経済産業省は9月14日、AIの開発・提供・利用の現場で生じている契約上の法的論点や実務上の課題について、事業者からの事例募集を始めた。募集期間は10月30日午後5時まで。寄せられた事例は匿名化・一般化したうえで仮想のユースケースに整理し、有識者による検討会で対応策や解決の方向性を議論する。

改訂の的は、生成AI普及前で止まった契約ガイドライン

集めた事例の使い道は二つある。一つは現場の課題と対応例をまとめた報告書。もう一つが「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」の改訂に向けた検討だ。

このガイドラインは、企業同士がデータやAIをやり取りする際の契約の考え方を経産省が整理したもので、2018年6月に作られ、2019年12月の1.1版が最新版となっている。対話型の生成AIが一般に広く使われるようになる前の内容で、当時の想定は、発注者がデータを出してベンダーに学習済みモデルを開発してもらう、といった関係が中心だった。既製の生成AIサービスを社員が日常業務で使い、その上に機能を足して売る事業者が並ぶ、という現在の重層的な構図には正面から答えていない。

経産省は募集要項で、AIの競争力向上には良質なデータを使ったモデルの学習と、データ提供事業者を含む各主体間の円滑な連携が不可欠だと指摘したうえで、生成AIの普及に伴って「これまでにない論点や課題が生じている」と記した。制度を先に作るのではなく、まず現場で何が詰まっているかを集める順序を取った形だ。

募集は5類型 AIエージェントも対象に

募集要項は、想定する事例を5つの類型で例示している。不特定多数に提供される汎用的AIサービスを使う「汎用的AIサービス利用型」、上流のサービスに自前の機能を足して提供する「カスタマイズ型」、モデルやシステムを新たに開発する「新規開発型」の三つが縦の流れにあたる。これに、学習用データの提供やRAG(外部のデータベースを検索し、その内容を踏まえてAIに答えさせる仕組み)向けのデータベースのライセンスといった「データ提供」が横断的に加わる。

5つ目が、発展的な事例と位置づけられたAIエージェントだ。一定の目的の実現に向けて複雑な業務プロセスを自律的に実行するAIを指し、社内データや外部情報へのアクセス権限を与えて業務を任せる場面が例に挙がっている。経産省はこれらを例示にすぎないとし、類型の整理にかかわらず広く事例を寄せるよう求めている。

誤出力の責任、AI生成物の権利は誰のものか

想定される論点は6つ示された。外部と接続したサービスに機密情報を入力することとNDA(秘密保持契約)との関係、AIサービスの品質保証をどう定め品質が損なわれたときにどう対応するか、派生データやAI生成物の権利が誰に帰属するか、といった具合だ。

責任の分界も柱の一つで、ハルシネーション(AIがもっともらしい形で誤った内容を出力すること)や誤出力の責任を開発者・提供者・利用者のどこが負うのか、生成物が第三者の権利を侵害した場合はどうか、免責条項や損害賠償額の上限をどう置くかが並ぶ。AIエージェントについては、エージェントが意図しない取引をしてしまった場合の民法上の扱いを論点として明示した。

このほか、データやコンテンツの提供に対する対価の設定と分配、利用実績の把握、出典表示や原典への誘導といった「対価還元」も対象に入る。学習データの出し手にどう報いるかという、ここ数年の争点が正面から項目に立った。利用規約の変更時の対応や社内のAIガバナンス・契約審査の体制、AIセキュリティなど、法的論点にとどまらない課題も受け付ける。

検討会は非公開 個社が特定される記載はしない

事業者が手の内を明かしやすいよう、情報の扱いも定めた。提供された情報は経産省の担当者限りで管理し、社名など特定につながる情報を事前の承諾なく検討会の構成員や第三者に共有・公表することはない。検討会自体も非公開で開き、事後に公表する議事要旨でも個社が特定される記載はしないという。内容確認のため、30分から1時間程度の事前ヒアリングを求める場合がある。

検討会は、AIの開発・提供・利用に関係する事業者、学識経験者、法曹実務家、データ提供事業者らで構成する。経産省は、この募集と検討会が施策の検討を目的とするもので、個別の事案に法的助言を提供するものではないと断っている。提供は経産省の情報提供フォームで受け付け、フォームでの回答が難しい場合や補足資料を送る場合は、商務情報政策局情報経済課にメールで連絡する。