厚生労働省は11日、厚労省と医薬品医療機器総合機構(PMDA)が10日付で、米食品医薬品局(FDA)が主導する抗がん剤の薬事審査に関する国際協力の枠組み「Project Orbis(プロジェクト・オービス)」に正式参加したと発表した。新しい抗がん剤の審査でFDAなどの海外規制当局と密接に情報交換できるようになる。厚労省は、国内での抗がん剤開発を促し、海外で使える薬が日本で使えない「ドラッグラグ・ロス」の解消をめざすとしている。

各国が同時に審査する枠組み

Project Orbisは、FDAのがん専門部門であるOncology Center of Excellence(OCE)が2019年5月に始めた。FDAによると、参加する各国の規制当局が抗がん剤の承認申請を同時に受け付け、並行して審査するための枠組みだ。

通常、製薬会社は国ごとに別々のタイミングで申請し、各国の当局がそれぞれ一から審査する。同じ薬でも、米国で承認された後に日本で申請が始まれば、患者が使えるようになる時期はその分だけ遅れる。同時に申請・審査すれば、当局間で審査の論点やデータの評価を共有しながら進められる。

厚労省によると、正式に参加しているのは米国のほか、カナダ、オーストラリア、英国、スイス、シンガポール、ブラジル、イスラエルの7か国。日本は2022年からオブザーバーとして参加しており、正式参加はこれら8か国・地域に次ぐ9番目となる。

「ドラッグ・ロス」とは何か

厚労省が解消の目標に挙げた「ドラッグラグ」は、海外で承認された薬が日本で使えるようになるまでの時間差を指す。さらに深刻とされるのが「ドラッグ・ロス」で、時間差の問題ではなく、そもそも日本で開発・申請そのものが行われず、いつまでたっても使えない状態を指す。

厚労省が4月6日に公表した未承認薬等迅速解消促進調査事業の整理結果によると、2021年1月1日から2023年3月31日までに欧米で承認された医薬品のうち、2025年3月31日時点で国内の開発に着手されていないものは28品目あった。このうち、医療上の必要性が特に高い「グループA」と判定されたのが5品目、「グループB1」が1品目で、計6品目が医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議で評価される予定としている。

日本で開発が始まらない薬には、開発元が海外のベンチャー企業である場合や、患者数の少ない希少疾患(オーファン)用、小児向けが多いとされる。国内での治験に費用と時間がかかるほど、企業が日本市場を後回しにする誘因が働く。審査当局同士の協働は、この負担を下げる側面がある。

がんは死因の1位

国立がん研究センターの集計によると、2023年に新たにがんと診断されたのは99万3469例(男性55万6059例、女性43万7406例)。2024年にがんで死亡したのは38万4111人(男性22万1786人、女性16万2325人)で、死亡数が多い部位は肺、大腸、膵臓、胃、肝臓の順だった。

抗がん剤の分野では、特定の遺伝子変異を標的にした薬や免疫の働きを利用した薬など、新しいタイプの治療薬の開発が相次いでいる。対象となる患者が細かく絞り込まれるため、1品目あたりの国内の患者数は限られやすく、開発が後回しにされやすい領域でもある。

厚労省は、Project Orbis参加を機に抗がん剤領域での日米協働をさらに深め、対象品目の審査協働を進めるとしている。そのうえで「引き続きドラッグラグ・ロスの解消に向けて取り組むとともに、各国の薬事規制当局との協力を進めてまいります」としている。