経済産業省は9月17日、若手政策立案プロジェクト「PIVOT」の未来テクノロジーチームが取りまとめた報告書「技術革新と人類社会の未来 中間報告書―価値主導型イノベーション・ガバナンスに向けて―」を公表した。AI、ブレインテクノロジー、先端バイオ医療、フュージョンエネルギーといった次世代技術について、今世紀後半を見据えた4つの技術的潮流(メガトレンド)を整理し、それらが社会・経済・地政学に及ぼし得る影響を分析している。
AIは「人類を超える知性」 4つの潮流を並べる
報告書が挙げた第1の潮流は「人類を超える知性の出現と高度な自律意思決定」だ。汎用AIや自律型AIの進展によって、計算・推論・意思決定が人間の知的能力を補完し、あるいは上回る水準で行われる結果、人間の存在意義や民主主義・就業構造のあり方が変化する可能性を示した。
第2は「人間の認知・身体的拡張と行動の最適化」で、ブレインテクノロジーなどにより認知能力・身体機能・活動範囲が拡張され、医療や社会保障のあり方も変わり得るとする。第3の「長寿化と健康寿命の飛躍的延長」は、老化機構の解明や遺伝子編集、再生医療によって疾病の予防・治療が高度化し、老化そのものへの介入が進む道筋を描く。第4は「次世代エネルギー源とエネルギー・資源制約の克服」で、フュージョンエネルギーや再生可能エネルギー、資源循環・代替技術が制約を緩め、産業競争力の源泉となる価値体系や安全保障環境を変える可能性を挙げた。
報告書はこれら4つを独立した流れとしては見ていない。AIによる創薬や材料開発の高度化のように、一つの分野の進歩が他の分野の発展を促す「共進化」の関係にある可能性を指摘している。
技術の将来を先回りして見る「技術洞察」
分析の土台に置かれたのが「技術洞察(技術フォアサイト)」という考え方だ。技術の将来動向と社会への影響を体系的に見通し、技術革新がもたらす機会とリスクを早期に把握したうえで、中長期的に必要となる政策や制度・ルールの在り方を先行して検討する取組を指す。
具体的には、次世代技術が物理的、生物的、時間的、空間的、認知的および社会制度的な制約をどのように緩め、それが産業、経済、社会、自然環境、地政学をどう変え得るかを横断的に分析した。国内外の技術ロードマップや技術動向を整理したうえで、専門家へのヒアリングと研究会での議論を重ね、機会・リスク・政策的論点を洗い出している。
経産省は前提として、次世代技術が経済成長や社会課題の解決に寄与する一方、個人の生活や価値観から雇用、産業構造、社会制度、国際秩序、自然環境まで幅広く影響し得ると説明する。技術を巡る国際競争が激しさを増す中では、研究開発を促すだけでなく、市場形成や社会制度設計、国際ルール形成までを一体で検討することが重要になるとの認識を示した。
提言は「価値主導型」 労働代替や格差を論点に
報告書が提言したのが「価値主導型イノベーション・ガバナンス」である。公平・公正、多様性、民主主義、平和といった社会的価値を指針に据え、研究開発、人材育成、市場形成、制度設計、標準化、国際ルール形成を一体的に進めるという考え方だ。
背景には、機会と裏表になった政策課題がある。報告書は、労働代替と人間の役割、意思決定における人間の主体性・責任、技術へのアクセスや活用能力を巡る格差、産業・経済構造の変化、国際秩序・安全保障、文化的多様性を、新たに生じ得る論点として列挙した。生産性の向上や健康寿命の延伸、資源制約の緩和という利点だけを取り出さず、双方を踏まえて統治の枠組みを考える構えだ。
PIVOTは2024年夏に始動した若手の取組
PIVOTは、経産省の若手有志による新政策立案プロジェクトで、2024年夏に始動した。名称は「Policy Innovations for Valuable Outcomes and Transformation」の頭文字で、所属する部署を超えて多様な力をかけ合わせ、本質的な課題に挑戦するプログラムと位置づけられている。経済産業研究所(RIETI)によると、2024年度は6つのテーマが設定され、このうちイノベーションチームは7人で構成し、延べ100人近い外部関係者と意見を交換した。
今回の報告書には、内容はPIVOT未来テクノロジーチームの見解であり、経産省が所管する特定の法令の解釈・運用などについての見解を示すものではない、との注記が付いている。省として制度改正を決めた文書ではなく、中長期の論点を先に並べた中間整理という扱いになる。担当はイノベーション・環境局総務課で、報告書の全文は経産省のサイトで公開されている。
