片山財務相は4日の閣議後記者会見で、各省庁から出された令和9年度予算の概算要求を取りまとめた結果、一般会計の要求額が約143.1兆円になったと発表した。うち約12.2兆円は、高市内閣が今回初めて設けた『「強く豊かな日本」投資枠』が占める。過去最大の要求規模をどう評価するかを問われた片山氏は「大幅な増加とのご指摘は当たらない」と答えた。
比べる相手は「当初予算」ではないと財務相は説明する
概算要求は、各省庁が翌年度に使いたい額を8月末までに財務省へ出す手続きを指す。財務省がこれを査定して削り込み、12月に政府案として閣議決定する。要求の段階では膨らみ、そこから絞られていくのが例年の流れである。
令和8年度の当初予算は122.3兆円だった。143.1兆円と単純に並べれば20兆円を超える増加になる。会見でも記者から「当初予算と補正予算の一体化や要求上限の撤廃などが大幅増加につながったと思われる」と問われている。
片山氏はこれに対し、比較すべき相手が違うと反論した。令和9年度は「補正予算依存から脱却し、恒常的な施策は当初予算で措置する」という予算編成改革の初年度にあたる。これまでは当初予算を低めに組み、年度途中の補正予算で積み増す運用が続いてきた。毎年必要になる施策を当初予算へ移せば、当初予算だけを見れば当然ふくらむ。そこで片山氏は令和7年度補正予算と令和8年度当初予算を足した約141兆円を比較対象に置き、差は約2.5兆円だと説明した。
補正予算に頼らない効果として、片山氏は「従来短期間の経済対策策定プロセスで議論してきた施策について、今後は予算編成プロセスをフルに生かして腰を据えた議論が可能となる」と述べている。数週間で組み上げる経済対策ではなく、秋から冬にかけての査定で費用対効果を吟味できるという理屈だ。
「投資枠」は要求上限なし、5W1Hの明確化を求める
『「強く豊かな日本」投資枠』は、7月30日の閣議了解で創設が決まった新しい仕組みである。国内投資を通じて潜在成長率――経済が持つ実力としての成長ペース――を引き上げる施策を対象に、通常の歳出とは別枠で措置する。要求上限を設けず、金額を示さず項目だけを挙げる「事項要求」も認めた。
一般会計の要求は約12.2兆円で、GX(脱炭素に向けた産業構造の転換)やAI・半導体向けにエネルギー対策特別会計で求めた分を加えると約14.2兆円になる。片山氏は「戦後の予算編成始まって以来、初めてのこと」と位置づけた。
財務省は同じ4日、査定方針にあたる「『「強く豊かな日本」投資枠』の予算編成についての考え方」も公表した。そこでは「重要なことは、財政支出の額ではなく、その経済成長に与える効果である」と明記している。予見可能性を高めるため複数年度の計画に基づくものを基本とし、計画には「誰が、いつまでに、なにを、どのように行うのか」という5W1Hの明確化を求める。支援対象の技術・分野が収益化や自律性の確保につながるという根拠――文書は「勝ち筋」と表現している――が検証可能な形で示されているか、進捗をモニタリングして必要なら見直す枠組みがあるかを見る。経済安全保障上重要な投資は特別会計で別枠管理する。この特別会計の中身は10月1日の日本成長戦略会議で具体化され、経済安保の投資を特別会計で別枠管理へ 償還財源の裏付けのある「つなぎ国債」で前倒し調達のとおり、複数年度の財源を確保したうえでつなぎ国債を発行する方針が示された。
国債発行額は「適切にコントロール」 政府案は12月
7月30日の閣議了解で示された要求の基準額は、年金・医療等が37.0兆円、防衛力整備計画の対象経費が8.8兆円、裁量的経費が14.5兆円、義務的経費が9.9兆円、地方交付税交付金等が20.9兆円、国債費が31.3兆円となっている。裁量的経費は2割の上乗せまで要望でき、防衛力強化や国土強靱化については事項要求も行われた。各府省庁は補助金・基金や租税特別措置の自己点検の結果を要求・要望に反映させており、その状況は10月9日の関係閣僚等の会議で報告された(租特・補助金の見直し、国税47項目のうち廃止要望は2項目 官房長官「決して十分ではない」)。
片山氏は歳出の絞り込みにも触れ、租税特別措置や補助金の点検・見直しを「いわゆる日本版DOGE(ドージ)」と呼んで施策の優先順位を洗い直すと述べた。DOGEは米国が政府の無駄を洗い出すために設けた組織の通称で、片山氏はそれになぞらえている。この洗い直しの対象がどれだけあるかは、「日本版DOGE」で洗い直す租税特別措置、法人税関係は76項目 適用は延べ251万3286件 研究開発減税1兆69億円のうち3032億円は上位10社で詳しく取り上げている。基金については、長期滞留資金を防ぐための国庫返納の仕組みを整備し、「眠っている資金を『活きた資金』に変えていく」と語った。
財政規律をめぐっては、長期金利が9月1日に約30年ぶりの3%台へ上昇した局面について問われ、「非常に高い緊張感を常に持ってウォッチをしております」と答えた。骨太の方針2026は国と地方の総債務残高が国内総生産(GDP)の何倍あるかという比率を安定的に下げることを財政運営目標の中核に据えており、片山氏はその範囲で可能な財政規模を精査し、通年の国債発行額を具体化する方針を示した。高市首相が新規国債の発行額を40兆円程度に抑えたい趣旨の発言をしたことについては、「総理がおっしゃったということは非常に重い」と述べたうえで、目安として固定されたものではないとの認識を示している。
税金を配る一般会計とは別に、国が市場から集めた資金を貸したり出資したりする財政投融資でも、令和9年度の要求が9月18日の財政制度等審議会に示された(令和9年度の財政投融資要求は19兆400億円 出資にあたる「産業投資」が5003億円から1兆1700億円へ 次世代半導体の量産に1500億円の新規要求)。総額はほぼ横ばいだが、出資にあたる産業投資が2.3倍に増え、次世代半導体の量産への出資1500億円が新規で計上されている。
片山財務相は8月末の主要国財務相会合でも、補正予算で計上してきた経費を当初予算に移す「補正の当初化」などの予算編成改革と、「強い経済」と「財政の持続可能性」を両立させる方針を各国に説明している(日本の2026年成長率見通し、IMFは0.7%から0.6%へ 財務省が審議会に国際金融情勢を報告 米財務長官とは「秩序だった円相場」の重要性を確認)。
各省庁との調整はこれから本格化する。9月30日の経済財政諮問会議では、有識者議員が令和9年度を「責任ある積極財政元年」と位置づけ、補正予算への恒常的な依存から脱却するよう提言した(経済財政諮問会議、令和9年度予算を「責任ある積極財政元年」に 補正予算依存からの脱却を提言 令和7年度補正の物価高対策約3兆円は見直し 長期金利は3%程度)。令和9年度予算の政府案は、12月に決まる。
10月29日の経済財政諮問会議では、投資枠を複数年度の予算運営の仕組みとして具体化する案を有識者議員が示した(諮問会議、補正予算頼みからの脱却を具体化へ 首相が予算編成の基本方針で「財政の全体像」示すよう指示)。
