厚生労働省は15日、長時間労働が疑われる事業場に対する令和7年度(2025年度)の監督指導結果を公表した。全国の労働基準監督署が2万9150事業場に立ち入るなどして調べたところ、1万1228事業場で労働基準法に違反する時間外労働が見つかり、是正・改善を指導した。調べた事業場の38.5%にあたる。このうち111事業場では、最も長く働いた労働者の時間外・休日労働が1か月あたり200時間を超えていた。
月200時間超が111事業場
違法な時間外労働があった1万1228事業場について、最も長く働いた労働者の時間外・休日労働の時間を段階別にみると、月80時間を超えたのが4991事業場(44.5%)、100時間超が2842事業場(25.3%)、150時間超が554事業場(4.9%)、200時間超が111事業場(1.0%)だった。
月200時間の時間外・休日労働は、その月に20日働いたとすれば、所定の勤務時間に1日あたり10時間を上乗せする計算になる。定時が午後6時までなら、毎日午前4時まで働き続ける水準である。
違反の割合は前年度の42.4%から38.5%へ
前年度の令和6年度は2万6512事業場を調べ、1万1230事業場で違法な時間外労働を確認していた。今年度は対象が2638事業場増えた一方、違反が見つかった事業場数はほぼ同じにとどまり、割合は42.4%から38.5%に下がった。
長時間労働の中身も前年度より改善した。月200時間超は124事業場から111事業場に、150時間超は653事業場から554事業場に、100時間超は3191事業場から2842事業場に、80時間超は5464事業場から4991事業場に、それぞれ減っている。
対象は「過労死ライン」が疑われた職場
この結果は、日本の職場全体を無作為に調べた平均ではない点に注意が要る。厚労省は監督指導の対象について、「各種情報から時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場等」と説明している。つまり、あらかじめ問題が疑われる職場を選んで調べた結果である。
基準となる月80時間は、脳・心臓疾患を発症した際に仕事との関連が強いと判断される目安で、いわゆる「過労死ライン」にあたる。時間外労働には2019年4月(中小企業は2020年4月)から罰則付きの上限が設けられ、臨時的な特別の事情がある場合でも、単月100時間未満、複数月の平均80時間以内といった上限を超えることは認められていない。一方、月80時間に届かない時間外労働で脳・心臓疾患が労災と認められる事案は、令和4年度以降に年40〜50件台へ増えている(精神障害の労災請求4958件、1年で1178件増 令和8年版過労死等防止対策白書)。業種別では運輸交通業で違法な時間外労働が見つかった割合が高く、人手が足りない現場との重なりは人手不足の全体像 求人倍率1.18倍の裏で、建設躯体8.25倍・一般事務0.29倍で整理した。
残業代の不払いは減り、健康対策の不備は増えた
働いた分の賃金が支払われない賃金不払残業が見つかったのは1901事業場で、調べた事業場の6.5%だった。前年度の2118事業場(8.0%)から減った。
監督指導で是正されず送検に至った事案は、厚労省が企業名つきで一覧にしている。2025年10月から1年間の公表分は労働基準法令違反の送検、1年で406件 機械の危険防止が最多・賃金不払いも 厚労省が10月30日に一覧更新のとおりで、違法な残業を問う労働基準法第32条違反は19件だった。
支払われる割増賃金の率そのものにも、職場に労働組合があるかどうかで差がある。残業の割増賃金率が法定の下限を超える企業、労働組合があると18.7%・ないと2.7% 厚労省が組合の有無で特別集計 フレックス制も19.5%と6.7%の差のとおり、厚生労働省の特別集計では、時間外労働の割増賃金率を一律に定める企業のうち率が26%以上の企業は、組合がある企業で18.7%、ない企業で2.7%だった。
一方で、長時間働いた労働者に医師の面接指導を受けさせるなど、健康障害を防ぐための措置をとっていなかった事業場は5919事業場(20.3%)にのぼり、前年度の5691事業場から増えた。労働時間の把握方法が適正でないとして指導を受けたのは4045事業場(13.9%)。過重労働による健康障害を防ぐための指導票は、調べた事業場の43.9%にあたる1万2811事業場に交付された。
労働時間をきちんと把握していなければ、上限規制も面接指導も出発点から機能しない。違法な残業の割合が下がる一方で健康対策の不備が増えた今回の結果は、時間の長さを抑える取り組みと、働いた人の体を守る取り組みとが、必ずしも同じ速さでは進んでいないことを示している。
