米AI企業アンソロピックは9月17日、生命科学の専門家を対象に、生成AI「Claude(クロード)」の安全制限を緩める認定制度「Life Sciences Verification Program(LSVP、生命科学検証プログラム)」を始めたと発表した。審査を通った組織には、一般提供中のモデルでは拒否される創薬や研究生物学、臨床開発、製造といった業務での利用を認める。すでに数十の組織が先行利用しており、この日から一般の申し込み受け付けを始めた。
生物学の質問が拒まれていた理由
同社は、生物分野の悪用を「フロンティアAIモデルの最も深刻なリスクの一つ」と位置づけている。9月10日に公表した悪用報告書では、2025年のClaude Opus 4やClaude Sonnet 4.5を評価した時点では、知識のない人物が既知の生物兵器を再現するのを実質的に手助けできる水準にはなかったと説明した。一方で、複雑な科学研究を補助できる現在のモデルについては「同じ保証はできない」と記している。このため同社は、最新世代のClaude Fable 5などを、デュアルユース(軍民両用=平和目的にも兵器開発にも使えること)の生物学の質問を広く制限した状態で投入していた。
制限は正規の研究者にも及ぶ。ワクチンを作るために病原体を調べる作業と、ウイルスの感染力を悪意で高めようとする作業は、質問の文面だけでは見分けがつかないためだ。同報告書には、拒否されたやり取りを制限の緩い他社モデルへ回した転売業者の例や、分類器(危険な要求かどうかを自動で判定する仕組み)に阻まれて最も性能の低いモデルしか使えなかった研究者の例が挙げられている。
「チーム用」と「案件用」の2種類
LSVPでは、申請した組織について研究者としての資格、セキュリティ体制、倫理審査の仕組みを確認したうえで、2種類の利用枠を出す。
「Standard Use」はチーム単位の枠で、基礎研究から研究開発、供給網、製造、臨床開発、品質保証、規制対応まで日常業務を広く対象とし、更新は年1回。Mythos 5.1、Opus 5、Sonnet 5で使え、今後出る新モデルにも適用される。
「High-risk Use」はStandard Useでも遮断される領域向けの追加枠で、生命科学の要求を止める安全装置をすべて外す。対象はチームではなく単一の研究プロジェクトに限り、更新は半年ごとだ。同社は、特定のウイルスベクターの一群が人の免疫経路にどう認識されるかを調べる作業を例に挙げている。Opus 5とSonnet 5では即日利用できるが、最上位のMythosについては米政府と協議中で、当面は追加審査を通った少数の組織にとどまる。サイバー攻撃の判定に使う分類器など、生物以外の安全装置は外さない。
止めるのをやめ、後から調べる
技術面の変更点は、監視を置く位置だ。従来は要求が届くたびに危険かどうかを判定して拒む「リアルタイムの遮断」だったが、LSVPでは一度通したうえで挙動の傾向を後から調べる「オフライン監視」に切り替える。深刻な悪用は多数の要求や会話に分散して互いに無関係に見せかけることが多く、その場の1問だけでは見抜けないという判断である。
代わりに、利用する側が責任の一端を負う。組織は申請時に「何に使うか」を示し、同社はその範囲から外れた使い方や傾向を検知すると、組織の管理者に通報して、あらかじめ決めた期限内の対応を求める。用途の記載は求人票に書く程度の概要でよく、機密情報や知的財産は含めないよう求めている。この監視のため、LSVPの通信データは30日間の保存が必須となる。保存したデータは区分して管理し、モデルの学習には使わず、同社の生命科学研究チームも参照できないとしている。
使えるのは法人契約のみ
利用できるのはAPIの自社コンソールと、法人向けのEnterprise・Teamプランに限られる。個人向けのProやMaxは現時点で対象外で、他社のクラウド経由でも使えない。患者の医療情報を扱うためのBAA(医療情報の取り扱いに関する契約)を結んだ組織も、ベータ版のため今回は対象から外れる。先行利用にはザイラ・セラピューティクス、エジソン・サイエンティフィック、マニフォールド・バイオが参加し、同社は最初の1週間で数百の組織が登録すると見込む。
