全国知事会は9月11日、新たに設けた「コンテンツ産業創出・振興プロジェクトチーム」の第1回会議をオンラインで開いた。リーダーは山本一太・群馬県知事が務め、41都道府県から47人が出席した。映画やアニメ、マンガ、ゲーム、音楽といったコンテンツ産業を地方の成長産業に育てるため、国に支援を求める提言をまとめる。会議に示された活動スケジュール案では、令和8年11月中下旬の全国知事会議で提言を決議する段取りが引かれている。

単独では限界、という問題意識から

プロジェクトチーム(PT)は、知事会が特定のテーマごとに設ける臨時の検討組織だ。設置要綱によると、根拠は全国知事会規約第28条第1項で、農林商工常任委員会の下に置かれる。要綱は令和8年7月17日に施行された。チームは「あらかじめPTに参加を表明した知事」で組織し、リーダーは常任委員会の委員長が指名する。メンバー以外の知事も会議に出席して意見を述べられる。事務は、リーダーを出した群馬県と知事会事務局が協力して処理する。

設置趣旨には、人口減少と地域経済の縮小が進むなか、地域に雇用や交流、消費を生む成長産業が要るという認識が書かれている。コンテンツ産業を選んだ理由として、世界的に需要の拡大が見込まれ、観光や飲食など他産業への波及効果が大きい点を挙げた。

知事会が強調するのは、各都道府県が単独で取り組む限界だ。設置趣旨は、制作拠点の整備や人材育成、海外展開、地域との連携について「各都道府県が個別に取り組むには限界があり、国の支援が不可欠である」と明記している。

映画についてはもう一歩踏み込んだ書き方をしている。海外では国際共同製作が一般化しており、国内外のコンテンツ企業の提携や国内でのロケ誘致を通じて、日本の企業が世界的な撮影・編集技術を取得する機会を作れる。ただ「我が国の撮影誘致に関するインセンティブは、十分ではないとの指摘もあり」と書き、実態を正確に捉えて改善する必要があるとした。誘致の仕組みそのものが弱いという前提から出発している。

海外売上5.8兆円、鉄鋼や半導体を上回る規模に

チームが課題認識として示した数字は、この産業の位置づけが変わったことを物語る。日本発のコンテンツの海外売上高は、この10年で約3倍に伸び、2023年には約5.8兆円に達した。知事会の資料は、これが半導体産業や鉄鋼産業の輸出額を超え、自動車産業に次ぐ規模だと説明している。

国も政策の柱に据えている。「新たなクールジャパン戦略」はコンテンツ産業を「基幹産業」と位置づけ、2033年の海外売上高を20兆円とする目標を掲げた。政府は日本成長戦略本部の重点戦略分野の一つにコンテンツ産業を入れ、地域未来戦略本部では地域ごとの産業クラスター(同じ分野の企業が集まる集積地)づくりを進めている。国の成長戦略と地方の取り組みを一体で回す仕組みが要る、というのがチームの出発点だ。

地域経済への効き方についても、資料は三つを並べた。制作拠点が広がることで雇用に及ぶ効果、作品の舞台が「聖地」になることによる訪日客の呼び込み、音楽フェスなどイベントを継続して開くことによる地域の活性化だ。そのうえで「戦略的・継続的に取り組む体制が不足している」と書き、自治体の間や国との情報共有・役割分担も十分とはいえないと指摘している。

調査は8日間、対象42都道府県の全てが回答

会議には、都道府県を対象にした調査の結果も示された。実施期間は8月26日から9月2日までの8日間で、対象とした42都道府県の全てが回答した。

各県が実際にやっていることは、資料では4つに束ねられている。撮影支援や制作費支援、企業立地といった「ロケ・企業誘致」、教育機関との連携やクリエイター育成、設備整備の「人材育成・拠点整備」、聖地巡礼やイベント、海外発信の「観光・地域IP活用」、文化・自然・食を作品と結び付ける「地域資源との連携」だ。

共通する課題として挙がったのは5つで、交通費・宿泊費や制作費への支援不足(コスト面・制作支援)、指導者やフィルムコミッション、権利処理、海外対応の人材が足りないこと(専門人材・ノウハウ不足)、学ぶ場と働く場が地域内でつながらないこと(人材流出・雇用不足)、スタジオが足りず更新費の負担も続くこと(制作拠点・設備不足)、入国手続きと受け入れ体制のハードル(受入環境・体制)である。

補助金の対象下限、入国手続き 提言に向けた視点は4つ

調査結果を受けた「課題認識と提言に向けた視点」では、詰まりを「作品」「人材」「制作拠点」「環境」の4つに整理した。

「作品」では、国内外の大型作品を地方に呼び込むインセンティブ(誘致のための優遇措置)が足りないと指摘した。地方だけの制作支援には財政的な限界があり、国の補助金は対象となる製作費の下限が高いため該当する作品が限られ、国内外への発信機会も不足しているという。対応策として、地方への作品誘致支援制度の創設、製作費の対象下限の引き下げ、聖地巡礼などのプロモーション強化を挙げている。

「人材」では、クリエイターとして学び成長する機会が足りず、ロケ支援などの専門人材も不足し、クリエイターの所得や就業環境にも課題があるとした。人材育成・キャリア形成の支援、専門人材の育成制度の整備、所得・就業環境の改善を求めている。「制作拠点」では、先端的・大規模なスタジオがなく、企業やクリエイターが活動する拠点も足りず、企業の地方集積が進んでいないと整理し、スタジオの地方立地への財政支援、集積拠点の整備支援、企業誘致支援を挙げた。

「環境」で挙がったのは海外作品の受け入れだ。海外のロケ隊について、入国・在留手続きに他国と比べて時間がかかると指摘し、他国に並ぶ手続き期間の設定と、自治体やフィルムコミッションと連携した受け入れ体制の強化を求めている。

国への要望は4本 「中小規模・国内作品も利用可能に」「地方枠」

調査結果の資料は、国への要望も4本にまとめている。言い方が具体的で、どこに不満があるのかが分かる。

1本目は制作・ロケへの財政支援で、注記は「中小規模・国内作品も利用可能に」。大型の海外作品だけを想定した制度設計では地方の現場に届かない、という意味になる。2本目は人材育成・地域定着支援で、「複数年度で教育・創業・就業を支援」と単年度の補助では足りないことを示した。3本目は企業立地・拠点整備支援で、「設備投資補助、税制優遇、地方枠」を並べ、地方に割り当てを設けるよう求めている。4本目が受入環境整備支援で、入国手続きの迅速化と受け入れ体制の強化だ。

コンテンツ産業を地域の産業政策に位置づける動きは国の側でも進んでいる。政府の産業クラスター計画、公表済みは52件 9月30日に茨城・神奈川など7県が新たに10件を報告 「地域未来戦略」の計画期間は2030年度までのうち、新潟県・新潟市はアニメーション制作と人材育成を核とするコンテンツ産業領域で計画をつくっている。

出席は41都道府県47人 知事本人はリーダー1人だけ

出席者名簿を見ると、第1回会議は9月11日の午前10時から11時までの1時間だった。出席は41都道府県で、担当を2つの部局から出した秋田県、東京都、長野県、石川県、和歌山県、長崎県を含め、人数は47人になる。

知事本人の出席は、リーダーの山本氏ただ1人だ。ほかの40団体は部長・課長級が出た。名簿に並ぶ職名には、この産業を自治体のどこが抱えているかが表れている。三重県は観光部長、愛知県は経済産業局産業部長、北海道は総合政策部次長、鳥取県は「令和の改新戦略本部総合統括課長」。観光・文化の部局から出た県と、産業・商工の部局から出た県に分かれ、秋田県や石川県、長野県のように両方から出した県もある。コンテンツを観光振興の素材として扱うのか、産業政策の対象として扱うのかで、庁内の持ち場が違っている。

講演はジャパン・フィルムコミッション理事長

会議では、特定非営利活動法人ジャパン・フィルムコミッションの小室裕一理事長が「コンテンツに係る自治体施策の課題と対応~国の施策を踏まえて~」と題して講演した。フィルムコミッションは、映画やドラマの撮影誘致と現場調整を担う地域の窓口組織を指す。講演の後、調査結果と課題認識、今後の活動スケジュールについて協議した。

チームの検討テーマは、コンテンツ産業の誘致支援、創出支援、人材育成支援、コンテンツを活用した地域活性化施策の支援の4つ。各都道府県の課題整理と取組事例の共有を進め、国への提言・要望につなげる。

提言は11月の知事会議へ 令和9年度にも2度目の決議

活動スケジュール案は、提言までの道筋をかなり細かく描いている。令和8年8月に課題などの調査、9月に第1回PT会議、11月に第2回PT会議を置き、ここで提言をとりまとめる。提言案は各都道府県への意見照会を1次・2次の2段階で回す。そのうえで11月中下旬の全国知事会議で提言を決議し、国へ提言する。

さらに令和9年度にも第3回・第4回のPT会議を重ね、提言をとりまとめて7月下旬の全国知事会議で2度目の提言決議を行う案になっている。初年度で終わらせず、2年続けて国に求める構えだ。

知事会の提言は、まとまれば各省庁や国会への要請として持ち込まれる。たとえば参院選の「合区」解消、全国知事会が衆参両院議長と各党に要請 「令和10年の参院選に向け憲法改正等の抜本的対応を」のように、知事会議の決議を踏まえて働きかける形が取られてきた。コンテンツ産業の提言が11月にどこまで具体的な制度要求へ落ちるかが、次に見るところになる。国の側では、支援の窓口そのものを組み替える検討が始まっており、コンテンツ産業の支援を一元化する新法人、政府が設立を検討 第1回会合は10月22日 総務・経産・文科に分散が進んでいる。