何らかの業務で生成AIを使っている企業の割合は、日本で86.4%――。総務省が7月24日に公表した令和8年版情報通信白書は、前年度調査の55.2%から一気に伸びたとして、米国(90.9%)、ドイツ(91.6%)、中国(98.1%)との差が「大幅に縮まった」と指摘した。ただし白書の数字を業務ごとに分解すると、日本の使い道は議事録やメールの作成補助に大きく偏っており、仕事の進め方そのものを組み替える段階には至っていない実態が浮かぶ。
導入率だけは1年で追いついた
白書は、日本・米国・ドイツ・中国の企業を対象にしたアンケート調査(2025年度企業向け調査)の結果を載せている。生成AIの活用方針を尋ねた設問で「わからない」と答えた企業を除き、「自社の何らかの業務で生成AIを利用している」と答えた割合が86.4%だった。
前年度の同じ調査では、日本は55.2%で、米国90.6%、ドイツ90.3%、中国95.8%に大きく引き離されていた。この1年で米国は90.9%、ドイツは91.6%、中国は98.1%とわずかな伸びにとどまったのに対し、日本だけが55.2%から86.4%へ跳ね上がった格好だ。導入率という一点に限れば、日本は横並びに近いところまで来ている。
個人の側も同じ傾向を示す。生成AIサービスを「使っている(過去使ったことがある)」と答えた人の割合は日本で58.8%となり、前年度の26.7%から2倍以上になった。ただし米国・ドイツの75.6%、中国の93.6%にはなお届いていない。
効果を実感しているのは「議事録・メール」だけ
問題は中身である。白書は業務類型ごとに「業務プロセスがAI中心に変更されている」「部署内の特定業務で活用している」「従業員が個人作業の効率化で活用している」の3択で活用状況を聞いている。この3つを合算すると、最も高いのは「議事録・メール作成補助」の71.2%。次いで「営業・販売」59.6%、「社内ヘルプデスク」50.9%、「研究・商品開発」49.8%と続く。
効果の実感となると、差はさらに開く。導入効果を実感していると答えた割合は「議事録・メール作成補助」が72.3%で突出し、「社内ヘルプデスク」42.7%、「製造・生産」39.8%、「研究・商品開発」39.1%の順。「経営」は20.1%、「人事」は23.5%、「調達」は25.9%にとどまった。文章を下書きさせる用途では手応えがある一方、判断や企画が絡む業務では効果を感じられていない。
さらに踏み込んだ指標が「業務プロセスがAI中心に変更されている」という回答だ。これはどの業務類型でも1割台にとどまり、最も高い「社内ヘルプデスク」でも11.9%、「議事録・メール作成補助」は11.3%だった。裏を返せば、議事録・メール作成補助での活用71.2%のうち半分にあたる35.2%は「従業員が個人作業の効率化で活用している」、つまり現場の個人が自分の手元で使っている段階である。白書は米国・中国について、各業務類型で活用率が高く、特に「研究・商品開発」で効果の実感が高いと対比している。
4社に1社は「組織的な取組はない」
こうした偏りの背景として白書が挙げるのが、組織としての態勢の薄さだ。生成AI活用による業務変革について、全社横断・部署単位・個人業務単位のいずれかで組織的に取り組んでいると答えた日本企業は65.6%。一方で「組織的な取組はない」が27.0%に上り、米国・ドイツ・中国に比べて「顕著に高い」とされた。企業規模別では中小企業でこの割合が特に高い。
環境整備の面でも差がある。日本で最も多かった回答は「業務プロセスの見直しや生成AI活用検討に必要なスキルやノウハウを学ぶ環境がある」だったが、他の3か国では「生成AIに社内データを学習させたり、生成AIが参照可能なデータベースを構築したりしている」が5割を超え、日本を大幅に上回った。社内の情報をAIが読める形に整える作業が進んでいるかどうかが、使い道の広さを分けている可能性がある。
「入れたか」から「何に効いたか」へ
情報通信白書は総務省が毎年公表する年次報告書で、令和8年版は第I部の特集を丸ごとAIに充てた。今回の調査結果は、日本の生成AI導入が「入れたかどうか」で語れる段階を終えつつあることを示している。導入率が9割近くに達した以上、次に問われるのは、どの業務で何が変わったかという中身だ。
白書は、AI導入で効果を出すための要素や、効果創出のステップにも章を割いた。中外製薬やアイニコグループへの個別ヒアリングを載せ、業務領域別の活用事例をまとめているのも、導入の先にある「使い方」に関心が移っていることの表れといえる。白書が映したのは、全社の仕組みとしてではなく、従業員一人ひとりの机の上で使われている生成AI、という日本企業の現在地である。
