モーター大手のニデック(京都市南区、東証プライム)は9月28日、「当社に関する一部報道について」と題した開示を公表し、代表取締役社長の解任決定や1兆円規模の減損処理が報じられたことについて、「役員変更及び大規模な減損処理について検討をしているのは事実ですが、現時点で当社として決定した事実はございません」と説明した。検討していること自体は認めた形で、同社は「開示すべき決定事項あるいは開示すべき重要事実が生じた場合には、速やかに公表いたします」としている。
報道の内容を打ち消さず、「決定していない」とだけ述べた
開示によると、報じたのはダイヤモンド・オンラインで、内容は社長の解任決定と1兆円規模の減損だとされる。ニデックはこの2点について「決定した事実はない」と述べただけで、検討していること自体は否定しなかった。
上場企業が報道を受けて出すこの種の開示は、東京証券取引所の適時開示規則にもとづくもので、投資家の売買判断に関わる情報が外部から流れたときに、会社として事実関係を説明する手続きにあたる。「事実無根」と全面的に打ち消すのではなく「検討はしているが決定していない」と答えたということは、取締役会などの正式な決議に至っていない段階だという意味になる。
減損処理は、買収した企業や工場などの資産が、当初見込んだほど利益を生まなくなったときに、帳簿上の価値を切り下げて損失として計上する会計処理である。ニデックは長年にわたるM&A(企業の合併・買収)で事業を広げてきたため、対象となりうる資産が積み上がっている。同社は9月4日の開示で、過年度の有価証券報告書などの訂正と、2026年3月期の有価証券報告書の提出を「可能な限り早期に行う予定」としており、決算そのものがまだ確定していない。
10月1日付で貿易コンプライアンス室を独立、購買部門も組み替え
ニデックは同じ9月28日、10月1日付の機構改革と人事異動も公表した。
柱は3つある。1つ目は、コンプライアンス部の傘下にあった貿易コンプライアンス室を切り離し、独立した「貿易コンプライアンス室」とすること。2つ目は、グローバル購買統括本部の名称を「グローバルサプライチェーン統括本部」に改め、その下にSCM企画部、SCM管理部、調達購買部、ロジスティクス部の4部を置くことである。従来の購買第1部、購買第2部、グローバルSCM部は廃止する。3つ目が研究部門の再編で、「ソフトウェア技術開発センター」を新設し、製品技術研究所の研究第5部を廃止する。
ソフトウェア技術開発センターは最高技術責任者(CTO)の直轄組織で、神奈川県川崎市幸区のニデック新川崎テクノロジーセンター内に置く。同社は狙いを、部品単体を売る商売からモジュールやソリューションを売る商売への転換だと説明している。あわせて、子会社がインド・カルナータカ州ベンガルールに置く開発拠点を本社直轄に移し、11月1日付で社名を「NIDEC INDIA SOFTWARE CENTER PRIVATE LIMITED」に変更する予定だとした。理由として、グループ内のソフトウェア人材と知的財産の一元管理のほか、「技術流出の防止」を挙げている。
会計不正に続き、品質でも不適切行為が認定された
一連の動きの背景には、2年越しの不祥事がある。
同社は不適切な会計処理の疑いを受けて2025年9月3日に第三者委員会を設置し、同年10月30日には「ニデック再生委員会」を置いた。その一環として2026年1月8日からグループの生産・開発拠点を対象に品質の総点検を始めたところ、複数の拠点で不適切行為の疑いが判明し、5月13日に外部専門家による調査委員会を設置した。同社は9月2日に調査報告書を受領し、9月4日に公表している。
報告書が認定した品質の不適切行為は、製造の4要素(人・設備・材料・方法)を変更する際の手続き違反、試験・検査結果の改ざんやねつ造、検査・製造条件の違反、規格から外れた製品や未承認品の使用・出荷、部品や材料の記録の作成・管理の違反、それに産地表示をめぐる不適切行為である。原因としては、規模の拡大に経営体制の整備が追いつかないまま短期的な業績目標とコスト削減が強く求められたこと、品質リスクの把握や生産移管時の管理が不十分だったこと、品質保証部門が独立した歯止めとして機能していなかったことが挙げられ、報告書はこれらが重なって不適切行為を許す組織の「不健全な状態」が定着したと指摘した。同社は過年度の連結財務諸表に重要な影響を及ぼす事象は現時点で確認されていないとしている。
10月1日付の機構改革で貿易コンプライアンス室を独立させ、購買と物流を1つの統括本部にまとめ直すのは、この「牽制が効かない組織」という指摘への手当てという位置づけになる。
決算未報告のまま臨時株主総会へ、元会長らには株主代表訴訟
会社の手続きも通常の状態に戻っていない。6月18日に開いた第53期定時株主総会では、会計不正問題の影響で事業報告や連結計算書類、監査報告書などの報告ができなかった。同社は9月15日の取締役会で、9月30日を基準日として、同日から3か月以内に臨時株主総会を開くことを検討すると決議した。報告できなかった決算をこの臨時株主総会で報告・承認にかける方針である。役員の選任や解任を株主に諮る場としても、この臨時株主総会が当面の節目になる。上場企業が代表取締役をめぐって身動きが取れなくなる例は珍しく、昭和ホールディングス、代表取締役を選任できず 「経営の現況と今後の方針」を開示 取締役間の対立が長期化のように、経営体制の空白そのものが開示事項になる場合もある。
さらに9月9日には、同社の個人株主1人が元取締役の永守重信氏と小部博志氏を相手取り、京都地方裁判所に株主代表訴訟を起こした。2022年9月と2023年2〜3月に行われた自己株式の取得、2022年12月の中間配当が、会社法と会社計算規則にもとづいて計算される分配可能額を超えた違法なものだったとして、会社法462条1項を根拠に287億3055万8300円と遅延損害金を会社へ支払うよう求める内容で、同社は9月10日に訴訟告知書を受領したと開示した。会社自身は、この訴訟が業績に影響を及ぼすものではないと判断している。同社は2026年3月13日に役員責任調査委員会を設置し、現旧の取締役らに職務執行上の任務を怠った責任があったかどうかを検討しており、この訴訟への対応も同委員会の報告と提言にもとづいて決めるとしている。
