自民党のAI・デジタル社会推進本部(本部長・平井卓也衆院議員)は10月13日に初会合を開き、米AI開発企業アンソロピック(Anthropic)の共同創業者ジャック・クラーク氏から、AIを用いたサイバー攻撃などについて聞き取りを行った。党が10月15日に公式サイトで明らかにした。本部が最初の会合で取り上げたのは、AIが攻撃の道具になる危険への備えだった。

平井本部長「AIへの危機感は世代で変わる」

党の発表によると、平井本部長は会議の冒頭で、最近のサイバー攻撃ではAIが使われている可能性が極めて高いと指摘した。そのうえで「AIを当たり前のように使用している世代とそうではない世代では、AIに対する感性や危機感は変わってくる」と述べた。

クラーク氏は、AIを用いたさまざまな攻撃の手口や、今後のAIの進化について、実例を交えて説明した。党の発表は、クラーク氏が挙げた個別の事例の中身までは明らかにしていない。

出席議員からは、アンソロピックと政府の国家サイバー統括室、日本のAIセーフティ・インスティテュート(AISI)との連携を強めるよう求める意見が出た。今後、最先端のAIがサイバー攻撃に使われることへの深刻な懸念も示されたという。

党はこの会合の内容を、10月16日配信のメールマガジンでも同じ文面で紹介した。発表の全文は党の機関紙「自由民主」のインターネット版に掲載されている。

攻撃の8〜9割をAIが実行した事例

AIがサイバー攻撃にどう使われているのかについて、アンソロピックはこれまで自社のAI「Claude(クロード)」が悪用された事例を公表してきた。

同社が2025年11月に公表した報告によると、同社は2025年9月中旬、不審な動きを検知した。調べたところ、中国の国家が支援するグループと「高い確度で」判断される攻撃者が、同社のプログラミング支援ツール「Claude Code」を操り、世界のおよそ30の組織への侵入を試みていた。狙われたのは大手IT企業、金融機関、化学メーカー、政府機関で、少数ながら侵入に成功した例もあった。

攻撃者は、悪意のある目的を伏せたまま作業を一見無害な小さな作業に分け、AIには「正規のセキュリティー会社の社員として防御のテストをしている」と思い込ませていた。同社によれば、作戦全体の80〜90%をAIが担い、人間が判断を下したのは1回の作戦あたりおおむね4〜6か所だった。攻撃が最も激しい時には、AIが1秒に複数回の要求を出すこともあったという。同社は「人間の大きな関与なしに実行された大規模サイバー攻撃として、記録された初の事例」との見方を示した。検知後の10日間で関係アカウントを停止し、被害を受けた組織への通知や当局との連携を進めた。

侵入先は20を超す組織に

同社は2026年9月にも、2025年12月から2026年8月までに遮断した悪用事例をまとめた報告書を公表した。対象はサイバー攻撃、世論工作、監視、詐欺など7分野にわたる。

報告書によると、ロシアの国家的な諜報活動とみられるグループは、AIで組んだ作業手順を使い、攻撃用の道具の開発からフィッシングメールの送信、侵入先との通信の維持、データの持ち出しまでを自動化していた。標的として確認された組織は20を超え、ウクライナや欧州の政府機関、防衛・情報機関、大使館、シンクタンク、防衛産業の企業が含まれた。中東や、アジアの海事関連の政府機関にも及んでいた。

同社はこうした事例を公表する理由について、AI開発者や政府、市民社会が脅威の形をつかみ、防御を強める助けにするためだと説明している。詳しくは、本紙の「Anthropic(アンソロピック)、Claude悪用の遮断事例を公表 ロシア諜報が20超の組織に侵入 中国側の実行役は湖南省の大学生2人 侵害は2〜3時間で完了」で伝えている。

国家サイバー統括室とAISIとは

議員が連携先として名前を挙げた2つの組織は、いずれもここ数年で整えられた政府の拠点だ。

国家サイバー統括室(NCO)は内閣官房に置かれ、サイバー安全保障分野の政策を一元的に総合調整する組織だ。前身は2015年1月に設置された内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)だ。2022年12月に閣議決定された国家安全保障戦略で、サイバー安全保障の政策を一元的にまとめる組織へ改組する方針が示された。2025年5月には「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律」などが成立し、同年7月にNISCを改組する形で国家サイバー統括室が発足した。

AIセーフティ・インスティテュート(AISI)は、AIの安全性を評価する手法や基準づくりを進める政府の機関だ。2023年12月のAI戦略会議で当時の岸田首相が設立を表明し、2024年2月14日に発足した。事務局は独立行政法人情報処理推進機構(IPA)に置かれている。AISIによる評価の例は、本紙の「重みが公開されたAI、攻撃コードの開発能力は「限定的」 IPAのAI安全機関が評価 16点満点の平均はGLM-5.2が2.80、Claude Opus 4.8は5.22」で伝えている。

アンソロピックと日本の関係

アンソロピックは2025年10月、アジア太平洋地域で初めての拠点となる東京オフィスを開いた。同社の発表によると、その際に来日したダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)は高市首相と面会し、自民党のデジタル政策を扱う本部の会合で講演した。同じ週に、日本のAISIとの間で協力覚書を結び、AIの評価手法づくりや分野の新しい動きの把握で協力するとした。同社は、米国の「AI標準・イノベーションセンター(CAISI)」と正式な取り決めを結び、英国の「AIセキュリティー研究所」とも共同作業を続けていると説明している。東京ではチームを作り、産業界や政府と協働するとした。同社はアジア太平洋で、ソウルとインドのベンガルールにも拠点を広げる計画を示していた。

今回の初会合で議員が求めたのは、この協力をサイバー攻撃の分野にも広げ、政府の国家サイバー統括室を含めて連携を深めることだ。党の本部としての具体的な提言の時期や内容は、発表には示されていない。