国際オゾン層保護デーの16日を前に、南極上空のオゾンホールが平年を大きく上回る規模で推移している。米航空宇宙局(NASA)の衛星観測によると、9月10日に面積が2577万平方キロに達した。1979〜2025年の同じ日の平均1785万平方キロの約1.4倍にあたり、2025年の年間最大2290万平方キロ、2024年の2240万平方キロをすでに上回っている。

オゾンホールは、上空のオゾンの総量が220ドブソン単位(DU)を下回る範囲を指す。DUはオゾンをすべて地表に集めたときの厚さを表す単位で、100DUが1ミリに相当する。220DUは約2.2ミリで、南極上空ではこの「薄さ」の領域が毎年8月から10月にかけて現れる。今年は8月中旬から広がり始め、9月4日に2040万平方キロ、10日に2577万平方キロと急速に面積を増やした。オゾンの最も薄い場所の値も13日に134DUまで下がり、同じ日の平均153DUを下回った。

英国南極観測局(BAS)も14日時点の解析で、オゾンホールの面積を2400万平方キロとし、「この時期としては過去10年より大きい」と評価した。南極点に近いハレー基地付近では約120DU、極渦の外側では約410DUと、内と外で3倍以上の差が生じている。

記録的に冷えた成層圏が拡大の背景に

面積が広がった直接の原因は、南極上空の成層圏が例年より強く冷え込んだことだ。オゾンを壊す塩素や臭素の化合物は、そのままでは反応しにくい形で大気中に存在している。氷点下78度前後まで冷えると「極成層圏雲」と呼ばれる雲ができ、その粒子の表面で化合物が反応しやすい形に変わる。そこに春の日差しが戻ると、オゾンの分解が一気に進む。冷え込みが強いほど雲が広がり、オゾンが壊れる舞台も広くなる。

BASによると、今年は極成層圏雲ができうる範囲が5月初めから拡大し、8月中旬に3100万平方キロでピークを迎えた。「異例に大きい」と記している。9月中旬には2500万平方キロまで縮んだが、それでも平年をかなり上回る。オゾンホールを閉じ込める渦(極渦)も4月下旬から発達し、9月中旬には3300万平方キロに達した。渦が強いほど外側の暖かくオゾンの多い空気が入りにくく、内側の低温とオゾンの減少が保たれる。

NASAが公表する高度約20キロ(50ヘクトパスカル面)・南緯50度以南の最低気温は、9月14日に176.7ケルビン(氷点下96.5度)まで下がった。1979〜2025年の同じ日の最低値181.0ケルビン(氷点下92.2度)を下回る冷え込みだ。ただし8月以降の値は速報用の解析システムによるもので、過去の気候値とは算出方法が異なる点に注意が要る。

「長期的には縮小」の評価は変わらず

年ごとの上下は大きい。過去の年最大面積をみると、2019年は成層圏が急に暖まった影響で930万平方キロにとどまった一方、2000年は2990万平方キロで観測史上最大だった。今年の2577万平方キロは、この47年間では15番目に大きい水準になる。しかも南極のオゾンホールが最も深くなるのは例年9月下旬から10月上旬で、今年の値はまだ伸びる可能性がある。

それでも長期の傾向は別だ。気象庁は「南極オゾンホールの年最大面積は、2000年以降減少しているとみられる」とし、信頼水準90%で統計的に有意だと評価している。1980年代から1990年代半ばにかけての急拡大は止まっており、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)の評価では、今世紀半ば以降に1980年の水準まで回復すると予測されている。単年の大小は気象条件で決まり、回復の速さを測るには数十年の平均で見る必要がある、という位置づけだ。

保護デーの今年のテーマはキガリ改正10年

9月16日は、1987年にモントリオール議定書が署名された日にちなむ国際オゾン層保護デーだ。今年のテーマは「地球をより涼しくするための世界的行動(Global action for a cooler planet)」で、2016年10月にルワンダの首都キガリで採択されたキガリ改正の10年を掲げる。

キガリ改正は、オゾン層を壊さない代わりに強い温室効果を持つ代替フロン(HFC)を段階的に減らす取り決めで、2019年1月1日に発効した。先進国は基準量に対し、2019〜2023年に90%、2024〜2028年に60%、2029〜2033年に30%、2034〜2035年に20%、2036年以降は15%まで消費量を抑える。エアコンや冷蔵庫の冷媒を置き換える作業であり、猛暑が広がるなかで冷房をどう確保するかという課題と表裏一体になっている。グテレス国連事務総長はメッセージで、効率のよい冷房へのアクセスは命を救うとしたうえで、その需要を公正で持続可能な形で満たす必要があると述べた。

UNEPオゾン事務局によると、8月10日時点でモントリオール議定書の締約国は198、キガリ改正の批准は174に達した。直近ではマダガスカルが8月10日に批准している。オゾン層の破壊物質を減らす枠組みは、いまや温暖化対策の一部としても動いている。