日本赤十字社は10月1日から、新しい献血基準の運用を始める。変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)への対策として1999年から続いてきた「欧州等滞在歴」による献血制限が撤廃され、1980年以降に英国や欧州の対象国へ一定期間滞在したことを理由に献血を断られてきた人が、献血できるようになる。ヒト胎盤エキス(プラセンタ)注射剤の使用歴による制限も、期間を定めない不可から「最終使用日から3か月」へ緩められる。

厚生労働省は日本赤十字社に対し、令和8年1月15日付の医薬局長通知(医薬発0115第3号)で制限の撤廃を速やかに実施できるよう体制を整えるよう求めていた。9月28日に開かれた薬事審議会血液事業部会の運営委員会に日本赤十字社が提出した資料によると、10月1日の受け入れ開始に向けて8月から社内の教育訓練を実施してきたという。

英国は「1か月以上」、フランスやドイツは「6か月以上」が対象だった

撤廃される制限の中身は、滞在した国によって細かく分かれていた。厚生労働省がまとめた一覧によると、英国は1996年までの滞在なら通算1か月以上、1997年からの滞在なら通算6か月以上が対象で、滞在時期は1980年から2004年までとされていた。

アイルランド、イタリア、オランダ、スペイン、ドイツ、フランス、ベルギー、ポルトガル、サウジアラビアの9か国は通算6か月以上、スイスは同じく6か月以上でこちらは1980年以降の滞在すべてが対象だった。さらにオーストリア、ギリシャ、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ルクセンブルクの6か国と、アイスランド、チェコ、ハンガリー、ポーランド、ノルウェー、ルーマニアなど21か国は通算5年以上が対象で、この5年を数えるときは英国やフランスなど上位区分の国の滞在日数も足し合わせる決まりだった。

つまり、1980年以降に英国へ1か月を超えて留学や駐在で滞在した経験がある人は、その後どれだけ時間が経っていても献血できなかった。10月1日からは、この理由だけで断られることはなくなる。

国内の発症は2005年の1例のみ 研究班は「患者は増加しない」と結論

制限が始まったのは1999年である。英国を中心に牛海綿状脳症(BSE)が流行し、輸血を通じてvCJDが伝わる可能性が指摘されたため、1980年から1996年に英国へ6か月以上滞在した人を対象に献血を見合わせる扱いが始まった。

2005年に国内で初めてvCJDの症例が確認されると、基準は強化された。この症例は英国に24日間程度、フランスに3日間程度の滞在歴があったため、英国滞在の基準は「1日以上」まで引き下げられた。2006年にはプラセンタ注射剤の使用歴が制限に加わっている。その後、2010年に英国の基準は「1日以上」から「1か月以上」へ緩和され、2022年以降は米国やオーストラリアなどで欧州滞在歴による制限の撤廃が進んだ。

撤廃の判断を支えたのは、国の研究班による推計である。令和5〜6年度の厚生労働科学研究「安全な血液製剤の安定供給に資する適切な採血事業体制の構築のための研究」(代表・大隈和 関西医科大学教授)が、日本独自の数理モデルを使い、BSEの流行でvCJD発生リスクが高かった1980年から1996年までの17年間に英国へ1か月以上滞在した日本人について、献血を起点とした感染リスクを推計した。最大のリスクを想定した条件を含む複数の筋書きで評価した結果、英国滞在歴に基づく制限を撤廃しても、それによって国内のvCJD患者が増えることはないと結論づけられた。

国内でvCJDの発症が報告されているのは2005年の1例だけで、それ以降は新たな発生の報告がない。英国でも、輸血によるvCJD感染は2006年、輸血以外によるvCJDの発症は2016年が最後だと厚生労働省は説明している。

プラセンタ注射剤は「期間の定めなし」から「3か月」へ

ヒト胎盤エキス(プラセンタ)注射剤の使用歴による制限も、同じ10月1日に変わる。これまでは、使用したことがある人からの採血を「当分の間」見合わせるとされ、過去に使った人すべてが対象で期間の定めもなかった。事実上、一度使えばその後は献血できない扱いである。

10月1日からは、最終使用日から3か月間は献血を遠慮してもらい、3か月が過ぎれば献血できるようになる。ほかの特定生物由来製品と同じ扱いに合わせた形だ。国内で製造販売されているのは、更年期障害と乳汁分泌不全に保険が使えるメルスモンと、慢性肝疾患の肝機能改善に保険が使えるラエンネックの2製剤である。

帰国後4週間の制限は続く 20代・30代の献血者は減少

制限がすべて無くなるわけではない。海外で感染症にかかったまま帰国する可能性を考えて、帰国日(入国日)当日から4週間以内は献血できない扱いが続く。孤発性および家族性のクロイツフェルト・ヤコブ病、ヒト成長ホルモン剤の使用、角膜移植、硬膜移植などの既往についても引き続き問診が行われ、該当する場合は献血を遠慮してもらう。最終的に献血できるかどうかは、当日の問診と健診医の判断による。

日本赤十字社が運営委員会に示した令和7年度の実績によると、献血者数は合計500万人で、内訳は全血献血が343万人、血漿成分献血が99万人、血小板成分献血が57万人だった。年代別では10代が21.5万人で前年度から0.3万人増えた一方、20代は65.1万人で1.1万人減り、30代は69.3万人で1.5万人減っている。輸血用の血液製剤は長期間の保存ができず、年間を通じて継続的に献血を受け入れなければ安定した供給ができない。

なお、欧州等の渡航歴に関する献血後情報への対応、つまり後から渡航歴が判明した場合に輸血用血液製剤や原料血漿の供給・送付を止めたり回収したりする措置は、9月30日で終了する。日本赤十字社は、制限の撤廃後に実際に何人が献血に訪れたかを検証する予定だとしている。