国連児童基金(UNICEF)は9月16日、内戦が続くイエメンで戦闘が再燃し、この2週間で子ども5万7千人を含む10万4千人が家を追われたと発表した。9月3日以降、少なくとも9人の子どもが死亡し、12人が負傷、3人が行方不明になっている。戦線は紅海の出入り口にあたるバブエルマンデブ海峡の方向へ延びており、15日の国連安全保障理事会では「海峡周辺の情勢はここ数日で不安定さを増している」と報告された。
243校が休校、26の医療施設で診療が滞る
UNICEFの発表はヨルダンの首都アンマンで出された。行方不明の3人は、イエメン西部沿岸からアデンへ向かう道路で起きた襲撃の後に消息が分からなくなったという。
暮らしを支える施設への打撃も大きい。UNICEFが支援する26の医療施設で診療が滞り、243校が休校または授業停止となって、13万7千人を超える児童・生徒が学べなくなった。ジブチには海を渡って2千人以上が逃れている。
イエメンではもともと1200万人を超える子どもが人道支援を必要としている。5歳未満の220万人が急性栄養不良の状態にあり、うち51万5千人は命に関わる重度にあたる。1780万人が保健・水・衛生の十分なサービスを受けられず、学齢期の子ども320万人が学校に通えていない。医療施設のうち十分に機能しているのは6割にとどまる。
UNICEF中東・北アフリカ地域事務所のエドゥアール・ベイグベデール代表は「イエメンの子どもたちは、世界で最も深刻な人道危機の一つをすでに生きてきた。多くは紛争と避難しか知らない」としたうえで、「飢えと避難、途切れた学校生活に何年も耐えてきた子どもにとって、今回の暴力は、わずかに残っていた安定を削り取っている」と述べた。UNICEFは緊急対応の規模を広げ、23万1千人に支援を届ける計画で、タイズ県で衛生用品と貯水タンクを配り、マアリブ県に水と衛生の物資を追加、9チームの移動式の保健・栄養チームを避難先に振り向けている。
紅海南部の島を占拠、商船の流れは「今のところ影響なし」
これに先立つ15日、国連安保理は第10222回会合を開き、政治・平和構築局と平和活動局を兼務するハレド・キアリ事務次長補が情勢を報告した。
キアリ氏は、イエメン西部沿岸で戦闘が激しくなり、フーシ派がバブエルマンデブ海峡に向けて前進していると説明した。フーシ派は紅海南部の複数の島を占拠したとされる。14日にはフーシ派のミサイルと無人機がサウジアラビアの複数都市を攻撃して死傷者が出て住宅が壊れ、12日にはイラク国内から飛ばされたとされる無人機がサウジの「東西パイプライン」を狙い、補修のため稼働を止めた。
「バブエルマンデブ海峡とその周辺の情勢は、ここ数日で不安定さを増している」。キアリ氏はこう述べる一方で、「船舶追跡サイトによれば、紅海を通る商船の流れは今のところ影響を受けていないようだ」とも報告した。安保理には、9月に入ってからイエメン全土で少なくとも12万5千人が避難し、民間人の死傷者は40人、その半数以上が女性と子どもだと伝えられた。ジブチには約2300人が逃れているという。避難者の数え方は集計の時点と機関によって差があり、UNICEFの10万4千人は「この2週間」、安保理に示された12万5千人は「9月に入ってから」の数字だ。
世界貿易の15%が通る海の入り口
バブエルマンデブ海峡は、紅海とアデン湾(インド洋)を結ぶ幅約30キロの狭い水路で、スエズ運河を抜けてアジアと欧州を行き来する船が必ず通る。ここが塞がれば、アジア・欧州航路はアフリカ南端の喜望峰を回るしかなくなる。
ジェトロが5月に公表した物流動向の分析によると、紅海を通る貨物は世界貿易の約15%にあたる(世界貿易機関〈WTO〉の推計)。国際通貨基金(IMF)の海運データ「ポートウォッチ」では、2023年まで月2200〜2300隻あったスエズ運河の通航は、2024年以降は月1000〜1300隻に落ち込み、代わりに喜望峰回りが前年比8割増に跳ね上がった。喜望峰を回ると航海日数は紅海ルートの25〜50日に対して40〜65日となり、10〜15日ほど余計にかかる。燃料費と船の拘束時間がそのぶん積み上がる。
つまり、海峡そのものが封鎖されていなくても、「危ないかもしれない」という評価が広がるだけで航路は動く。キアリ氏が商船の流れに触れたのは、人道危機とは別に、世界の物流が反応しうる局面だという認識があるからだ。
停戦は2022年10月に失効、紅海の船舶攻撃は2023年から
イエメンでは、正統政府とイラン系の武装組織フーシ派の衝突が長く続いている。外務省の海外安全情報によると、2022年4月に国連の仲介で2か月間の停戦が発効し、2度延長されたものの、同年10月に失効した。安保理には今回、この戦闘の再燃が「2022年の停戦以降に保たれてきた比較的平穏な状態の終わり」を意味すると報告された。
紅海での船舶への攻撃は新しい話ではない。外務省は、2023年11月以降、紅海・バブエルマンデブ海峡・アデン湾でフーシ派によるミサイルと無人機を使った船舶攻撃が断続的に起き、乗っ取りも発生したとしている。2025年10月のガザ停戦合意の後は同種の攻撃は確認されていないが、いつ再開するか見通せない状態が続いていた。
陸上の構図も入り組んでいる。2025年12月には、正統政府と協力関係にあった分離主義勢力「南部移行評議会」(STC)が軍事作戦を行い、南東部のハドラマウト県・マフラ県と暫定首都アデンの政府機能を事実上掌握した。その後サウジアラビアの支援を受けた政府軍が支配地域を取り戻したが、アデンを含め武力衝突は散発的に続いている。
外務省はイエメン全土に危険レベル4「退避してください。渡航は止めてください。(退避勧告)」を出しており、2026年1月23日の更新でも継続となった。在イエメン日本大使館は治安悪化のため2015年2月15日に一時閉館し、在サウジアラビア日本大使館内に臨時事務所を置いている。
UNICEFは紛争の当事者すべてに対し、市民と子どもを守り、国際人道法を守り、支援が安全に届く道を確保するよう求めている。
