モーター大手のニデック(京都市南区、東証プライム)は10月16日、グループの会計不正問題をめぐって現旧の役員の法的責任を調べていた役員責任調査委員会から、調査報告書を受け取ったと開示した。委員会は、創業者の永守重信氏や歴代の社長ら8人について会社法423条1項に基づく損害賠償責任が、元最高財務責任者(CFO)1人について民法などに基づく損害賠償責任が、それぞれ認められると結論づけた。同社は「複数の取締役等において、その職務執行に関して法令に違反する事実があったものと認め」、損害賠償請求などの法的措置を検討するとしている。報告書本体は、取引先の営業秘密や個人のプライバシーにかかわる部分を伏せたうえで、10月20日をめどに開示する予定だ。
8人と元CFO1人に「損害賠償責任が認められる」
同社が10月16日に出した開示は2本ある。1本目は報告書を受け取ったことの知らせで、2本目が委員会の結論を伝えるものだ。2本目によると、委員会は次の人について損害賠償責任が認められると結論づけた。ただし、損害の範囲については「寄与度に応じて判断されるべきである」との留保が付いている。
| 対象者 | 委員会が挙げた根拠 |
|---|---|
| 永守重信氏、小部博志氏、佐藤明氏、吉本浩之氏、関潤氏、岸田光哉氏 | 会社法423条1項に基づく損害賠償責任 |
| 村上和也氏、落合裕之氏 | 会社法423条1項に基づく損害賠償責任 |
| 旧執行役員1人(元CFO。在任は2022年5月〜2026年3月) | 民法644条・415条1項または執行役員規程に基づく損害賠償責任 |
開示は8人を2つのまとまりに分けて書いているが、根拠の条文はどちらも同じ会社法423条1項で、なぜ分けたのかは開示に書かれていない。元CFOは氏名が伏せられている。
同社の株主総会招集通知と有価証券報告書によると、後のまとまりの村上和也氏と落合裕之氏は、ともに常勤監査役から、2020年6月の監査等委員会設置会社への移行に合わせて取締役(監査等委員)に就いた。いずれも常勤の監査等委員で、村上氏は2025年6月20日、落合氏は2026年6月18日に退任している。前のまとまりの佐藤明氏は、2020年3月末時点で取締役副社長執行役員(最高業績管理責任者、財務部担当など)を務め、同年4月に取締役専務執行役員となり、2020年6月17日の定時株主総会で取締役を退任した。
会社法423条1項は「取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人」(役員等)が「その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定める。いわゆる任務懈怠(けたい)責任で、取締役が会社に損害を与えたときに会社が責任を問う根拠になる条文だ。この列挙に執行役員は入っていない。元CFOについては、受任者は「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」と定めた民法644条と、債務不履行による損害賠償を定めた民法415条1項、あるいは社内の執行役員規程が根拠に挙げられた。
同社は開示で、これまでの第三者委員会と役員責任調査委員会の調査、監査等委員会の監査の結果に基づいて法令違反の事実を認めたとし、「損害賠償請求等の必要な法的措置を検討し、速やかに対応いたします」と表明した。1本目の開示では、報告書に基づいて損害賠償請求その他の法的措置を審議し、「決定次第、速やかに開示いたします」としている。請求するかどうか、いくら求めるかは、まだ決まっていない。
第三者委員会が描いた「強すぎる業績プレッシャー」
役員責任調査委員会の前提になったのは、2026年3月3日に同社が公表した第三者委員会の調査報告書だ。第三者委員会(委員長・平尾覚氏)は2025年9月3日から、グループの不適切な会計処理の疑いを調べていた。報告書によると、ヒアリングは退職者を含む319人に延べ536回行い、113人を対象に電子データを解析するフォレンジック調査も実施した。
見つかった会計不正は多岐にわたる。使う見込みも売れる見込みも極めて低い原材料や製品を資産として扱い評価損を計上しなかった例、実現の見込みが低い案件を売上計画に含めて固定資産の減損を避けた例、固定資産に計上すべきでない人件費を資産に計上して費用の計上時期を先送りした例などだ。報告書提出時点で見つかった不正と誤りによる2025年度第1四半期末の連結純資産への負の影響額は、約1397億円とされた。
報告書は、これらの不正が「いずれも、業績目標、特に営業利益目標の達成に向けた強すぎるプレッシャーを背景に行われた」と分析した。業績目標は長年、永守氏のトップダウンで決められ、事業部門や子会社の実力を超えるものだったという。同社では長年、営業利益率10%未満は「赤字」と評価されていたとも記している。
経営トップの関与について、報告書は永守氏が不正を指示・主導した事実は見つからなかったとしつつ、内部の特命監査の報告を通じて是正を先延ばしにする処理を把握しながら受け入れていたとして、「一部の会計不正を容認したとの評価は免れない」と指摘した。そのうえで「最も責めを負うべきなのは、永守氏であると言わざるを得ない」と結論づけた。創業メンバーで社長も務めた小部氏については、不正を「少なくとも概括的には」認識・黙認していたと認めるのが相当とした。
一方、2024年4月に社長執行役員(CEO)に就いた岸田氏については、不正を指示・主導したり黙認したりした事実は見つからず、むしろ「負の遺産」の処理を永守氏に繰り返し進言したと評価した。ただ、処理が必要な資産を自ら精査し、永守氏の意向に反してでも処理を進言する必要があったとも述べている。永守氏の後継者と目され社長を務めた吉本氏と関氏についても、不正を指示・主導したり黙認したりした事実は見つからなかったとしていた。
第三者委員会が不正への直接の関与や黙認を認めなかった人も、今回の委員会は損害賠償責任の対象に含めた。どのような任務を怠ったと判断したのか、10月16日の開示には書かれていない。報告書本体の開示を待つ必要がある。
設置から7か月、その間に経営陣は入れ替わった
役員責任調査委員会は、2026年3月13日の取締役会と監査等委員会で設置が決まった。委員長は菊地伸弁護士(外苑法律事務所)で、委員は松山遙弁護士(日比谷パーク法律事務所)と、早稲田大学商学学術院大学院会計研究科教授で公認会計士の秋葉賢一氏の2人。同社は、各委員が調査対象者と利害関係を持たないと説明していた。
調査の対象は、第三者委員会の調査期間と同じ2020年度から2025年度第1四半期までに取締役(監査等委員を含む)、監査役、執行役員だった人だ。目的は、任務懈怠責任の有無を含め法的責任の有無を調べ、会社が損害賠償請求などをすべきか「適切かつ公正な判断を行う」ための報告・提言を受けることとされた。
この7か月の間に、経営陣の顔ぶれは大きく変わった。第三者委員会の報告書によると、永守氏は調査中の2025年12月19日に代表取締役グローバルグループ代表を辞任して非常勤の名誉会長となり、2026年2月26日付で名誉会長も退いた。3月3日には取締役会長の小部氏、副社長執行役員の北尾宜久氏、最高財務責任者だった常務執行役員の佐村彰宣氏らがすべての役職を辞任した。
岸田氏は9月29日付で代表取締役社長執行役員を辞任した。同社は、過年度の訂正決算の過程で旧執行体制下の行為を再評価する中、岸田氏に「財務報告に関し必ずしも適切とは言いかねる言動もあったことが確認されました」と説明し、同氏から辞意が示されたとしている。後任の社長執行役員には戒田理夫氏が就いた。経緯は「ニデックの岸田社長が9月29日付で辞任、新社長は戒田理夫氏 2026年3月期は減損6321億円で最終赤字5646億円 有価証券報告書は監査意見が不表明のまま提出」で伝えている。
会社の損害はどこまで膨らんだか、株主の訴訟も
旧経営陣にどれだけの賠償を求めるかを考えるうえで、会社がこうむった損害の大きさが前提になる。10月1日の決算説明資料によると、2026年3月期の連結営業損益は5190億円の赤字(前期は修正後で1282億円の黒字)、親会社の所有者に帰属する当期損益は5646億円の赤字(同847億円の黒字)だった。減損損失は6321億円にのぼる。
過去の決算も大きく書き換えた。資料によると、不適切な会計処理の修正として2080億円を修正再表示し、その派生的な影響として2880億円の減損損失を過年度に計上した。2021年3月期から2025年3月期までの5期累計で、営業利益の修正額は4373億円になった。
ただ、委員会は損害の範囲を「寄与度に応じて判断されるべき」としており、会社の損失がそのまま個人への請求額になるわけではない。会社法423条1項の責任は会社に対する責任で、請求するかどうかは会社が決める。会社法847条は、6か月前から株式を持ち続ける株主が会社に役員等の責任追及の訴えを起こすよう請求できると定めており、会社が訴えなければ株主が会社に代わって訴える株主代表訴訟の道もある。
実際、同社には別の株主代表訴訟が起きている。9月10日の開示によると、個人株主1人が元取締役の永守氏と小部氏を相手に京都地方裁判所へ株主代表訴訟を起こし、同社は9月9日に訴訟告知を受けた。2022年9月と2023年2〜3月の自己株式取得、2022年12月の中間配当が、会社法上の分配可能額を超える違法なものだったとして、会社法462条1項に基づき287億3055万8300円と遅延損害金を会社に支払うよう求めている。今回の役員責任調査委員会の結論とは別の論点を扱う訴訟だ。
同社は今後、20日をめどに開示する報告書本体に基づいて、損害賠償請求その他の法的措置を審議する。決定した内容は速やかに開示するとしている。
