国民生活センターは9月16日、AI講座やSNS運用講座といった「ビジネス講座」をめぐる相談が増えているとして、注意を呼びかけた。全国の消費生活センターなどに寄せられた相談は2025年度が3,551件で、2020年度の1,169件から約3倍に増えた。SNSの広告をきっかけに、Web会議サービスで一対一の勧誘を受けて契約する形が目立ち、この形の契約金額は平均87万円に上る。
5年で3倍、今年度も前年を上回るペース
相談情報を全国から集めるデータベース「PIO-NET(パイオネット)」の登録件数は、2020年度の1,169件から、2021年度1,831件、2022年度2,106件、2023年度2,510件、2024年度2,682件と増え続け、2025年度は3,551件になった。2026年度も7月31日までの登録分で1,121件あり、前年の同じ時期の821件を300件上回っている。
同センターが「ビジネス講座」と呼ぶのは、趣味ではなく仕事のスキル習得を主な目的とする教室・講座を指す。資格取得を目的としたものは含まない。政府がリスキリング(学び直し)支援を進め、副業・兼業への関心が高まったことで需要そのものが広がり、その裏側で相談も増えた形になる。
相談の中身(複数回答、2025年度の3,551件が母数)で最も多いのは「解約(全般)」の1,748件で全体の49.2%を占めた。次いで「電話勧誘」1,655件(46.6%)、「SNS」1,511件(42.6%)、「返金」1,193件(33.6%)、「電子広告」1,162件(32.7%)と続く。契約した人の平均年齢は38.0歳で、女性が2,146件(63.1%)と男性の1,255件(36.9%)を上回った。職業別では会社員などの給与生活者が60.5%、自営・自由業が13.9%だった。
「通信販売」から「Web会議での勧誘」へ
以前はSNS広告を見てそのまま申し込む通信販売型の相談が多かったが、近年はSNS広告で知った業者からメッセージアプリやWeb会議サービスへ誘導され、そこで勧誘を受けて契約する形が増えている。
この違いは金額に表れている。通信販売の平均契約金額は2020年度44万円から2025年度64万円へ上がったのに対し、Web会議での勧誘を含む電話勧誘販売は2020年度60万円、2022年度84万円、2024年度99万円、2025年度87万円と、一貫して通信販売を上回って推移してきた。2026年度は7月31日までで通信販売48万円、電話勧誘販売79万円となっている。
Web会議での勧誘は、特定商取引法(訪問販売や通信販売などのルールを定めた法律)上の「電話勧誘販売」にあたる場合がある。販売形態がこれに該当すると、業者には契約内容を書いた書面を渡す義務が生じ、消費者にはクーリング・オフ(一定期間内なら無条件で契約を解除できる制度)が認められる。ところが実際には、書面が渡されていないケースも見られるという。
「副業の面接」がそのまま65万円の契約に
公表された相談事例では、勧誘があること自体を知らされないままやりとりが進んでいる。
求人サイトから副業に応募した30歳代の女性は、2次面接としてWeb会議に参加したところ、「副業にはAIの知識が必須で有料研修が必要だ」と言われた。月額2万円程度なら稼ぎながら払えると思ってクレジットカードで契約したが、電子契約書を見ると総額65万円だった。説明時に見せられた画面を確認し直すと、支払回数と総額は薄い字で書かれていた。分割払いの手続きをしたところ請求額は約70万円になり、キャンセルを伝えると「事業者間契約だから解約はできない。支払いをしないと法的手段に訴える」という返信が来たという。
20歳代の男性は、AIで副業を稼ぐというSNS広告から1万円の情報商材を買い、上位プランを勧められてWeb会議で2時間の説明を受けた。「講座代は1、2カ月ですぐに取り戻せる」と案内され、約80万円の1年間の講座を36回払いのクレジットで契約した。40歳代の女性は月謝約2万2,000円のつもりで契約したが、解約を申し出ると「1年契約なので残りの月数分の受講料の40%が解約手数料として必要」と言われた。
「元が取れる」に将来の保証はない
同センターは、契約前にカリキュラムの詳細や講義形式、講師の実績、受講後に得られるスキルまで確認するよう求めている。そのうえで、Web会議で突然高額な講座を勧められても、その場で契約を決めないこと、「今日契約すれば特典がある」と急かされても冷静に検討することを挙げた。
金額については、月々の支払額ではなく総支払額で判断するよう促している。月2万円でも長期契約なら総額は数十万円から100万円を超える。「すぐに元が取れる」と説明されても将来の収入が保証されているわけではなく、支払い能力を超える契約は負担だけが残る。契約前に解約の方法・解約料の有無・返金条件まで確かめることも求めた。
スキルを身につけたい場合は、厚生労働省の教育訓練給付制度や経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」など、公的な支援制度の情報を先に当たる方法もある(利用には一定の要件がある)。
すでに契約してしまった場合でも、Web会議や電話でのやりとりの中で有料講座を勧められた場合や、「この講座を受ければ仕事を提供する」と言われて契約した場合は、クーリング・オフの対象になることがある。書面が渡されていないときも同様だ。ビジネス講座の契約でも、契約の時点で実際に事業を行っていなければ「消費者」として扱われる場合がある。不当に高額な解約料など、消費者に一方的に不利な条項は消費者契約法によって無効となることもある。相談先は消費者ホットライン「188(いやや!)」。
