独立行政法人勤労者退職金共済機構と厚生労働省は9月18日、10月1日から10月31日までを中小企業退職金共済制度(中退共)の「加入促進強化月間」にすると発表した。ポスターやパンフレットの配布、事業主団体への周知協力の要請などを行う。令和8年(2026年)6月末時点で、約55万の中小企業が加入している。
中退共は、自社だけで退職金制度を用意するのが難しい中小企業のために設けられた国の退職金制度だ。中小企業退職金共済法(昭和34年法律第160号)に基づき、事業主が機構と従業員ごとに契約を結び、毎月の掛金を納める。退職金は機構から退職した従業員の口座へ直接振り込まれ、事業主が代わりに受け取ることはできない。
12か月未満は支給なし、43か月目でようやく掛金総額を上回る
加入を検討する側が見落としやすいのが、掛金を納めた期間の長さによって退職金の出方が大きく変わる点だ。これは運用成績の話ではなく、法律そのものに書かれている。
中小企業退職金共済法10条は、掛金を納めた月数(掛金納付月数)が12か月に満たないときは退職金を支給しないと定める。さらに同条2項は、納付月数23か月以下は「納付された掛金の総額を下回る額」、24か月以上42か月以下は「掛金の総額に相当する額」、43か月以上は「掛金の総額を上回る額」と、三つの区分をそのまま条文にしている。つまり掛金が元本割れするのも、元本と同額で据え置かれるのも、制度の設計どおりである。
厚生労働省が公表している基本退職金額表(平成14年11月1日から適用)で、掛金月額1万円の場合を追うとこうなる。
| 納付年数 | 納めた掛金の総額 | 基本退職金額 |
|---|---|---|
| 1年(12か月) | 12万円 | 3万6000円 |
| 2年(24か月) | 24万円 | 24万円 |
| 3年(36か月) | 36万円 | 36万円 |
| 4年(48か月) | 48万円 | 48万1700円 |
| 10年(120か月) | 120万円 | 126万5600円 |
| 20年(240か月) | 240万円 | 266万6600円 |
| 30年(360か月) | 360万円 | 421万3100円 |
| 40年(480か月) | 480万円 | 591万7900円 |
1年で退職すると、12万円納めて戻るのは3万6000円にとどまる。2年目と3年目は納めた額がそのまま返るだけで、増えない。4年目に入って初めて1700円だけ上回り、そこから差が開いていく。30年納めれば360万円の掛金が421万3100円になり、61万3100円多く受け取れる。40年では480万円が591万7900円となり、上積みは111万7900円に達する。長く勤めた従業員ほど手厚くなる制度である。
この表は基本退職金だけの額で、運用利回りが予定運用利回りを上回った年度には「付加退職金」が上積みされる。付加退職金の支給率は、厚生労働大臣が労働政策審議会の意見を聴いて毎年度決める。
掛金は5000円から3万円、短時間労働者は2000円から
掛金月額は従業員ごとに5000円から3万円の範囲で選べる。短時間労働者については、2000円・3000円・4000円の特例掛金月額も選択できる。掛金は全額が事業主負担で、法人企業なら損金、個人企業なら必要経費として全額が非課税になる。
掛金の増額はいつでもできるが、減額には従業員本人の同意か、やむを得ないと厚生労働大臣が認めることが必要になる。加入は原則として従業員全員が対象で、期間を定めて雇っている場合、試用期間中、休職中、定年などで短期間内に退職することが明らかな場合、本人が加入に反対した場合は加入させなくてよい。
受け取る側の税の扱いは、一時払いなら退職所得、分割払いなら各回が雑所得となり公的年金等控除の対象になる。
国の助成は加入4か月目から1年間
新しく中退共に加入する事業主には、掛金月額の2分の1(従業員1人あたり上限5000円)が加入後4か月目から1年間、国から助成される。短時間労働者の特例掛金月額(4000円以下)の加入者には、これに上乗せがある。掛金月額2000円なら300円、3000円なら400円、4000円なら500円だ。
すでに加入している事業主が掛金を増やす場合は、掛金月額が1万8000円以下の従業員について、増えた分の3分の1が増額した月から1年間助成される。ただし、2万円以上の掛金月額からの増額は助成の対象にならない。
加入できるのは従業員300人以下または資本金3億円以下
中小企業退職金共済法2条は、加入できる「中小企業者」の範囲を業種別に定めている。一般の業種は常時雇用する従業員が300人以下、または資本金・出資の総額が3億円以下。卸売業は100人以下または1億円以下、サービス業は100人以下または5000万円以下、小売業は50人以下または5000万円以下となる。従業員数か資本金のどちらかが範囲内であれば加入でき、個人企業や公益法人などは従業員数で判断する。
同法にはこのほか、事業の間を移りながら期間を定めて雇われる労働者向けの「特定業種退職金共済制度」があり、建設業・清酒製造業・林業の3業種が厚生労働大臣の指定を受けている。こちらは共済手帳に共済証紙を貼って掛金を納める仕組みで、一般の中退共とは別立てだ。
人手不足が続くなか、中小企業にとって退職金の有無は採用と定着に直結する。中小企業庁が7月に公表した「稼ぐ力」強化戦略も、中小企業の「稼ぐ力」強化戦略を公表 人手不足時代へ「数より質」 中小企業庁として人材の確保と処遇改善を柱に据えていた。製造業では製造業の技能継承、「うまくいっている」は1.9% 2026年版ものづくり白書 最も多い対策は高年齢者の継続勤務で54.8%のように、高年齢者に長く働いてもらう対策が最多となっており、長期加入ほど有利になる退職金の設計とは噛み合う面がある。
