厚生労働省は9月25日、日本へ中長期間滞在しようとする外国人に入国前の結核検査を求める「入国前結核スクリーニング」を、インドネシア国籍の人にも広げると発表した。2026年11月2日に現地の指定健診医療機関で健診の受付を始め、2027年1月4日から在留資格認定証明書の交付申請や査証(ビザ)の申請時に「結核非発病証明書」の提出を義務付ける予定だ。担当は健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課の結核対策推進室である。

対象国はフィリピン、ネパール、ベトナムに続いて4か国目になる。日本の結核対策は高齢者向けの健診強化と、この入国前健診の二本立てで進んでいる。なぜ入国前の段階で検査を求めるのか、いまの結核患者の内訳から順に見ていく。

胸部レントゲンで「発病していない」ことの証明を求める

制度の中身は、入国前に胸部エックス線検査などを受け、結核を発病していないことの証明を出させるものだ。

流れは3段階になる。まず申請者が対象国にある指定健診医療機関で医師の診察と胸部レントゲン検査を受ける。検査で結核を発病していないと判断されれば、その医療機関が「結核非発病証明書」を発行する。申請者はその証明書を、在留資格認定証明書の交付申請時か、在外公館での査証申請時に提出する。証明書の有効期間は、胸部レントゲン撮影を実施した日から原則180日である。

結核を発病していると診断された場合は、治療を終えたあとに指定医療機関で改めて検査を受け直す必要がある。

対象になるのは、対象国の国籍を持ち、中長期在留者として日本に入国・在留しようとする人だ。中長期在留者とは、入管法第19条の3に定める区分で、3か月以下の在留期間しか決まっていない人、短期滞在の人、外交・公用の人などを除いた在留者を指す。再入国許可を持つ人は除かれる。ほかに特定活動告示第53号・第54号にあたるデジタルノマドとその配偶者・子も対象になる。ただし滞在許可証などで現在の居住地が対象国以外だと確認できる場合は対象から外れる。

法律の裏付けは出入国管理及び難民認定法第5条第1項第1号にある。同号は、結核を含む二類感染症の患者は日本に上陸できないと定めており、外務省の「ビザの原則的発給基準」でもビザを発給しないこととされている。入国前健診は、その要件を入国前の段階で確かめる仕組みという位置づけだ。

対象6か国のうち4か国目 ミャンマーと中国は調整中

対象国の追加は段階的に進んでいる。特設サイトによると、これまでの日程はこうなっている。

対象国 健診受付の開始 証明書の提出義務付け
フィリピン 2025年3月24日 2025年6月23日
ネパール 2025年3月24日 2025年6月23日
ベトナム 2025年5月26日 2025年9月1日
インドネシア 2026年11月2日(予定) 2027年1月4日(予定)
ミャンマー・中国 開始に向け調整中 開始に向け調整中

指定健診医療機関の数はフィリピンが5施設、ネパールが8施設、ベトナムが14施設である。インドネシアの施設数は現時点では公表されていない。

6か国という枠は偶然ではない。厚生労働省が2024年12月26日の厚生科学審議会結核部会に出した資料によると、日本の外国生まれ結核患者の約8割を、フィリピン、ベトナム、インドネシア、ネパール、ミャンマー、中国の6か国が占めている。外国生まれの新登録患者数の上位6か国は2016年以降この6か国で固定されており、そこから制度を導入する方針がとられた。

制度の議論自体は新しくない。同じ資料によると、2018年2月の結核部会で上位6か国からの長期滞在者を対象に導入する方針が示され、2020年3月には関係各所へ実施の通知が出て同年7月1日以降に準備の整った国から始める予定だった。だが新型コロナウイルスの水際対策で入国者が激減し、開始は見送られた。2023年5月8日に水際対策が終わって入国者が戻り、外国生まれの患者の増加が目立ってきたことで、導入が改めて急がれた形である。入国前健診は米国、カナダ、オーストラリア、英国、ニュージーランド、韓国などでも条件や方法を変えて実施されている。

患者総数は減っているのに、外国生まれだけが増えている

なぜ入国前に検査するのか。答えは患者の内訳にある。

2025年の結核登録者情報調査年報によると、2025年に新しく結核患者として登録された人は9899人で、前年より152人(1.5%)減った。人口10万人当たりの罹患率は8.0で、前年の8.1から0.1下がった。罹患率が10.0以下という「結核低まん延国」の水準は2021年以降続いている。結核による死亡数は1474人(概数)で、前年の1462人から12人増えた。

減り続ける総数の内側で、逆向きに動いている数字がある。外国生まれの新登録患者数は2352人で、前年の1980人から372人(18.8%)増えた。新登録患者全体に占める割合は、前年の19.7%から23.8%に上がっている。一方で日本生まれの新登録患者数は7400人で、前年の7911人から511人(6.5%)減った。総数が減ったのは日本生まれの患者が減ったためで、外国生まれは4年続けて増えている。

年齢別に見ると差はもっと鮮明になる。

年齢階級 外国生まれの新登録患者数(2025年) その年齢階級の新登録患者に占める割合
15〜19歳 99人 86.1%
20〜29歳 1483人 91.1%
30〜39歳 421人 73.3%
40〜49歳 143人 31.3%
80歳以上 30人 0.7%

20代の新登録結核患者は9割超が外国生まれである。同じ年齢階級の日本生まれの患者は141人しかいない。逆に80代以降はほぼすべてが日本生まれで、日本生まれの患者7400人のうち2634人(35.6%)が80〜89歳に集中している。若い世代の結核と高齢者の結核が、別の集団で起きているということだ。外国人人口が増え続けている流れとも重なる(外国人人口が391万7千人、1年で30万1千人増 総人口の3.19%に 日本人の働き手49万5千人減のうち27万3千人を埋める)。

入国から5年以内が62.5% だから「入国前」で捕まえる

入国前に検査する理由がはっきり出ているのが、入国からの経過年数である。

2025年の外国生まれ新登録患者2352人のうち、入国から5年以内の人は1470人だった。前年の1166人から304人(26.1%)増え、外国生まれの患者に占める割合は62.5%になった。最も患者数の多い20〜29歳では、入国5年以内が1133人で、同じ年齢階級の外国生まれ患者の76.4%を占める。

つまり外国生まれの患者の6割超は、来日してから数年のうちに発病している。日本に長く住んだ結果として発病するのではなく、入国時点で感染していた結核が国内で発病する形が多い。入国前の段階で発病者を見つけようとするのは、この分布に対応した設計である。

ただし発病前の感染は胸部レントゲンには写らない。厚生労働省の資料も、結核の潜伏期間が大半で半年から2年であることを踏まえ、制度開始から3年を目途に必要な見直しを検討するとしている。効果の測り方としては、この制度で見つかった結核患者の数、外国生まれ新登録患者数の推移、集団発生事例の初発患者のうち入国前健診を受けていた人の割合などを把握する予定だという。入国前の1回の検査で防げる範囲には限りがあり、そこを見込んだ制度になっている。

大阪府が患者数・罹患率とも最多

地域差も大きい。2025年の都道府県別の新登録結核患者数は、大阪府が1172人で最も多く、東京都が1101人で続く。47都道府県のうち19で前年から増えた。

罹患率では大阪府が13.4で最も高く、徳島県、岐阜県、鹿児島県、兵庫県が続く。最も低い山梨県は4.5で、大阪府はその3.0倍にあたる。低まん延の水準である10.0以下となった都道府県は42に達した。結核は全国に薄く広がる病気ではなく、都市部と一部の県に偏って残っている。

なお、外国人の受け入れ現場での健康管理や労務管理の実態については、労働基準監督署の監督結果にも表れている(技能実習生を使う職場、73.2%で労働法令違反 特定技能は76.5% 建設業は8割超 厚労省が2025年の監督結果)。入国前に発病者を見つける仕組みと、入国後に健康を保てる環境があるかは別の問題として残る。

厚生労働省は、インドネシアの詳細について「入国前結核スクリーニング特設サイト」で改めて案内するとしている。残るミャンマーと中国の開始時期は、現時点では公表されていない。