電気や鉄道、金融といった基幹インフラを担う事業者に、サイバー攻撃の被害を国へ報告する義務が10月1日から生じる。昨年5月23日に公布されたサイバー対処能力強化法(重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律)のうち、報告義務を定めた第2章などがこの日に施行される。施行日は、3月23日に公布された施行令(令和8年政令第47号)の附則が「法の施行の日(令和八年十月一日)」と明記している。
認知したらまず第一報、30日以内に詳細を書いて出す
報告義務は法第5条に置かれた。対象事業者は、重要な機器に「特定侵害事象」またはその原因となり得る事象の発生を認知したとき、事業を所管する大臣と内閣総理大臣の双方に報告しなければならない。
報告の期限は、内閣府と総務省など8つの府省が共同で定めた命令(令和8年府省令第4号)が決めている。まず認知後に速やかに第一報を出し、その時点で分かっている範囲を記載する。そのうえで、認知した日から30日以内に改めて詳細を記した報告書を提出する、という二段構えだ。
報告の対象は、実際に被害が出た事案だけではない。同命令は、意図に反する動作をさせる不正な指令を含む電磁的記録を受信させられた事象、他人のIDやパスワードが電気通信回線を通じて入力された事象、さらに攻撃の「痕跡が記録される事象」も挙げている。侵入を許した段階、あるいは侵入を試みられた痕跡が残った段階で国に上げさせる仕組みである。
対象は258者 使っている機器も届け出る
義務を負うのは、法が「特別社会基盤事業者」と呼ぶ事業者だ。経済安全保障推進法に基づいて国が指定した特定社会基盤事業者のうち、重要設備につながる「特定重要電子計算機」を使っている者が該当する。
金融分野では、同じ10月1日に報告の用紙も切り替わる。金融庁は9月18日、金融機関の障害報告、10月1日から共通様式へ サイバー攻撃によらないシステム障害も同じ用紙で 監督指針など17本を一括改正を公表し、監督当局への障害報告を関係省庁の共通様式へ移す改正を行った。
その前提となる特定社会基盤事業者は、内閣府の資料によると今年7月1日時点で258者。電気、ガス、石油、水道、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、港湾運送、航空、空港、電気通信、放送、郵便、金融、クレジットカードの15分野で、事業所管大臣が省令の基準に沿って個別に指定している。政府は6月17日に医療分野を追加する改正法を公布しており、公布から1年6か月以内に施行される。対象はさらに広がる。
報告義務とあわせて、機器そのものの届出も始まる。法第4条は、特定重要電子計算機を導入したときに製品名と製造者名などを所管大臣へ届け出るよう求めており、命令はその期限を導入日から4か月以内と定めた。施行時点で既に使っている機器については、附則により施行日から6か月以内、つまり来年3月31日までに届け出る。
命令違反は200万円以下の罰金 中核部分の施行はこの先
届出や報告をしない事業者に対しては、所管大臣が期限を切って是正を命じることができる(第6条)。この命令に違反した場合、法第83条により200万円以下の罰金が科される。内閣総理大臣は、所管大臣に対して命令を出すよう意見を述べることもできる。
政府が同法の目玉と位置づける能動的サイバー防御のうち、通信情報を取得して分析する仕組みは、まだ先である。当事者協定や通信目的送信措置を定めた第3章から第7章について、附則第1条は「公布の日から起算して二年六月を超えない範囲内において政令で定める日」から施行するとしている。公布は昨年5月23日なので、期限は来年11月となる。
同じ10月1日には、自衛隊の側にも新しい任務が加わる。自衛隊法に新設された第81条の3と第95条の4が同日に施行され、自衛隊がサイバー攻撃に使われているコンピューターへ「アクセス・無害化措置」をとれるようになる。通信防護措置を命じるのは内閣総理大臣で、閣議決定は必要だが国会の承認は要らない。
政府側の体制は先行して整えられた。内閣官房のサイバー安全保障体制整備準備室は昨年6月30日に廃止され、事務は国家サイバー統括室に引き継がれている。情報を集める側の司令塔づくりも続いており、政府は9月25日、内閣総理大臣の下にインテリジェンス機能の強化に関する有識者会議を設置した。外国からの影響工作への対処も検討の対象に入る。
報告義務の対象外となる中小企業や委託先を含め、ランサムウェア被害や漏えい報告の動向を並べた全体像はサイバー攻撃と情報漏えいの全体像 ランサム被害は最多123件、入口はVPNと委託先で整理した。
国の側でも被害は起きている。デジタル庁は9月11日、政府共通の業務システム「ガバメントソリューションサービス」(GSS)が不正アクセスを受け、職員らの個人情報約24万6000件が漏えいした可能性があると公表した。10月1日以降は、民間の基幹インフラで同種の事象が起きた場合、その端緒を30日以内に国へ報告する義務が課されることになる。
