災害で被災した自治体には、11月に定例交付するはずの普通交付税の一部が前倒しで渡される。地方交付税法第16条第2項に基づく「繰上げ交付」である。2026年度は決定が相次ぎ、総務省は9月29日、台風第25号で被害を受けた千葉県の42団体に計142億5500万円を繰り上げて交付すると決め、翌30日に現金を渡した。これに先立つ9月15日には、台風第24号と前線による大雨で被災した名古屋市に1億6100万円を決め、16日に交付している。
台風第25号で千葉県の42団体に142億5500万円
直近の決定は台風第25号によるものだ。総務省の9月29日の報道発表資料によると、対象は千葉県の42団体で、内訳は29市12町1村。繰上げ交付額は計142億5500万円で、9月29日に交付を決定し、30日に現金を渡した。
団体別では千葉市の30億6700万円が最も多く、南房総市7億700万円、香取市6億7300万円、松戸市6億5300万円、旭市6億4900万円が続く。山武市5億4200万円、いすみ市4億4000万円、我孫子市4億1800万円も4億円を超えた。一方で八千代市は2400万円、御宿町は7200万円、酒々井町と習志野市、白井市は8500万円前後と、同じ県内でも100倍を超える差がある。これは被害の軽重ではなく、もとになる11月の普通交付税額そのものが団体ごとに違うためだ。千葉市のように規模の大きい市は、前倒しされる額も大きくなる。その後、同じ台風第25号で神奈川県の横須賀市と三浦市にも繰上げ交付が決まり、交付総額は160億2300万円に広がった(徳之島町に2億9400万円、横須賀市に14億5500万円 総務省が10月6日に普通交付税の繰上げ交付を決定 台風25号の交付総額は31市12町1村の160億2300万円)。
交付の時期を前に倒して資金繰りを支える
普通交付税は、地方自治体の間の財源の偏りをならすために国が配る使い道の自由な財源で、地方交付税法第16条第1項により4月、6月、9月、11月の年4回に分けて交付される。この定例の時期を前に倒すのが同条第2項の繰上げ交付で、総務省は報道発表資料で「災害により多大な被害を受けた地方公共団体における資金繰りを円滑にするため」と説明している。災害で多額の支出が急に必要になった自治体は、復旧費を立て替える現金がその場で足りなくなる。そこで総務省は、11月分の一部を数か月前倒しで渡し、自治体の資金繰りが回るようにする。交付する額は11月定例交付額の30%と決まっており、名古屋市の1億6100万円から逆算すると、同市の11月定例交付額は約5億4000万円となる。
台風第24号と前線による大雨を理由とする繰上げ交付は、9月15日の名古屋市が最初で、その後は追加されていない。それ以前の2回は別の大雨が対象で、総務省は9月2日、8月27日からの大雨で被災した富山県の高岡市、氷見市、小矢部市、射水市と石川県の羽咋市、志賀町、宝達志水町、中能登町の8市町に計31億1000万円を決めた。翌3日には同じ大雨で福井県福井市に7億9100万円、永平寺町に2億7300万円の計10億6400万円を決めている。名古屋市の1億6100万円が北陸の各市町より小さいのは、もとになる普通交付税の交付額そのものが違うためで、被害の軽重を表す数字ではない。
1時間104.5ミリ、庄内川にレベル5の氾濫特別警報
国土交通省が9月11日午前8時時点でまとめた被害状況(第12報)によると、8日は西日本から東日本に停滞した前線の活動が活発になり、愛知県と岐阜県で線状降水帯が発生した。愛知県では8日の24時間雨量が200ミリを超え、9月のひと月分の平年の雨量に相当する量が1日で降った。特に8日夕方には、愛知県名古屋で1時間104.5ミリ、岐阜県多治見で93.0ミリを観測し、いずれも観測史上1位を更新している。
この大雨を受け、愛知県と岐阜県を流れる庄内川を対象に、8日午後6時20分から9日午前0時40分までレベル5の氾濫特別警報が発表された。支流の矢田川では水位が氾濫発生水位に到達したものの、国交省は調査の結果、川からあふれた氾濫ではなく、下水道などで排水しきれなかった内水による浸水と判断した。名古屋市が管理する2河川でも浸水が確認され、すでに解消している。市内の宮前ポンプ場では雨水用のポンプ6台のうち2台が浸水で機能を停止し、1台は応急復旧、もう1台は部品交換で対応する予定だ。
台風第24号と前線は、その前から各地に記録的な雨を降らせていた。鹿児島県の種子島・屋久島地方では4日夜から5日未明にかけて線状降水帯が相次いで発生し、5日の24時間雨量が450ミリを超えて観測史上1位を更新。7日には伊豆諸島北部の大島で550ミリ、新島で450ミリを超える24時間雨量を記録し、大島町、新島村、利島村にレベル5の土砂災害特別警報が出された。
1か月で6回の決定 熊本地震は616億円
繰上げ交付の決定は、8月31日から9月29日までの1か月で6回に達した。総務省は8月31日、令和8年熊本地震で被災した熊本県と県内の10市9町1村の計21団体に616億円を、同じ日に7月17日から18日にかけての大雨で被害を受けた栃木県足利市に4億6500万円を、それぞれ繰り上げて交付すると決めた。いずれも9月2日に現金を渡している。9月に入ってからは北陸の8市町、福井県の2市町、名古屋市、そして千葉県の42団体と続いた。額が21団体で616億円から1市で1億6100万円まで開くのは、対象の数と、それぞれの自治体が11月に受け取る普通交付税の大きさが違うためだ。この夏から秋にかけて、地震と大雨、2つの台風のそれぞれで同じ仕組みが繰り返し使われたことになる。年度を通じた地方財政の姿は都道府県の経常収支比率、92.2%から93.0%へ悪化 市町村は93.8%から93.3%へ改善 総務省の令和7年度決算速報 財政再生団体は夕張市だけにまとめている。
決定から現金交付までの日程も短い。8月31日決定分は2日後、9月2日と3日の決定分は翌日、名古屋市は15日の決定に対して16日、千葉県の42団体は29日の決定に対して30日の交付と、いずれも数日以内に現金が届く運用になっている。
繰り上げて渡すのはあくまで11月に払う分の一部であり、自治体が年間に受け取る普通交付税の総額が増えるわけではない。名古屋市が11月に受け取る額は前倒しした1億6100万円だけ、千葉市は30億6700万円だけ少なくなる。総務省の報道発表資料も、繰上げ交付は定例の交付時期を繰り上げるものだと記しており、資金が届く時期を動かす措置にとどまる。
