国連は9月17日、26の国連機関がそれぞれ公開してきた統計を、一つのサイトから横断して探せる「国連システム・データコモンズ」を公開した。ニューヨークの国連本部でグテレス事務総長が発表した。公開時点で約4400万件のデータが載っており、住所はこれまでの統計サイトと同じ data.un.org である。

「組織図をたどれる人だけが使える」状態を解く

国連システムには、保健、労働、食料、教育、気候といった分野ごとに専門機関が置かれ、各機関が独自のサイトと独自の形式で統計を出してきた。ある国の栄養不良率と就学率と気温の推移を並べたいだけでも、利用者はどの機関がどの数字を持っているかを知ったうえで、複数のサイトを渡り歩く必要があった。

グテレス氏はこの状態について「国連システムの知識に触れられるかどうかが、その組織図をたどれるかどうかで決まってはならない」と述べた。ガイ・ライダー政策担当事務次長も「国連システムは世界でもっとも信頼される公的データの一部を生み出している。しかし、その情報が複数のプラットフォームに分散していると、価値が十分には発揮されない」と説明した。

新しいサイトは、各機関のデータベースを廃止して一本化するものではない。既存の仕組みはそのまま残したうえで、それらをつなぎ、一つの入り口から探せるようにする設計だという。

日常の言葉で聞ける、AIからも読み込める

機能面の柱は三つある。第一に、検索語をデータベース用に組み立てる代わりに、日常の言葉で質問する形で調べられる。第二に、対話型の画面で複数の国や年の傾向を並べて比較できる。第三に、表示された数字がどの機関のどの調査から来たのかを元までたどれる。

三つ目と並んで国連が強調したのが、外部のプログラムから直接読み込むための接続口を開いたことだ。研究者や開発者が自前のアプリケーションに国連の数字を組み込めるほか、AIのシステムが国連のデータに直接つながることを想定している。

グテレス氏は「人々はますますAIに質問し、即座に答えを受け取っている。その答えは、背後にあるデータの質を超えることはない」と述べ、信頼できるデータがAIの回答に取り込まれること、そして答えが根拠までたどれることの重要性を指摘した。生成AIが誤った数値を自信ありげに示す問題が広く知られるなか、公的統計の側を機械可読の形で開いておくという対応にあたる。

事務総長は、まだ参加していない国連機関に加わるよう促し、加盟国には国内の政策づくりや持続可能な開発目標(SDGs)の達成状況の把握に使うよう呼びかけた。研究者、報道関係者、開発者、市民社会、一般の利用者に対しては「使い、試し、改善してほしい」と述べた。

資金はグーグルの慈善部門、土台はオープンソース

実装の費用は国連財団を通じた助成で賄われ、資金はグーグルの慈善部門であるGoogle.orgが提供した。土台には、オープンソースとして公開されているデータ統合基盤「データコモンズ」を使っている。国連自身が一から開発する代わりに、既存の公開基盤と外部資金を組み合わせて立ち上げた形だ。

予算が細る中の「UN80」改革

この事業は、グテレス氏が2025年3月、国連創設80年に合わせて始めた組織改革「UN80イニシアチブ」から生まれた。国連総会は同年7月18日の決議79/318でこの取り組みを歓迎している。改革は、事務局の効率化、加盟国から与えられた任務(マンデート)の実施状況の見直し、機関の構造と事業の再編という三つの柱で進められており、統合や配置転換を含む幅広い見直しが続く。

背景にあるのは、加盟国からの拠出が伸び悩むなかで、各機関が同じような仕組みを別々に抱える余裕が薄れているという事情だ。グテレス氏はデータコモンズを「各機関が個別に動くよりも速く、効率的に築かれた共有インフラ」と位置づけ、UN80が目指す方向の実例だと説明した。

グテレス氏の任期は2026年末で満了する。2期10年の最後の年に、統計という地味だが全機関にまたがる領域で共通基盤を残した形になる。サイトの完成度や、残る機関がどこまで加わるかは、今後の運用にかかっている。