在日中国大使館は11日、中国を訪れる日本国籍の申請者から受け取るビザ(査証)の料金を、9月14日に受け付ける分から引き上げると発表した。1回だけ入国できる「シングル」は2250円から1万6750円になり、7倍を超える。大使館はお知らせの冒頭で「相互主義に基づく対応」と理由を記している。
4種類すべてが6倍以上に
値上げは日本国籍の申請者に限った措置で、ビザの4種類すべてが対象となる。2回入国できる「ダブル」は3750円から2万5100円、半年間に何度でも入国できる「半年マルチ」は4500円から3万3500円、1年間に何度でも入国できる「一年マルチ」は7500円から5万250円になる。上げ幅が最も大きいシングルと半年マルチは、いずれもおよそ7.4倍だ。
値上げの対象は国籍で切り分けられている。今回のお知らせは但し書きで「第三国国民の査証については、従前の料金が適用されます」と記しており、日本以外の国籍の申請者の料金は据え置かれる。なお、値上げ前の料金を定めていた大使館のお知らせは、本稿を更新した2026年10月8日の時点では大使館のサイトから参照できず、改定前の額の内訳は確認できていない。
9月14日より前に受け付けたビザ申請には、従来の料金が適用される。
日本側は7月に5倍 中国では715元
中国側が挙げた「相互主義」の相手にあたるのが、日本の手数料改定だ。「領事官の徴収する手数料の額を定める省令」(昭和27年外務省令第4号)の改正が2026年7月1日に施行され、日本の在外公館が外国人から受け取るビザ手数料が大幅に上がった。施行日は、領事官の徴収する手数料に関する政令の一部を改正する政令(令和8年政令第204号)の施行日に合わせて決められている。
この省令は徴収額を国・地域ごとに現地通貨で定めている。中国にある日本大使館・総領事館の場合、1回入国にあたる「一般入国査証」は145元から715元へ、複数回入国の「数次入国査証」は285元から1430元へと、いずれもおよそ5倍になった。日本側の上げ幅がおよそ5倍だったのに対し、中国側は6.7倍から7.4倍にあたる。
5倍は中国だけではない 省令の別表を並べると
改定前と改定後の省令の別表を並べると、7月の引き上げが中国向けに限られたものではないことがわかる。一般入国査証の額は、どの国でもほぼ同じ倍率になっている。
大韓民国では2万7000ウォンから13万6000ウォンへ(約5.04倍)、タイでは670バーツから3340バーツへ(約4.99倍)、中国の香港特別行政区では160香港ドルから790香港ドルへ(約4.94倍)になった。アジア以外でも同じで、アメリカ合衆国は20ドルから101ドルへ(約5.05倍)、カナダは28カナダ・ドルから140カナダ・ドルへ(5倍)である。中国の145元から715元は約4.93倍で、この並びの中に収まっている。数次入国査証も同様に、中国の285元から1430元(約5.02倍)、米国の40ドルから201ドル(約5.03倍)と、一般入国査証のほぼ2倍の額を保ったまま引き上げられた。
別表は国・地域ごとに現地通貨建てで額を定める仕組みで、今回の改定はこの表全体をおよそ5倍に置き換えるものだった。一方、中国側が9月14日から適用する新料金は日本国籍の申請者だけが対象で、第三国籍の申請者は従前の料金に据え置かれる。同じ「相互主義」でも、日本の改定が全世界一律だったのに対し、中国の対応は相手国を特定した形になっている。
なお日本側の省令にも、施行日前に申請を受け付けた分には従前の手数料を適用するという経過措置が附則に置かれている。中国大使館が「9月14日以前に受理した査証申請については、従前の料金が適用されます」としているのと同じ形だ。
外交部「対等の原則に基づく取り決めだ」
中国外交部の毛寧報道官は11日の定例記者会見で、共同通信記者から値上げについて問われ、「中国の駐日大使館がすでに通知を発表した。今回の調整は対等の原則に基づいて行われた取り決めだ」と答えた。日本側の改定を批判する言葉は使わず、回答は2文にとどまった。
観光客の多くは対象外 ただし免除は12月31日24時まで
料金が7倍になっても、日本から中国へ渡る人の大半はすぐには影響を受けない。中国政府は日本を含む45か国に対する一方的なビザ免除を2026年12月31日24時まで延長しており、商業・貿易、観光、親族訪問、交流・訪問、トランジットを目的に30日以内滞在する一般旅券の保持者はビザなしで入国できる。大使館のお知らせは、この条件に当てはまらない人は「引き続き入国前に中国ビザを取得する必要があります」としている。
つまり、今回の値上げが効いてくるのは、30日を超える滞在や、就労・留学のように免除の条件から外れる渡航だ。長期出張や駐在の手続き、留学生の入学準備など、企業や学校が負担する場面で費用が増える。日中間の摩擦が企業の実務に及んでいるという認識は、中国の王毅氏、岩屋前外相に台湾答弁の「早急な是正」を要求 日本国際貿易促進協会の会長として北京で会見 高市首相は国会で「撤回の必要はない」と答弁しているのとおり、対中経済団体の側も公表している。
見落とせないのは、この免除が期限付きだという点だ。免除を定めたお知らせは「2026年12月31日24時まで延長することを決定した」と期限を明示しており、2027年以降の扱いには触れていない。本稿を更新した2026年10月8日の時点で、大使館の「お知らせ」と「中国査証」の一覧に2027年以降の扱いを示す発表は出ておらず、再び延長されるのかどうかは確認できていない。
延長がなければ、いまビザなしで行けている30日以内の観光や短期の出張も、ビザを取る対象に変わる。そのときに払うのがシングルの1万6750円だ。値上げが誰に効く話なのかは、12月末を境に大きく変わりうる。残り3か月足らずの時点で、2027年の扱いはまだ示されていない。
新しい料金は9月14日の受理分から適用される。中国大使館は、それ以前に受け付けた申請には従前の料金を使うとしている。
免除の45か国 東アジアは日本と韓国だけ
免除のお知らせには対象国のリストが載っている。数えると45か国で、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペインから始まり、欧州の国が大半を占める。欧州以外では、オーストラリアとニュージーランド、ブラジル、アルゼンチン、チリ、ペルー、ウルグアイの南米5か国、サウジアラビア、オマーン、クウェート、バーレーンの4か国が並ぶ。
東アジアから入っているのは、日本と韓国の2か国だけである。中国が一方的に入国の壁を下げた相手の中で、日本は数少ないアジアの国にあたる。入国そのものは無料で認めたまま、ビザが必要な層の料金だけを7倍にした、という形の措置だ。
就労・留学のビザは、指紋採取の免除からも外れる
ビザが必要な人の負担は、料金だけではない。中国大使館は2025年12月30日、申請手続きの簡略化として、2026年12月31日までの期間、滞在期間180日以内の短期ビザ申請者に対して指紋採取を免除すると公表している。
ただし、この簡略化には除外が置かれている。お知らせは「Dビザ、J1ビザ、Q1ビザ、S1ビザ、X1ビザ、Zビザなど中国入国後に居留書類の取得が必要なビザ申請者について、引き続き規定に基づいて指紋採取を行います」としている。中国に着いてから居留の手続きをする種類のビザ、つまり長期の滞在を前提にした渡航で、今回の値上げが効いてくる層とおおむね重なる。
結果として、短期で行く人は免除でビザそのものが要らず、ビザを取るとしても指紋採取が省ける。一方、長く滞在する人には7倍の料金と指紋採取の両方が残る。簡略化と値上げは、同じ線で渡航者を分けている。
申請の窓口も変わっている。大使館は2025年6月30日に中国ビザのオンライン申請を始め、それまで使っていた申請システムを同時に停止した。申請事項の記入と書類の提出をオンラインで行い、進捗もアカウントから確認する仕組みで、2025年6月29日23時59分までに旧システムで提出を終えた申請は、7月4日15時までに東京ビザ申請センターへ書類を持ち込む必要があるとしていた。
就労ビザの費用が国の政策で動く例は中国に限らない。米、H-1Bビザの「10万ドル」支払い義務を1年延長 2027年9月21日まで 大手IT派遣の登録は2万4946件から2055件へのように、申請1件あたり10万ドルという桁違いの負担を課す動きも出ている。
「対等」という言葉は、料金の引き上げだけでなく関税を下げる場面でも使われる。米中首脳会談の成果、両政府の公表文が食い違う 同じ枠組みを米国は「超知能(SI)対話」、中国は「人工知能対話」と記す 石炭1000万トンとレアアースは中国側の8項目に無し では、双方向それぞれ300億ドル分の品目で関税を引き下げる取り決めに、中国側が「対等」の語を当てている。
