日本銀行の増一行審議委員は9月10日、福井県金融経済懇談会で挨拶し、「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています」と述べた。日銀は9月17〜18日に金融政策決定会合を開き、18日に結果を公表する。

政策金利1.0%、「主要国では日本だけが下にいる」

増氏が利上げの必要性を説明する軸に据えたのが「中立金利」だ。景気を熱しも冷ましもしない金利水準を指し、各国の中央銀行が政策運営の目安として意識している。

算定はまず物価変動を考慮しない「自然利子率」を複数の理論モデルで推計するところから始まる。日銀が今年3月に公表した最新の推計値は▲0.9〜0.5%で、2年半ぶりの算定だった。これに日銀の物価目標である2%を足して名目に直した1.1〜2.5%が、中立金利として扱われている数字である。

現在の政策金利は1.0%で、このレンジの下にある。増氏は挨拶で「日本は欧米と違って政策金利が中立金利の推計レンジを下回っています」と指摘し、その理由をコロナ禍後のインフレ対応の差に求めた。日本では欧米ほど物価が上がらず、マイナス金利を続けられたためだという。

挨拶後の記者会見では「しっかり入れる」という表現の真意を問われ、「日銀自身が示しているレンジの中にまだ下にいる、しかも随分長いこと下にいて、しかも主要国では日本だけが下にいるということについて、ちゃんと早く解消したい」と答えた。政策金利をレンジ内に入れておけば「上げる方でも下げる方でもちゃんと機動的にできる」とも説明している。

実質金利のマイナス「早く解消すべきだ」

もう一つ挙げたのが実質金利だ。名目の金利から物価上昇率(の予想)を差し引いたもので、借り手が実際に負う負担を測る物差しになる。増氏によると、昨年まで1年物も10年物もかなりのマイナス圏にあったが、利上げと長期金利の上昇でゼロを挟む水準まで戻った。それでも1年物から2年物あたりはマイナスのままだ。

増氏はこの状態が続く弊害として、借入利息より不動産の値上がりが上回ることによる不動産価格の高騰、企業の設備投資を必要以上に急がせる作用、家計の預金価値の目減りを挙げ、「今はデフレではないので、実質金利がマイナスという状況は早く解消すべきだと思います」と述べた。

物価は「かなり2%に近接」 物流費と食料品を警戒

一時的な変動要因を除いた「基調的な物価上昇率」について、増氏は「まだ2%の下にいるものの、かなり2%に近接している状況」との見方を示した。生鮮食品やコメ価格の急騰、原油ショック、補助金といった一時要因を取り除いた数値で、持続的に2%を目指す金融政策の判断材料になる。

警戒しているのは物流費と食料品だという。企業間の取引価格を示す企業物価指数について、増氏は挨拶時点の直近の上昇率を7%と示し、「企業の価格転嫁が進んでいる現在、企業物価の上昇は従来以上に消費者物価を押し上げるものと考える必要がある」とした。トラックなどによる自動車貨物輸送の価格は7月に前年比で6%近く上がっており、燃料費補助金の復活でガソリン価格が前年を下回るなかでのこの伸びから、実質的に人件費の転嫁が進んでいる可能性を指摘した。食料品はコメ価格の下落で値上げしにくくなると見られていたが、物流費や包装材、食品トレーの値上がりで「今後値上げの再加速が懸念される」という。

賃上げと利上げが重なる企業の負担にも触れた。増氏は「賃上げの上に利上げが重なって大変だ、という声をよくお聞きします」としたうえで、物価上昇率を抑えられなければさらに大きな賃上げをしないと雇用を維持できない悪循環に陥る、と説明した。賞与や残業代を含まないベースアップに近い賃金は足元で3%前後上昇し、物価を差し引いた実質賃金は「漸くプラス圏に入って来ました」としている。

来週の会合「きっちりと検証して議論する」

記者会見では、市場が次回会合での利上げを98%織り込んでいるとして利上げペースの加速について問われた。増氏は「単刀直入に来週の会合でどうするかということですと、これはもう今の情勢、為替は円高には行ってますけれども、原油の価格、残念ながらまた上がってますし」と述べ、小麦や大豆など国際的な食料価格の上昇にも触れたうえで、「会合はまだ来週ですので、そこまでにきっちりと検証して、しっかりと次の会合で議論することになると思います」と答えた。

利上げがおおむね半年おきだったという見方も否定した。2024年3月のマイナス金利解除以降の間隔は4か月、6か月、11か月、6か月とばらついており、「半年のペースということそのものも、もう結果でしかない」「1回ずつきっちりと議論して検討してやっていく」と語った。

日銀は異次元緩和からの転換として2024年3月以降に5回の利上げを実施し、今年6月に政策金利を1.0%とした。7月31日の会合では据え置きを8対1の賛成多数で決めており、反対した高田創審議委員は1.25%への引き上げを提案していた。高田氏は9月2日の札幌市金融経済懇談会での挨拶で、2026年以降は「一定のペースに囚われず機動的に利上げを行う新たな局面」との認識を示している。

保有資産の圧縮も並行して進む。日銀は今年6月に国債買い入れの減額を停止し、来年度から当面は月2兆円程度、年24兆円前後で買い入れ額を一定にする。買い入れ額は4年前のピーク時には年135兆円に達していた。保有残高もピーク時の590兆円近くから、償還を通じて減っていく見込みだ。