農林水産省は9日、製粉会社などに売り渡す輸入小麦の価格を10月から引き上げると発表した。令和8年10月期(2026年10月以降)の政府売渡価格は、主要5銘柄の加重平均(税込み)で1トンあたり7万20円となり、4月期の6万2520円から12.0%の引き上げとなる。
1トン7500円の上昇、3年半ぶりの高さ
上げ幅は1トンあたり7500円だ。1トンは1000キロなので、1キロに直すと6万2520円は62円52銭、7万20円は70円2銭にあたり、7円50銭の上昇となる。
農水省が価格公表に添えた資料には、令和4年4月期からの売渡価格の推移が載っている。令和4年4月期は7万2530円で、同年10月期は緊急措置で同じ7万2530円に据え置かれた。令和5年4月期に7万6750円まで上がった後は、10月期6万8240円、令和6年4月期6万7810円、10月期6万6610円、令和7年4月期6万3570円、10月期6万1010円と5回続けて下がった。令和8年4月期に6万2520円へ戻り、今回の7万20円に至る。
7万20円は、令和5年4月期の7万6750円以来の高い水準だ。上げ幅の12.0%も、資料に載る期間では令和4年4月期の17.3%に次ぐ大きさとなる。資料は過去の大きな引き上げとして、平成20年4月期の30%、令和3年10月期の19.0%、平成23年4月期の18%、令和4年4月期の17.3%を挙げている。売渡価格の過去最高は令和5年4月期の7万6750円で、平成20年10月期の7万6030円がそれに続く。
円安と海上運賃の上昇が押し上げ
売渡価格は、政府の買付価格にマークアップと港湾諸経費を上乗せして決める。マークアップは政府の管理経費と国内産小麦の生産振興対策に充てるお金だ。買付価格は国際相場と為替で動くため、農水省は直近6か月間の買付価格を平均し、相場の振れを和らげて反映させている。今回の算定期間は令和8年3月第2週から9月第1週までだった。
その半年間、三つの要因がそろって価格を押し上げた。まず為替だ。資料によると、円相場は3月以降円安が進み、7月24日には1ドル165.01円をつけた。算定期間の平均は1ドル160.9円で、前期(令和7年9月第2週〜令和8年3月第1週)の155.0円より円安となった。ドル建てで買う小麦は、円安になるほど円での支払いが増える。
次に海上運賃だ。農水省は、ホルムズ海峡をめぐる緊張の高まりで2月以降に燃料費や輸送コストが上がったと説明している。2万トン級の船の運賃は、算定期間の平均が1トン64.9ドルで、前期の50.3ドルから上がった。令和4年後半から50ドル前後で大きく動かなかった水準を抜けた形だ。
最後に国際相場だ。シカゴの小麦相場は、年明けからの米国などでの天候への懸念から主に1ブッシェル(約27.2キロ)6ドル台で推移した。8月下旬にはロシアとウクライナの緊張が強まり、7ドル半ばまで上がったという。
5銘柄はパン・うどん・菓子の原料
対象は5銘柄で、農水省は用途も併記している。カナダ産ウェスタン・レッド・スプリング(1CW)は主にパン用、アメリカ産ダーク・ノーザン・スプリング(DNS)とアメリカ産ハード・レッド・ウィンター(HRW)は主にパン・中華麺用、オーストラリア産スタンダード・ホワイト(ASW)は主に日本麺用、アメリカ産ウェスタン・ホワイト(WW)は主に菓子用となっている。
資料によると、小麦は需要量の8割以上を外国からの輸入に頼っている。政府が国家貿易で輸入する量は、令和3〜7年度の平均で年455万トン。銘柄別の輸入量は1CWが161万トンで最も多く、HRWが76万トン、ASWが70万トン、DNSが63万トン、WWが57万トンと続く。国内産小麦は民間流通で取引され、国内産で量や質を満たせない分を政府が計画的に輸入して売り渡す、という役割分担になっている。
用途は小麦粉の種類で分かれる。たんぱく質の多い強力粉は食パン、準強力粉は中華麺やギョウザの皮、中力粉はうどん、薄力粉はカステラやケーキ、和菓子、天ぷら粉、ビスケットに使われる。家庭の食卓に並ぶ小麦製品の原料が一通り含まれる格好だ。
店頭価格への影響は製品で大きく違う
政府が売り渡すのは製粉会社向けの原料麦だ。製粉会社が小麦粉にし、パンや麺、菓子のメーカーが製品に加工して店頭に並ぶため、売渡価格の上げ幅がそのまま店頭価格に乗るわけではない。
農水省は、小麦関連製品の小売価格に占める原料小麦代金の割合を、協力企業のデータをもとに試算している。食パンは約7%、ゆでうどんは約4%、即席麺(カップ麺)や外食の中華そば、外食のうどんは約1%にとどまる。家庭用の薄力粉だけは約20%と大きい。原料代の割合が小さい製品ほど、売渡価格の改定が店頭価格に与える影響は小さくなる。ただし農水省は、実際の割合は企業や製品の種類、時期によって異なるとしている。
農水省は今回の改定が消費者物価指数に与える影響を0.008%程度と見積もった。家計全体で見れば小さいが、小麦粉そのものを買う家庭や、小麦を多く使う製パン・製麺の事業者には、原料代の上昇として効いてくる。企業どうしで取引するモノの値段の動きは別の記事で扱った(2026年8月の企業物価)。
政府が買って売り渡す仕組み
輸入小麦の値段を国が決めているのは、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(主要食糧法)が根拠になっている。同法42条1項は、政府が麦等の「輸入を目的とする買入れを行うことができる」と定め、2項で、買い入れた麦を「随意契約により売り渡すものとする」としている。政府がまとめて買い付け、製粉会社などへ売り渡す流れだ。
売値には上限がある。同法42条3項は、売渡価格を「国際約束に従って農林水産大臣が定めて告示する額を、当該麦の買入れの価格に加えて得た額を超えてはならない」と規定する。買付価格に、告示で決めた上乗せ額を加えた水準が天井となる。4月期の発表では、日米貿易協定とTPP11協定に基づき、米国・カナダ・豪州産の小麦にはマークアップの引き下げが適用されていると説明していた。
価格は4月期と10月期の年2回改定される。資料によると、小麦の国際価格はロシアのウクライナ侵攻に関連して令和4年3月に過去最高を更新した。同年10月期は緊急措置がとられて売渡価格が4月期と同じ7万2530円となったが、令和5年10月期以降は通常のルールどおり直近6か月の平均買付価格で算定している。今回の改定は同法42条2項に基づくもので、新しい価格は令和8年10月以降の売り渡しに適用される。次の改定は令和9年4月期となる。同じ10月には、砂糖でも国が関わる価格の枠組みが新年度に入る(10月から「砂糖年度」が新しく 上白糖など分蜜糖の消費見通しは175万トン てん菜農家への交付金は1トン1万8559円から2万7592円へ)。
