米ビザ、米マスターカード、中国アリババ系のアント・インターナショナルの3社は10日、人に代わって買い物をするAI(人工知能)エージェントの身元を確認する仕組み「Know-Your-Agent(KYA、エージェントを知る)」について、互いの方式をつなぐ協業を始めると発表した。3社はこれまで別々にエージェントの確認方法を作ってきたが、共通の原則をそろえ、どのネットワークで登録されたエージェントでも相手側が見分けられる状態を目指す。
協業の3つの柱
発表によると、協業は3点を柱とする。第一に、エージェントが身元の確かな運営事業者にひも付いていることを、ネットワークをまたいでたどれるようにする「クロスネットワークの事業者追跡」。第二に、安全性や動作の要件を評価する認証基準を各社で共有すること。第三に、取引を継続的に監視し、認証を更新し続けることである。
一方で、どのエージェントを受け入れるかを最終的に決める審査やリスク判断の手順は、各社がそれぞれ持ち続ける。判断の材料となる「信頼の目印」だけを共通化し、カードネットワーク、電子財布、エージェントの運営基盤、通販サイトが同じ目印を読めるようにする形だ。
乱立した3つの仕組み
3社は昨年から今年にかけ、それぞれ独自の仕組みを公開してきた。ビザは2025年10月、「Trusted Agent Protocol」を公開した。エージェントごとの暗号署名で正規のAIと悪質なプログラムを区別し、購入の意思、その利用者が既存客かどうかの情報、決済手段を加盟店に渡す設計になっている。
マスターカードは2026年6月、機械同士が決済する「Agent Pay for Machines」を発表し、すべてのエージェントに証明書を与えたうえで、利用者の指示が本物かを確かめる「Verifiable Intent」で信頼を担保するとした。アントは同年4月、スマートフォンやスマートウォッチ、AR眼鏡などの端末を対象とする「Agentic Mobile Protocol」を公開している。
仕組みが並び立つと、エージェントを動かす事業者は接続先ごとに同じ審査を繰り返すことになり、店舗側も目印の読み方がそろわない。今回の協業は、この重複と複雑さを減らすことに向けられている。
「AIが買う」市場をにらむ
AIエージェントが商品を比較し、注文から支払いまで代行する取引は「エージェンティックコマース」と呼ばれる。店舗の側から見ると、接続してきた相手が利用者の依頼を受けた正規のエージェントなのか、勝手に注文を試みる不正なプログラムなのかは、外形からは判別しにくい。KYAは、金融機関が口座開設時に客の身元を確認するKYC(顧客確認)になぞらえた発想で、「誰が動かしているか」「何を任されているか」の裏付けをエージェントにも求めるものだ。
発表資料は、2030年までにAIエージェントが世界の消費者取引のうち3兆〜5兆ドルを差配するとの予測を挙げた。アント・インターナショナルの決済基盤「Alipay+」は、50を超える電子財布や銀行アプリと、1億5千万の加盟店をつないでいるという。
ビザのルベイル・ビルワドカー氏(グローバル成長・商品・戦略提携責任者)は「AIエージェントが人々の発見と購入を担う割合が大きくなるほど、信頼もそれに合わせて広がらなければならない」とコメントした。マスターカードのパブロ・フォーレス最高デジタル責任者は「KYAの枠組みをまたいだ相互運用性は、エージェンティックコマースを大きな規模で機能させるために欠かせない」と述べた。
当局主導の枠組みが土台
今回の協業は、シンガポール金融管理局(MAS)が主導する「SAFR(実行時のエージェント金融の安全策)」の枠組みを土台とし、MASが設けた業界向けの場「BuildFin.ai」を通じて進める。MASは金融機関や技術企業、研究者が責任あるAIの仕組みを開発・展開するための場としてこれを設けている。
ビザとマスターカードは日本国内でも広く使われている国際ブランドだが、今回の発表では技術仕様や運営主体、実施時期は示されていない。
