中部電力は9月10日、家庭向けなどの電気料金のもとになる原価の算定に誤りがあり、2024年4月分から料金を過大に受け取っていたと発表した。返金の総額は12億円程度になる見込みだ。小売事業を担う中部電力ミライズは9月29日、その返し方を公表した。2026年11月1日に料金単価を是正し、契約が続いている利用者には2026年12月分以降の電気料金から差し引く形で順次返す。同社は同日、経済産業大臣から求められていた報告を提出し、資源エネルギー庁から再発防止の徹底などを指導された。
3年分の原価を27億円多く見積もった
誤りがあったのは、2024年2月6日に国へ提出した「特定小売供給約款」の変更届出だ。特定小売供給約款は、電力自由化のあとも規制が残る家庭向けの料金メニューで、定額電灯、従量電灯A・B・C、臨時電灯A・B・C、公衆街路灯A・B、低圧電力、臨時電力、農事用電力A・B、深夜電力など計11種別がこれにあたる。
このとき同社は、2024年4月に導入された「発電側課金」に伴って3年分の原価がどれだけ変わるかを見積もった。同社の算定は3年合計で「+501億円」だったが、正しくは「+474億円」で、27億円を多く見込んでいた。9月10日の発表では原因を「月間割引額の年額換算漏れなど」と説明していたが、9月29日に経済産業大臣へ提出した報告では、割引相当額付加単価の二重計上といった算定誤りを検知できなかったこと、数式の誤りや参照先の誤りを見つけられなかったことが具体的に挙げられている。
原価が過大なら、そこから導かれる料金単価も高くなる。多く見積もった27億円のうち、実際に利用者から受け取りすぎた分が12億円程度にあたる。
発電側課金とは何か 「月いくら」で決まる割引
誤りの舞台になった発電側課金は、電力・ガス取引監視等委員会の説明資料によると、送配電設備の維持・拡充にかかる費用をより公平に分け合うための制度だ。それまで送配電網の利用料(託送料金)は小売事業者が全額を負担していたが、系統を使うのは電気を送り出す発電側も同じだとして、2024年4月から発電側にも一部の負担を求めることになった。
課金は、発電設備の能力に応じた固定料金の「kW課金」と、送り出した電力量に応じた「kWh課金」の2本立てで、当面は1対1の割合とされている。系統に逆に流す電力が10キロワット未満の小規模な設備は、当分の間、対象から外れる。単価は原則として2024年度から2027年度までの4年間は変えず、その後は5年ごとに見直す。
ここに割引の仕組みがある。基幹系統への影響に着目した「割引A」と、配電系統につながる電源を対象に特別高圧系統への影響に着目した「割引B」がkW課金に設定されており、いずれも「円/kW・月」という月単位で定められている。さらに同委員会の資料は、エリア全体での割引相当額を合算したうえで各kW課金に均等配分して単価を算定する仕組みを「割引相当額付加単価」と呼んでいる。東京電力パワーグリッドの計算例では、割引相当額付加単価を含むkW課金の単価が1キロワットあたり月87.01円、割引の単価が同30.86円と48.99円で、差し引き7.16円に100キロワットを掛けた716円がkW課金になる。kWh課金は1キロワット時あたり0.28円だ。
中部電力が最初に挙げた「月間割引額の年額換算漏れ」も、のちに報告した「割引相当額付加単価の二重計上」も、いずれもこの月単位・エリア単位で組み上げられた割引を年額や3年分に直す過程での誤りにあたる。同じ発電側課金の割引をめぐっては、関西電力も単価の取り違えによる原価の過大計上を公表している(関西電力、電気料金の原価算定に誤り 発電側課金の割引単価を取り違え3年で約1400万円を過大計上 1契約あたり月最大1円)。
1件あたりは月10円、最大152円
対象は、2024年4月1日以降に特定小売供給約款で契約している利用者で、2026年8月時点の契約口数は500.9万件にのぼる。
1件あたりの精算額は月額で最大152円、最小0円。同社が示した平均モデルは従量電灯Bの30アンペア契約で月の使用量260キロワット時という条件で、この場合は月10円だ。金額としては小さいが、期間は長い。
9月29日の発表では、訂正の前後で基本料金の単価がどう変わるかが契約容量ごとに示された。従量電灯Bの場合、10アンペアは1月につき321円14銭から318円05銭へ、30アンペアは963円42銭から954円15銭へ、60アンペアは1926円84銭から1908円30銭へ下がる。差額は10アンペアで3円09銭、30アンペアで9円27銭、60アンペアで18円54銭となる。このほか電力量料金の単価にも影響が出ており、2024年2月の時点で中部電力は1キロワット時あたり1銭または2銭程度と把握していた。
返還額は、契約ごとに訂正前後の料金単価の差額を月ごとに算定し、1円未満の端数を切り上げたうえで、対象月数を掛けて計算する。契約種別、契約内容、対象月数によって1件ごとに異なる。同社が示した算定例の対象月数は2024年4月分から2026年11月分までの32か月だ。この算定例については、9月29日午後4時に公表した資料で対象月数を「2020年4月分~2026年11月分」と誤記し、同日のうちに「2024年4月分~2026年11月分」へ訂正している。原価の算定誤りを説明する資料そのものに、別の誤記が入っていたことになる。
返金は2026年12月分の電気料金から差し引き
返還の対象になるのは、2024年4月1日から2026年10月31日までの間に対象の契約種別を契約していた人で、すでに契約を廃止した人も含まれる。対象種別には定額電灯や従量電灯A・B・Cのほか、公衆街路灯〔附則〕、農事用電力〔附則〕、農事用電灯〔附則〕、深夜電力〔附則〕といった附則の種別も入る。
同社はまず、2026年11月1日から誤った原価に基づく料金単価を是正する。そのために9月29日、経済産業大臣に対して特定小売供給約款の変更届出を行った。返金は、契約が続いている利用者については2026年12月分以降の電気料金から差し引く方法(料金への充当)で、準備が整った人から順次行う。経済産業大臣への報告では、12月分が最速になる理由を、11月1日に単価を是正したうえで11月分の検針を経て初めて精算の対象となる契約内容が確定するためだと説明している。
すでに契約を廃止した人への返金は、まだ方法が決まっていない。同社は対象者の特定と返還方法の検討を進めており、「可能な限り返還できるよう努める」として、ダイレクトメール、電話、専用のWeb受付などを組み合わせる案を検討中だと報告した。詳細は改めて国に追加報告するとしている。
問い合わせ窓口は9月10日に設けた専用フリーダイヤル(0120-427-416、平日午前9時から午後5時まで)で、最大30ブースを用意した。9月25日までの問い合わせは累計561件で、内容は対象になるかどうか、返還の方法・時期・金額が主だった。専用のWebページも9月29日に開設している。
2024年1月に気づきながら、2年半動かなかった
今回の事案で重いのは、誤りを2年以上放置していた点だ。9月10日の発表では「重大な誤りであると役職者が認識できず、是正に向けた対応が取られなかった」という説明にとどまっていたが、9月29日の報告は日付を追って経緯を明らかにしている。
原価の算定は2023年12月に始まった。発電側課金の導入に伴う発電原価の変動額を中部電力が算定し、その結果を使って中部電力ミライズが料金単価を算定する分担だった。2024年1月24日から26日の間に、中部電力の社内で算定誤りが認識された。このとき影響額の精査、ミライズへの伝達、後任者に分かる形での記録と引き継ぎが指示されている。ただし報告は、中部電力内での伝達指示は確認できたものの、ミライズへの資料共有などの客観的な記録がなく、ミライズが算定誤りを認識していたとまでは確認できなかったとしている。
2月に入ると、中部電力は遅くとも1日までに影響額を精緻化し、原価への影響を約17億円、料金単価への影響を1キロワット時あたり1銭または2銭程度と把握した。それでも、遅くとも2月上旬頃までに「誤りを修正せず、当初の算定結果で変更届出を行う」という方向性が中部電力側で固まったという。ミライズは2月6日、その算定結果のまま経済産業大臣へ変更届出を提出した。
是正の機会は外からも訪れていた。2月9日、電気事業連合会が他の電力会社の届出誤りによる取り下げと再届出の事例を共有し、各社に確認を依頼した。これを受けてミライズは中部電力に確認を行ったが、中部電力は算定誤りを反映した原価算定や監督官庁への相談といった対応を取らなかった。さらに3月頃、中部電力の社内では、算定誤りと影響額約17億円、そして修正しないという対応方針を書いた引き継ぎメモが作成されている。誤った料金は4月1日から適用された。
誤りが表に出たのは2026年6月だった。将来の約款変更届出に向けて中部電力が原価算定のデータを確認する過程で気づき、ミライズに相談した。7月に追加の誤りがないかを精査した結果、影響額は当初把握していた約17億円から27億円へ拡大した。8月から9月にかけて監督官庁へ報告し、両社の取締役会にも報告、外部弁護士による関係者への聞き取り調査を実施したうえで、9月10日の公表に至った。
「独自の正当化理論」 原子力の不適切事案と同じ根っこ
経済産業大臣への報告で、同社は原因をこう総括している。算定誤りを把握していながら是正されなかったのは、中部電力が9月14日に公表した原子力の不適切事案と同じく、「お客さまや社会の視点よりも中部電力社内の論理を優先する『独自の正当化理論』の存在が根底にあり、誤りを認め、速やかに報告し、正すことができなかった組織の機能不全」が本質的な問題だという。その原子力の事案では、浜岡原子力発電所1・2号機の廃炉費用の請求をめぐって工事報告書の書き換えが明らかになっている(中部電力、浜岡1・2号機の廃炉費用請求で工事報告書を書き換え 食い違いは14件から18件に拡大 経産省が追加報告を求める)。
報告は要因を3つに整理した。1つ目は中部電力の組織風土で、「独自の正当化理論」により客観的な算定誤りを将来の不確実性の範囲内と誤って解釈し、再届出が必要な事案だと認識しなかったこと、料金単価への影響が軽微だとして組織として適切な対応を取らなかったことを挙げる。小売料金を正確に算定することへの意識の低さ、上位者が判断したからと担当者が安心してしまう依存も指摘されている。2つ目は中部電力のチェック体制で、制度や届出帳票への理解が不十分で、算定ロジックや参照元データの妥当性を確かめる観点も足りなかったとした。3つ目は中部電力とミライズ双方の報告体制で、届出数値の誤りが判明した際の報告基準や判断責任者が明確でなく、対応が役職者の認識に委ねられていたこと、重要情報の共有や判断が口頭連絡中心で記録が残っていなかったことを認めている。
再発防止策として、中部電力は組織風土改革推進部を新設し、2026年10月から経営トップがコンプライアンス意識の徹底を発信する。チェック面では、所属長・審査者・算定者それぞれで品質を担保するチェックリストを2026年8月に整備済みとし、複数者による確認と算定式・参照先の可視化を進める。報告面では、届出数値やその算定結果に誤りや誤りの疑いが判明した場合、影響額や影響範囲にかかわらず主管部門長への報告を必須とするルールを2026年8月に定めた。重要情報の授受は文書やメールなど記録が残る方法で行い、口頭で連絡した場合も事後にメール等で記録を残す。原価算定に関わる部署への周知は8月に終えており、届出数値に関する重要情報を扱う部署へは2026年10月以降に広げる予定だとしている。
「認可」ではなく「届出」 国の点検は受理から30日
規制の残る家庭向け料金は国のチェックを受けているはずではないのか。ここには手続きの違いがある。
電気事業法の附則第18条第1項は、みなし小売電気事業者が特定小売供給約款を定めるとき、また変更するときは「経済産業大臣の認可を受けなければならない」と定める。認可の要件には「料金が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであること」が入っており、原価の妥当性そのものが審査の対象になる。
ただし同条第3項は例外も置いている。一般送配電事業者に支払う託送供給等約款の料金が増える場合などに対応する変更は、認可ではなく届出でできる、というものだ。中部電力が2024年2月に行ったのは、この「変更届出」だった。届出の場合、約款は受理された日から30日を経過しないと効力を生じず(第5項)、経済産業大臣が内容の変更を命じられるのは「その届出を受理した日から三十日以内に限り」とされている(第7項)。判断の項目は「料金の変更の内容がその変更の目的に照らして必要かつ十分なものであること」などで、認可の要件にある「適正な原価」の文言は置かれていない。
つまり、託送料金の変動に合わせた機動的な改定を可能にする仕組みが、同時に、原価の計算そのものを国が細かく検証する場面を狭めていたことになる。今回の27億円の見積もり過大が2年半表に出なかった背景には、この手続きの性格がある。そして11月1日の単価是正も、認可ではなく変更届出によって行われた。ミライズは9月29日、中部電力パワーグリッドなどの託送供給等約款の変更を踏まえて11月1日から中部エリアの全利用者の電気料金を見直すと発表しており、同日に出した約款の変更届出でこの見直しと誤りの是正を国へ届け出ている。
報告の提出と、資源エネルギー庁の指導
経済産業省は9月10日、中部電力ミライズに対し電気事業法第106条第3項に基づく報告徴収を行った。同項は、経済産業大臣が法律の施行に必要な限度で、小売電気事業者などに「その業務又は経理の状況に関し報告又は資料の提出をさせることができる」と定めた規定だ。求められたのは、本事案に関する事実関係および経緯、需要家への対応方針および対応状況、本事案の原因および実効的な再発防止策の3点だった。
ミライズは9月29日、この3項目についての報告を経済産業大臣に提出した。そして同日、資源エネルギー庁から原価算定誤りに係る再発防止などに関する指導を受けたと発表している。指導の内容は2つで、組織として原因分析や再発防止策を徹底するとともに再発防止策の不断の見直しに取り組むこと、そして過大請求のあった需要家への対応に万全を期すとともに、需要家対応の進捗状況について随時報告することだ。同社は「このたびの指導を厳粛に受け止め、電気料金の返還と再発防止に全力で取り組んでまいります」とコメントした。
電気料金をめぐっては、利用者から集めたお金の扱いが問われる例が続いている。経済産業省は9月11日、再生可能エネルギー発電促進賦課金にあたる納付金を期限までに納めなかったとして、新電力1社の社名を公表している。今回の事案で残る宿題は、すでに契約を廃止した利用者にどう返すかだ。その方法が決まれば、国への追加報告とあわせて公表される。
