米航空宇宙局(NASA)は11日、月探査計画「アルテミス」で得られる月の岩石試料や観測データ、研究成果を国際的な科学界に広く公開する方針を表明した。7月28日から9月8日にかけて2部構成のオンライン研究会を開き、「科学データを速やかに公開する」というアルテミス合意の原則を、各国が実務で使える形に落とし込む作業を進めた。

「データも道具も無償で使えるようにする」

NASAのジェイコブ・ブリーチャー主席探査科学者は「月に人類を送り返すにあたり、アルテミスの取り組みは透明性と協働、利用しやすさを通じて科学的発見の可能性を最大限に引き出す助けになる」と述べ、「データと道具、成果を無償で利用できるようにし、アルテミス合意の参加国にも自分たちのデータを共有して一緒に新しいものを生み出すよう呼びかけている」と説明した。

研究会は2回に分けて開かれた。1回目はオープンサイエンスの原則と実践の手順を扱い、2回目はそのための道具立てを取り上げた。NASAは惑星科学データの主要な保管庫の一つである「惑星データシステム(PDS)」や、公開中の月のデータ、可視化・解析の道具、データの記述方式の標準を示し、自らがどうデータを整理し保存し公開しているかの実例を提示した。オンライン開催としたのは、世界各地の技術者が時差を越えて参加できるようにするためだという。

NASA科学ミッション本部のアンドリュー・ミッチェル科学データ最高責任者代理は「技術の進歩はオープンサイエンスを可能にするが、技術だけでは足りない」と指摘し、「より透明で協働的な科学の進め方への転換が要る。それが科学の進歩の速さと質を高める」と語った。今回の研究会は、5月にインド宇宙研究機関(ISRO)が主導した議論を引き継ぐ形で開かれた。

8か国から72か国へ 日本は最初の署名国の一つ

アルテミス合意は、月や火星などの探査で各国が守る行動原則をまとめた枠組みだ。2020年、月での活動に各国政府と民間企業の関心が高まるなか、NASAと米国務省が他の7か国とともに立ち上げた。他国の活動を妨げないこと、歴史的に重要な場所や遺物を保全する手順を定めることなどを各国が約束する。宇宙条約や登録条約、宇宙救助返還協定といった既存の国際条約を土台にしている点が特徴で、条約そのものではなく、締約国が実際に行動する際の共通のやり方を示すものと位置づけられている。

署名国は着実に増えている。NASAによると、8月31日にトルコが71番目の署名国となった。さらにNASAは10日、ジブチが14日午前11時(米東部時間)にワシントンのNASA本部で署名し、72番目の署名国になると発表した。式典はマット・アンダーソンNASA副長官が主催し、ジブチのモハメド・シアド・ドゥアレ駐米大使を迎える。米国務省のフランク・ガルシア・アフリカ担当次官補も同席する。発足時の8か国から6年で9倍に広がった計算になる。

日本は、その最初の8か国の一つだ。文部科学省によると、日本は2020年10月、米国、オーストラリア、カナダ、イタリア、ルクセンブルク、アラブ首長国連邦、英国とともにアルテミス合意に署名した。今回NASAが打ち出したデータ公開の方針は、月の試料や観測データを国内の研究機関や大学が使える範囲を広げることにつながる。