金融庁は9月15日、2026事務年度の金融行政方針を公表した。銀行や保険会社への監督・検査で重点的に見る分野として「不動産等の信用リスク」を挙げ、その中身を「国内不動産業向け貸出、大口与信、海外ファンド向け融資、データセンター向け与信を含むプロジェクトファイナンス等」と具体的に書き込んだ。データセンター向けの融資が、当局の方針文書に監視対象として名指しで登場した。

重点監視は「金利」と「集中」の二本柱

方針は、金融システムの安定を確保するための監視項目として二つを挙げている。

一つは金利環境の変化に伴う流動性・金利リスクだ。貸出金や有価証券といった資産と、預金などの負債をまとめて管理するALM(資産・負債の総合管理)の運営状況を確認する。金利が動くことで預金の安定性や資金の調達コスト、貸出から得られる収益がどう変わるかを見る。

もう一つが不動産等の信用リスクである。金融庁は各金融機関について、どこに貸すかという投融資方針、個別案件の審査、融資実行後の期中管理、そして一つの分野に貸出が偏らないようにする集中リスク管理が、実際に機能しているかを確認するとしている。さらに「集中度の高いセクターへのエクスポージャーなど、複数の金融機関に共通するエクスポージャーの状況」を業態をまたいで調べる。個々の銀行が健全に見えても、同じ分野に多くの銀行が同時に貸し込んでいれば、その分野が変調したときに損失が一斉に表面化するためだ。

プロジェクトファイナンスは、借り手企業の全体の信用力ではなく、その事業が生む収益を返済の当てにする融資の形だ。データセンターの場合、建物と電源・冷却設備に巨額の初期投資がかかり、電力の確保と借り手(テナント)の確保が前提になる。想定どおりに稼働しなければ返済原資が細るという構造を抱えている。

前年度の方針には無かった記述

2025事務年度の方針(2025年8月公表)には、データセンターという語は一度も出てこない。信用リスクの監視についても、業種や資産の種類を名指しする記述はなく、「金融機関毎のリスクプロファイルに基づいて、対応すべき課題に優先順位を付け、実効性のある監督・検査を計画的に実施していく」という一般的な書き方にとどまっていた。1年で、監視の対象が抽象から具体へ書き換わった。

方針の脚注は、金融機関の足元の変化として「預金商品の見直しによる預金獲得競争」に加え、「特定セクターへの大口貸出や従前とは異なる条件を含む住宅ローン商品の組成がみられる」と記している。保険会社についても、予定利率の引き上げなど商品戦略の見直しと、資産運用の多様化、資本効率を上げるための生命再保険の利用が進んでいるとした。

大手銀行・証券グループには、海外への業務移管拠点(オフショアリング拠点)の活用を含むグローバルな事業展開や生成AIの活用を踏まえ、必要に応じて立入検査も使いながらグループ全体の管理態勢を検証する。

監督局は夏に二局体制、監督総括審議官を新設

金融庁は方針の中で、この夏に組織再編を行ったことを明らかにした。従来の監督局を「資産運用・保険監督局」と「銀行・証券監督局」の二つに分け、2026年8月には総括審議官を改称する形で「監督総括審議官」を新設した。監督総括審議官の下にある横断モニタリング担当の課室が、二つの局と連携して金融機関のリスクを見る体制をとる。

監督局の二局化は、2025事務年度の方針で「業務の一層の増加が見込まれる監督局を2局体制とし」「設置することを目指す」と書かれていたもので、1年をかけて実現した形だ。

長官がチーフAIオフィサーに

方針は、金融庁自身の業務にも生成AIを入れると明記した。「チーフAIオフィサーに着任した金融庁長官」の下に「金融庁AIトランスフォーメーション会議」を設置し、全庁で取り組みを統括する。過去の政策検討の記録や国内外の政策提言の文書を使った政策立案から日常の事務処理まで、幅広い業務でAIを使う。

監督の現場では、金融機関や利用者から集めた大量の文書やデータをAIで処理し、業務の適切さや財務の健全性のリスクを把握するのに役立てる。市場監視では、パソコンやサーバーの記録を解析するデジタルフォレンジックを含めてAI・デジタル技術の活用を進め、効率化できる領域を洗い出したうえで人材育成と人員配置を見直すとした。前年の方針に、チーフAIオフィサーという役職の記載はない。

金融庁は今回の方針について、政府が2026年7月に策定した「成長投資を促進するための金融戦略」との重複を避け、補完が必要な項目を中心にまとめたと説明している。2026年7月15日に成立した改正金融商品取引法などの施行に向けては、サステナビリティ情報の開示・保証やスタートアップへの資金供給の促進に関する政府令・ガイドライン、保証基準の整備を進める。