政府は7月10日夕、首相官邸で第85回の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)を開き、「統合イノベーション戦略2026」の案を取りまとめた。議長の高市早苗首相は「技術で勝ってビジネスでも勝つ」ためには「科学研究」と「社会実装」を一体で進める必要があるとして、2027年度(令和9年度)の概算要求で「研究費の実質倍増」を目指す考えを示した。首相は自身のXにも「本年3月に閣議決定した第7期『科学技術・イノベーション基本計画』の初年度の重点施策である『統合イノベーション戦略2026』の案を取りまとめました」と投稿した。
「統合イノベーション戦略」とは何か
科学技術政策には、5年ごとに大枠を定める「科学技術・イノベーション基本計画」がある。今年3月27日に閣議決定された第7期計画がそれにあたり、今後5年間の方向を示す。ただ、5年分の計画をそのまま各省庁に投げても予算はつかない。そこで政府は毎年、その年に何をどこまでやるかを具体的に書き下ろす年間の実行計画を作る。それが「統合イノベーション戦略」で、2026年版は第7期計画の初年度分にあたる。CSTIは首相を議長に関係閣僚と有識者議員で構成する、科学技術政策の司令塔にあたる会議だ。
科研費と運営費交付金、「実質倍増」の中身
首相が挙げた「研究費の実質倍増」は、物価の上昇分を差し引いてもなお2倍にする、という意味合いを持つ。名目の金額が増えても、資材費や人件費の高騰に食われれば実際に回せる研究は増えない。ここで名指しされたのが、科研費と大学の運営費交付金である。
科研費は、研究者が自ら立てたテーマを申請し、審査を通ったものだけに配分される競争的資金だ。申請しても採択されるのは一部で、これが取れるかどうかが、とくに若手が研究を続けられるかを左右してきた。運営費交付金は、国立大学の人件費や光熱費など日々の運営を支える基盤的な経費にあたる。法人化以降の抑制で任期付きポストが増え、研究時間が削られたとの指摘が長く出ていた部分でもある。「攻め」の競争的資金と「守り」の基盤経費の両方を挙げた点に、現場の実情を踏まえた形跡がうかがえる。
ただし、概算要求は各省が財務省に「これだけ欲しい」と示す要求段階にすぎない。年末の予算編成で削られれば実質倍増は絵に描いた餅になる。財源の裏づけをどう示すかが、この戦略の実効性を測る最初の関門になる。
研究開発税制とSBIR、企業側も動かす
首相は、改正産業技術力強化法によって抜本強化された研究開発税制を2027年度から施行し、企業や大学に活用を促すとも述べた。研究開発税制は、企業が研究開発に使った費用の一部を法人税から差し引ける仕組みで、民間の研究投資を後押しする狙いがある。
もう一つが「SBIR制度」の抜本拡充だ。SBIRは中小企業技術革新制度の略称で、政府が新興企業や中小企業の製品・サービスを率先して買うことで、実績のない技術に最初の顧客をつける仕組みを指す。技術はあっても取引実績がないために売れない、という新興企業の壁を、公共調達で崩す発想だ。政府はこのほか、戦略分野を中心とした新たな大学群の形成も進めるとしている。
高市首相は10日、同じ官邸で「創薬力向上のための官民協議会」も開いており、科学技術と産業をつなぐ政策を相次いで動かしている。首相は会議で「『強い経済』の基盤となるのは、優れた科学技術力」だとして、「新技術立国」の実現に政府一体で取り組むと締めくくった。戦略案は今後、正式な決定を経て2027年度予算の編成に反映される。