総務省は9月7日、地域にAIの計算設備を置いて共同で使う「地域共有型エッジAI」の実証事業について、公募の選定結果を公表した。選ばれたのは株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)と株式会社NTTドコモの2件で、いずれもAIの処理を利用者の近くに置いたときの効き目を実際の通信環境で測る内容となる。

AIの処理をどこに置くかで、応答の速さが変わる

エッジAIは、AIの計算を遠くの大規模データセンターではなく、利用者に近い場所のサーバーで行う方式を指す。通信が往復する距離が短くなるぶん反応が速くなり、回線に流れるデータの量も減る。会話のやり取りや映像の解析のように、わずかな遅れが使い勝手に直結する用途で差が出やすい。

「地域共有型」は、この設備を1社が自社専用に抱え込むのではなく、地域の複数の利用者で分け合う考え方だ。AIを動かすサーバーは高価で、稼働していない時間も費用がかかる。1件ずつ専用に整えれば負担が重い設備も、共同利用にすれば小さな事業者や自治体でも手が届く。総務省は今回の実証を「地域通信の効率化・最適化を目指すAI導入モデル」と位置づけている。

ATRは案内アバター、ドコモは無線方式の使い分け

ATRの実証は、施設の案内を担う「サイバネティックアバター」が題材だ。人の代わりに受け答えする分身を指す言葉で、ここではエッジAIで動くロボットの姿をしたアバターと、画面上のCGアバターの両方を使う。定型的な案内はAIが担当し、必要なときだけ人が遠隔から入って対応する。窓口に常時人を置かずに済むため、係員を確保しにくい施設ほど効き目が大きい形といえる。

その際、AIの処理を①遠くのクラウドで行う構成、②利用者に近い設備だけで完結させる構成、③近くの設備とクラウドで分担する構成の三つを比べる。案内の受け答えは、返事が一拍遅れるだけで会話が成り立たなくなる。一方で、複雑な質問に答えるには大きなモデルが要り、それを手前の設備だけで賄うのは難しい。処理の置き場所と通信の経路が、応答の遅れ、回答の質、利用者が感じる使い勝手にどう影響するかを数値で確かめ、導入の指針としてまとめる。同じ構成を別の地域が再現できるようにする狙いがある。

ドコモは、通信方式そのものに目を向ける。5Gや、企業や自治体が自前で免許を取って使うローカル5G、ミリ波、Wi-Fiといった無線をひとまとめに用意し、どの方式からでもエッジAIを使える実証環境を構築する。題材となるのは、ウェアラブル端末のように計算能力を割り切った簡素な機器だ。手元では処理しきれないAIの計算を近くのサーバーに肩代わりさせ、産業分野で使い物になるかを見極める。

無線の方式によって、遅れの大きさも一度に送れるデータ量も異なる。作業員が身につける端末で映像をAIに判定させるような使い方では、どの方式なら実用になるのかが分からなければ設備の設計に踏み出せない。ドコモは提案の中で、無線環境ごとの特性と性能を理解して実証することが、エッジAIが社会に広がる足がかりになると説明している。

人手不足の地域を想定した施策の一部

この公募は、総務省が進める「地域社会DX推進パッケージ事業」の一部にあたる。人口減少と少子高齢化、経済構造の変化が重なる中で、デジタル技術の導入によって仕事の手間を減らし、地域を立て直すことを狙った施策で、デジタルに詳しい人材や体制づくりの支援、AIや自動運転といった先進技術の実証支援、地域の通信設備の整備補助を束ねている。

公募は7月1日に始まり、7月10日にオンラインの説明会を開いたうえで、7月31日午後5時に締め切られた。事務局は総務省の請負事業として株式会社サイバー創研(東京都港区)が務めた。選定されたのは2件にとどまり、大がかりな普及策というより、まず効果と条件を測る段階にある。

政府は7月14日、AI政策の方向を定める「人工知能基本計画(第Ⅱ期)」を閣議決定しており、AIを研究の段階から実際の現場へ移すことに重心を置いている。今回のように通信の整備とAIの実証を組み合わせる手法は、その流れに沿ったものだ。

生成AIの利用が広がる一方で、処理を大規模なデータセンターに集めれば通信も電力も混み合う。AIを動かす場所を利用者の手前に分散させる発想は、その混雑を和らげる方策として各国で検討が進む。地方にとっては、都市部の大規模施設に頼らずAIを使う道があるかどうかという話でもある。今回の実証は、その効き目を国内の地域環境で数値として示せるかどうかにかかっている。