BRICS各国の首脳は12日、インドのニューデリーで開いた第18回首脳会議で、首脳宣言「ニューデリー宣言」を採択した。宣言は中東・西アジアで緊張の高まりが続いていることに「深い懸念」を表明し、「最大限の自制」を行使するよう求めた。中国の習近平国家主席は会議に合わせて7年ぶりにインドを訪れ、同日午後にモディ首相と会談している。
BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの頭文字を並べた呼び名で始まった新興国の枠組みだ。その後に加盟国が増え、宣言も「拡大したBRICS」という表現を使っている。議長国は毎年交代し、2026年はインドが務める。宣言は協力開始から20年の節目にあたると記した。
中東情勢「事態を悪化させる行動を避けよ」 石油の流れにも言及
宣言は中東・西アジア情勢を扱った項目で、緊張の激化が続いていることに「深い懸念」を示したうえで、各国それぞれの立場を踏まえつつ「最大限の自制を行使し、事態をさらに悪化させかねない行動を避ける」よう呼びかけた。国連憲章の目的と原則に沿って民間人と民間インフラを守ること、主権と領土の一体性を尊重することも求めている。
そのうえで「世界の貿易、サプライチェーン、エネルギーの流れを円滑に保つために協力する必要がある」と明記した。これは日本にも直接関わる部分だ。中東の湾岸産油国では安全上のリスクから生産の停止が続き、国際エネルギー機関(IEA)は今年の世界の石油供給が前年から日量570万バレル減るとの見通しを示している。原油や液化天然ガスの多くを中東に頼る日本にとって、海上輸送路が滞るかどうかは価格に直結する。
中東をめぐる文言のとりまとめは難しい作業だった。会議には、米国と対立するイランの首脳と、米国と近いアラブ首長国連邦(UAE)の首脳がともに参加していたためだ。インド首相府によると、モディ氏は12日、会議の合間にイランのペゼシュキアン大統領と会談し、すべての問題は対話と外交で解決すべきだというインドの一貫した立場を改めて伝えた。あわせて航行と通商の自由、船員の安全を守る必要を強調している。同じ日にUAEのアブダビ皇太子、シェイク・ハーレド・ビン・モハメド氏とも会い、インド東部オディシャ州でUAE企業が115億ドルを投じるアルミニウム事業の進展を確認した。
一方的な関税と制裁に「深刻な懸念」
通商分野では、世界貿易機関(WTO)のルールに反する貿易制限措置が広がっていることを問題視した。宣言は「無差別な関税の引き上げや非関税措置、環境目的を装った保護主義」が世界の貿易を縮小させ、サプライチェーンを混乱させていると指摘し、「一方的な関税措置・非関税措置の増加に深刻な懸念を表明する」と書き込んだ。
制裁についても踏み込んでいる。宣言は「国際法に反する一方的な強制措置」を非難し、経済制裁や二次制裁が対象国の一般市民の人権や食料安全保障に広範な悪影響を及ぼすと主張した。国連安保理が承認していない制裁への反対を改めて確認する、との文言も入った。国名は挙げていないものの、関税と制裁を外交の手段として多用する米トランプ政権の政策が念頭にあるとみられる書きぶりになっている。
習主席「パートナーであり、ライバルではない」
習氏の訪印は、2019年10月に南部マーマッラプラムでモディ氏と非公式首脳会議を開いて以来となる。中国外交部が今月10日に発表した日程では、モディ氏の招きに応じて12〜13日の会議に出席するとしていた。両国関係は2020年に国境地域で生じた問題で冷え込んだ。転機は2024年10月、ロシア・カザンで開かれたBRICS首脳会議に合わせた会談だった。インド外務省の発表によると、モディ氏はこの場で部隊の離隔(ディスエンゲージメント)が完了したことを歓迎し、両氏は国境問題を担当する特別代表が早期に協議することで合意している。昨年8月には中国・天津で開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議に合わせて再び会談し、インド首相府の発表では、両氏が「両国は開発のパートナーであり、ライバルではない」と改めて確認した。モディ氏が2026年の首脳会議へ招き、習氏が受諾したのもこの席だ。
中国外交部の発表によると、習氏は12日の会談で「中国とインドはパートナーであり、ライバルではない」と述べ、両国関係を戦略的かつ長期的な視点でとらえてきたと説明した。習氏が挙げたのは、戦略認識の修正、互恵協力、相互尊重による摩擦要因の除去、多国間の場での協調の4点だ。この2年で両国間の対話の枠組みが順次再開し、貿易額も過去最高を更新したとも主張している。
モディ氏は、互いの発展を機会として捉えると応じ、インドは独立した外交政策を保持しており、中印関係は第三国との関係に左右されるものではないとの立場を示した。両氏が一致したのは、人的往来の拡大と直行便、国境地域の平和と安定の維持、BRICS議長国としての相互支援、そして貿易上の懸案へのバランスの取れた対応の4点だ。
インドは「特権のピラミッド」批判、安保理改革の工程表を提案
議長国としてモディ氏は冒頭の発言で、現在の国際秩序の構造を「ピラミッド」に例えた。上部に権力と意思決定が集中し、下部には決定の影響を受けながらそれを形づくれない国々がいるとして、「グローバル・サウスは世界の危機の最前列にいるが、意思決定では最後列にいる」と述べた。この「特権のピラミッド」を「パートナーシップの土台」に変えるべきだと訴えている。
具体策として、国際統治の改革に関する10の提案を各国で作り、次回の首脳会議までに「BRICS改革ロードマップ」としてまとめることを提案した。柱に据えたのは代表性、応答性、ルール形成の3点で、「国連安保理の改革はもはや先送りできない」として、条文に基づく交渉に期限と明確な成果を結び付けるべきだと主張した。宣言でも、常任理事国である中国とロシアがブラジルとインドの役割拡大への支持を改めて表明する、との一文が盛り込まれている。
モディ氏はこのほか、議長国が毎年替わっても取り組みが途切れないよう決定事項の担当部署と期限、進捗を記録する「BRICS継続・実施メカニズム」の新設と、海難や医療支援の際に各国の海事当局をつなぐ「船員緊急支援ネットワーク」の構築を提案した。宣言によると、インドの議長国としての1年間で、全国30都市で閣僚級や実務者を含む400を超える会合が開かれている。
習氏も演説で、AI分野の協力を柱とする「BRICS AI駆動型新工業化イニシアチブ」を提唱し、オープンソースを軸にした開放的な協力を各国に呼びかけた。会議は13日まで開かれる。宣言は末尾で、2027年の議長国を務め第19回首脳会議を開催する中国を全面的に支持すると記した。
