米地質調査所(USGS)はこの地域でマグニチュード5.2の揺れを記録したが、NDRRMAは、地震が崩落を引き起こしたのではなく、崩落そのものが地震計に記録される揺れを生んだと結論づけている。
よく知られる「氷河湖決壊洪水」とは成り立ちが違う点も、この災害の厄介さだ。氷河湖なら衛星で水面が見え、水位を下げる工事という手も打てる。今回崩れたのは湖ではなく斜面そのもので、危険は目に見える形で溜まっていなかった。
死者1,399人、17万人規模の支援が続く
OCHAが9月18日に公表した第8報は、NDRRMAの15日午後7時時点の集計として、死者1,399人、行方不明5,179人、救助された人13,742人を挙げた。建物7,570棟が被害を受け、2,155人が30か所の避難所で暮らしている。被災した17自治体で支援が届いたのは46,829人で、内訳は食料28,925人、水道の復旧26,550人、緊急シェルターと救援物資17,543人、心のケア9,118人だ。
現金給付の水準も決まった。全国の作業部会は、使い道を限らない現金支給の基準額を1世帯あたり15日ごとに15,000ネパールルピーとし、最長3か月まで続けるとした。3か月続けば1世帯で計6回、9万ルピーになる。
ユニセフは15日、心のケアが要る子どもが17,000人に上ると発表した。保護者と離ればなれになった子どもは541人で、うち再会できたのは18人にとどまる。アリス・アクンガ・ネパール事務所代表は「洪水は子どもたちが学校にいる時間に襲い、安全だという感覚を一瞬で壊した」と述べた。被害は広く、NDRRMAは5郡で約160万人が影響を受け、車が通れる橋41本が流失、さらに4本が損傷したとしている。
「あと何個のリルンがあるのか」
ギャムツォ事務局長は、今回の災害を起点の山名から「リルン氷岩雪崩」と呼ぶことを提案した。ICIMODはその名前が突きつける問いとして、ヒンズークシ・ヒマラヤの氷に覆われた峰々には「あと何個のリルンが崩れ落ちるのを待っているのか」を挙げている。会合は、この地域で最も危険な氷河地帯がどこかを特定し、そこを監視して人々に間に合う形で警報を出すための具体策を、行動計画として詰める。最終日の午後には中国、パキスタン、スイス、英国、ノルウェーの駐ネパール大使らが円卓会議に加わり、国際的な支援のあり方を話し合った。
ICIMODは、危険が高地で形づくられる国と、それが非常事態として現れる国が別になりうる点を強調している。今回の崩落はネパール側で起きたが、被害は国境を越えて中国・チベット自治区のギロンにも及んだ。気候変動研究部門を率いる張強弓氏は8月26日の時点で、上流に土砂の堰き止めが残っているとして「2度目の洪水が差し迫っていると当局は警告しており、ギロンの港には避難命令が出ている」と述べていた。
一方で、この一件を温暖化のせいと断じることには、科学者側が留保を置いている。ICIMODは、気候変動がヒンズークシ・ヒマラヤの氷河・積雪・永久凍土・斜面を変えつつあるとしたうえで、今回の災害で気候変動がどんな役割を果たしたかを判断するのは時期尚早だとした。雪氷専門官のファルーク・アザム氏は「氷や雪にかかわる災害が増えていることは、かつてないほど目に見えるようになった。変化の速さに今の取り組みが追いつけずにいる」と指摘している。
