経済産業省は6月30日、国産の人工知能(AI)基盤モデルの開発を後押しする事業の支援先として、新会社「ノエトラ」(東京)と産業技術総合研究所(産総研)を選んだと発表した。2026年度に3873億円を投じ、2030年度までの5年間で総額1兆円規模の支援を行う方針だ。

対象となるのは、現実の空間でロボットなどの機械を自律的に動かす「フィジカルAI」の土台となる基盤モデルの研究開発だ。フィジカルAIとは、文章や画像に加え、音声や動画、センサーで得たデータなど多様な情報をまとめて扱い、機械の「頭脳」として実際の動作につなげるAIを指す。工場や物流、介護など人手不足が深刻な現場での活用が期待されている。

基盤モデルは、大量のデータを学習させて作る、さまざまな用途の土台となる大規模なAIのことだ。対話型AIの中核にもなっており、現在は米国企業が開発した海外製が広く使われている。国が多額の資金を投じるのは、この基盤モデルを国内で開発できる力を持ち、経済や安全保障を左右する重要技術を海外に依存しすぎない体制を築く狙いがある。

支援先のノエトラは、通信大手のソフトバンクや電機のNEC、ソニーグループ、自動車のホンダの4社が中核となって設立した企業だ。異なる分野の大手が結集し、開発力とデータ、資金を持ち寄る形で国産AIの底上げを目指す。7月から本格的にモデルの開発を始めるという。

今回の支援は、経産省が生成AIの基盤モデル開発を後押しするために設けた「GENIAC(ジーニアック)」と呼ぶ枠組みの一環だ。同省はこれまでも計算資源やデータの整備を通じて国内の開発企業を支えてきたが、今回はフィジカルAIという次の段階を見据え、支援の規模を大きく引き上げた。

AIの基盤モデル開発は、米国のオープンAIやグーグル、中国企業などが先行している。日本勢は開発規模で差をつけられており、政府は民間主導の開発を資金面で支えることで巻き返しを図る。経産省は今回の1兆円規模の支援を、フィジカルAIという実用領域に的を絞って投じることで、産業界での活用まで一気に進めたい考えだ。