内閣府は7月24日に公表した令和8年度年次経済財政報告(経済財政白書)で、日本企業が使っている生産設備の「古さ」を試算し、足元では日米英独仏伊加の7か国の中で最も古い水準になったとの分析を示した。2000年代後半から急速に古くなっており、白書は設備投資が長く伸び悩んだ結果だとみている。
「資本のビンテージ」とは何か
白書が使ったのは「資本のビンテージ」という指標だ。工場の機械や建物といった生産のための設備が、導入されてから平均してどれだけの年数を経ているかを示す。年数が短ければ設備は新しく、劣化が少なく新しい技術にも対応している。逆に年数が長ければ、傷んでいたり最新技術に追いつけていなかったりして、生産性を高める力が弱いと考えられる。
試算は国際通貨基金(IMF)の資本ストック統計と経済協力開発機構(OECD)のデータを使い、1970年末の年数を7か国一律で8.2年と仮定したうえで、その後の設備投資と設備の減耗を積み上げて算出した。白書によると、日本は戦後の高度成長期に旺盛な設備投資を続けたため、2000年代前半までは年数が短い状態を保っていた。ところが2000年代後半から急上昇し、今では7か国で最も長い。
インフラ産業ではっきり、自動車は横ばい
業種ごとの姿は一様ではない。白書は経済産業研究所の「JIPデータベース」で日本の産業を99業種に分け、1994年から2024年までの推移を推計した。上水道業や電気業などインフラ産業では年数がはっきりと延び続けている。素材業種も横ばいから緩やかな上昇だ。
一方、自動車工業や生産用機械工業は、モデルチェンジや新技術への対応で設備を入れ替えているため横ばい圏内を維持している。電子・電気機器工業や半導体素子・集積回路工業は、短くなったり長くなったりと波を描く。好調なときに投資し、業績が落ちると設備更新を見送る動きが読み取れる。白書は、公共性の強いインフラ産業についても「長期的な視野の下で設備投資を促す取組を進めていく必要があろう」と記した。
設備が古くなることの代償も数字で示した。同じJIPデータベースで、設備の年数の変化と、設備がどれだけ役に立っているかを表す「資本の質指数」の変化を業種ごとに並べたところ、年数が1年延びると質の指数が0.029下がる関係が確かめられた。統計的にも1%の水準で意味のある関係だという。
手元資金は厚いまま
設備が更新されない一方で、企業の手元資金は積み上がっている。白書によると、2024年度末の企業の現預金保有残高は日本銀行の資金循環統計で364兆円、財務省の法人企業統計で301兆円だ。両者の差は集計の定義や推計手法の違いによるもので、資金循環統計から見れば企業は定期預金だけで63兆円を持つ。
白書は、借入を避けて現預金を抱え込む傾向が広がれば、経済全体の設備の蓄積を鈍らせ、成長を押し下げかねないと分析した。2022年ごろから物価が上がり、手元に置いた現金の価値は実質的に目減りしている。2024年ごろからは政策金利の引き上げで借入の費用も上がってきた。企業の調達金利は上昇しているものの、予想物価上昇率を差し引いた実質の金利はなおマイナス圏にあり、白書は金融環境は依然として緩和的だと評価している。
年次経済財政報告は経済財政政策担当大臣が国会などに報告する年1回の分析で、今年は「成長型経済への本格的移行に向けた課題」を副題に掲げた。第3章では、この設備の古さと手元資金の厚さを合わせて、資金を投資に振り向ける経営への転換を課題に挙げている。
