総務省は9月7日、地域社会DX推進パッケージ事業の一つ「地域共有型エッジAI実証タイプ」で、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)とNTTドコモの2件を選定したと発表した。7月1日から31日まで公募していた。実証の支援期間は今年9月ごろから2027年3月ごろまでで、事業の予算は2億円程度、1件あたりの上限は1億円程度だ。

AIを端末にも雲にも置かず、街の一角に置く

エッジAIは、データをインターネットの先にあるクラウドへ送らず、利用する場所の近くでAIの計算を済ませる方式を指す。今回の「地域共有型」はそこからもう一歩踏み込み、商業地域や農業地域といったエリア、あるいはビルの中といったスポットをカバーするAIの処理設備を1か所に置き、近くにある複数の端末がそれを通信で共有して使う形をとる。

総務省の事業概要資料は、この方式の利点を二つ挙げている。端末1台ごとにAIの計算能力を積む必要がなくなるため、端末あたりのAI費用を下げられること。そして、遠くのクラウドに投げて返事を待つより処理の遅れが短くて済むことだ。想定する検証例として、工場内で動く搬送ロボット群の制御や、農場での遠隔での発育状況の分析、害獣の検知を示している。

今年度の公募では、AIを端末そのものに載せるタイプのエッジAIは対象から外された。狙いを「地域で共有する基盤」に絞った形になる。

ATRは案内アバター、ドコモは無線の実力を測る

ATRの実証は、施設案内のサービスが題材だ。ロボットの姿をしたアバターとCGのアバターを使い、定型的な案内はAIが担当し、必要なときだけ人が遠隔から入って応対する。検証の主眼は、AIの計算をどこに置くかで使い勝手がどう変わるかにある。①すべてクラウドで処理する構成、②MEC(通信網の利用者に近い側に処理設備を置く方式)だけで完結する構成、③MECとクラウドが役割を分け合う構成——の3通りを比べ、AI処理の置き場所と通信経路が、返事の速さ、回答の質、利用者の体感にどう効くかを数字で確かめる。その結果をもとに導入の指針をまとめる計画だ。

NTTドコモは、無線側の性能を測る。ローカル5G(企業や自治体が自前の敷地内に構築できる5G)、ミリ波、Wi-Fiといった複数の無線をひとまとめに構築し、どの方式からでも同じエッジAIを使える実証環境を作る。その上で、ウェアラブル端末のように計算能力を持たせない「機能簡素型」の機器のAI処理を、エッジのサーバーに肩代わりさせる実験を行う。無線環境ごとの特性や性能を押さえることが、産業界での利用例づくりにつながるとしている。

前年度の枠組みでは7件 位置づけは大きく変わった

同じ枠は前年度、「AI検証タイプ」の名前で実施された。そのときに選ばれたのは7件で、ソフトバンクの北海道函館市での混雑予測、NTTドコモビジネスの仙台市の工事現場での通信量削減、楽天モバイルの神戸市のスタジアムでの人流監視、KDDIスマートドローンの大分県でのドローン運航など、地域名と現場が明示された案件が並んでいた。総務省は今年度、内容を刷新したと明記しており、選定は2件となった。今回公表された資料に実証地域の記載はない。

パッケージ事業全体の中で見ると、エッジAIの2億円程度は小さい枠にとどまる。衛星通信や光電融合技術などを扱う「先進的通信システム活用タイプ」は26億円程度、無人運転の「自動運転レベル4検証タイプ」は17億円程度、通信インフラ整備の補助事業は8億円程度が充てられている。総務省は9月7日、地域のDX計画づくりを専門家が支援するメニューの二次公募も始めており、応募は10月2日16時まで受け付ける。