国連のグテレス事務総長と国連食糧農業機関(FAO)の屈冬玉(くつ・とうぎょく)事務局長は9月18日、国連世界食糧計画(WFP)の新しい事務局長に、米農務省で通商・外国農業担当次官を務めるルーク・J・リンドバーグ氏を任命したと発表した。前任のシンディ・マケイン氏の後任で、WFP執行理事会も任命に同意した。就任までは、副事務局長兼最高執行責任者のカール・スカウ氏が事務局長代行を続ける。両氏は発表で、マケイン氏の指導力に「深い謝意」を表明した。
通商畑を歩いた農務省ナンバー3
WFPの事務局長は、国連事務総長とFAO事務局長が共同で任命する国連事務次長級のポストで、ローマの本部から世界120を超える国・地域、約2万人の職員を束ねる。2020年にはノーベル平和賞を受けている。
リンドバーグ氏は現職の米農務省次官として、農産物の輸出交渉や対外農業支援を所管する立場にある。国連の発表は同氏の経歴として、米サウスダコタ州の貿易振興団体サウスダコタ・トレードの会長兼最高経営責任者、米輸出入銀行の首席補佐官などを挙げ、「90を超える国に職員を抱える組織の運営」「理事会統治、財務監督、危機下の意思決定、外国政府との折衝」の経験を強調した。学歴は米メリーランド大学で政治学の学士号、公共政策の修士号、経営学修士(MBA)を取得している。
食料援助と通商の両方を扱う省庁の出身という点は、援助機関の長としてはやや異色に映る。もっとも米国の食料援助は伝統的に、国内で生産された穀物を政府が買い上げて海外へ送る仕組みと結びついており、農務省は援助の実務にも深く関わってきた。
34年続く「トップは米国人」
WFPのトップが米国人になるのは、1992年に就任したキャサリン・バーティーン氏以来、途切れていない。直近では、実業家のデービッド・ビーズリー氏に続き、故ジョン・マケイン上院議員の妻であるシンディ・マケイン氏が2023年3月2日に任命され、同年4月5日に就任していた。リンドバーグ氏で34年間、米国人がこのポストを占め続けることになる。
慣行を支えているのは資金だ。WFPは各国政府などからの任意拠出だけで成り立つ組織で、加盟国が義務として払う分担金はない。2025年の拠出総額65億2039万ドルのうち、米国は単独で20億6585万ドルを出し、全体の約32%を占めた。2位の欧州委員会(5億9347万ドル)、3位のドイツ(5億7000万ドル)を3倍以上引き離している。
2026年も9月14日時点で拠出総額52億9041万ドルのうち米国が16億5468万ドルと、全体の約31%で首位を保っている。ただし総額そのものは、同じ時期の比較ができないとはいえ、前年の水準から目減りした状態が続いている。
3億1800万人に対し、支援できるのは1億1000万人
新トップが引き継ぐのは、WFPが「歴史上もっとも厳しい」と自ら表現する資金難だ。
WFPが2025年11月18日に公表した2026年の活動見通しによると、世界で危機的な水準以上の飢餓に直面する人は2026年に3億1800万人に達し、2019年の記録の2倍を超える。これに対しWFPが支援対象として見込むのは1億1000万人で、必要とされるのはおよそ3分の1に絞り込んだ規模にとどまる。その1億1000万人を支えるのに必要な資金は130億ドルだが、当時の見通しでは集まる額は65億ドル前後、つまり必要額のおよそ半分と見積もられていた。
2025年10月15日には、年末にかけて食料の在庫が尽きる「パイプライン・ブレーク」の恐れがある6つの事業を名指しで警告している。今後6カ月の不足額は、アフガニスタンが6億2200万ドル、スーダンが6億ドル、南スーダンが3億9890万ドル、コンゴ民主共和国が3億5170万ドル、ソマリアが9830万ドル、ハイチが4400万ドルだった。
「危機」から「緊急」へ落ちる1370万人
WFPは同じ警告のなかで、支援の削減によって現在の受給者のうち1370万人が、飢餓の段階を一つ下に踏み外す恐れがあるとした。
ここでいう段階とは、国際的に使われる5段階の食料不安分類(IPC)を指す。第3段階の「危機」は、食料を得るために家畜や農具といった生活の元手を手放さざるを得ない状態、第4段階の「緊急」は、栄養失調や死亡が広がりはじめる状態を意味する。1370万人という数字は、現在「危機」にとどまっている人のうち約3分の1が「緊急」へ落ちうるという計算になる。
米国が拠出の3割超を握り、その米国から新しいトップを迎える。リンドバーグ氏の最初の仕事は、細り続ける資金の流れをどこまで押し戻せるかになる。就任日は発表されていない。
