静岡労働局は9月15日、浜松市中央区の派遣会社「アーティックキャリア株式会社」に対し、労働者派遣法49条1項に基づく労働者派遣事業改善命令を出したと発表した。同社は2024年1月8日から2025年5月31日までの間、派遣契約や労働者への明示義務に関する8つの条項に違反したうえ、職業安定法が禁じる労働者供給事業を手助けしていた。厚生労働省が同日、同局の発表資料を参考配布した。
契約にも明示にも法定の手続きを踏んでいなかった
処分を受けた同社は2021年11月1日に派遣事業の許可(許可番号・派22-301261)を得ている。静岡労働局が認定した違反は8項目に及ぶ。
派遣契約を結ぶ段階では、業務内容や就業場所、指揮命令者、期間といった派遣法26条1項が定める事項を契約に書き込まず、内容ごとの派遣人数も定めていなかった。派遣先から「受入期間の制限に抵触する日」の通知を受けないまま契約を結んだ点(26条5項違反)、派遣先の正社員ら比較対象労働者の賃金情報の提供を受けないまま契約を結んだ点(26条9項違反)も挙げられた。
働く側への説明も欠けていた。派遣労働者として雇い入れる際に本人へその旨を明示せず(32条1項)、派遣にあたって就業条件を示さず(34条1項)、派遣先から受け取る派遣料金の額も伝えていなかった(34条の2)。派遣先への通知(35条1項)と、誰をどこへ送ったかを記録する派遣元管理台帳の作成(37条1項)も行っていない。
こうした状態で行われた派遣は延べ1803人日に上り、実際に働かされた人数は7人だった。1人あたりおよそ258日、平日換算でほぼ1年にわたる。
「請負」の看板で人を回す仕組みを手助け
静岡労働局がより重く見たのは、この派遣が二重の構造の入り口になっていた点である。
発表資料に添えられた図によると、同社が労働者を送り込んだ先はA社だが、実際に働く現場はさらにその先のB社・C社だった。A社はB社・C社と「委託契約」と称して契約を結びながら、実態は自社の労働者を相手方の指揮命令下で働かせていた。これが職業安定法44条が禁じる労働者供給事業にあたる。
労働者供給とは、同法4条8項で「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること」と定義され、派遣法上の労働者派遣に当たるものは除かれる。44条は「何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない」と定める。例外は45条による厚生労働大臣の許可を受けた労働組合等の無料供給だけだ。違反すれば64条10号により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される。
戦前の労務供給請負業が中間搾取や強制労働の温床になった反省から、1947年制定の職業安定法は人を右から左へ回して手数料を取る商売を原則禁止した。その例外として1985年の派遣法が、許可制と契約・明示・台帳という手続きを条件に「派遣」だけを認めた経緯がある。契約書も明示も台帳もない状態で人を送っていた今回の事案は、その例外が成り立つ前提を外していたことになる。
静岡労働局は、同社がA社の行為を知りながら労働者を派遣したことで、A社の職安法44条違反を幇助したと認定した。
命令の中身と、行政処分の段階
改善命令の内容は3点である。第1に、派遣事業と請負事業のすべてについて派遣法・職安法に照らした総点検を行い、違反があれば雇用の安定を図る措置を前提に速やかに是正すること。点検では今回違反が認められた8条項を重点対象とするよう求めた。第2に、違反が起きた経過を明らかにして原因を究明し、再発防止策を講じること。第3に、全社で法令の理解を徹底させ、遵法体制を整備することを命じている。
派遣事業に対する行政処分は、指導・助言から始まり、改善命令(49条1項)、事業停止命令(14条2項)、許可の取消し(14条1項)へと重くなる。今回は2段階目にあたり、許可そのものは残る。ただし改善命令に従わなければ事業停止命令や許可取消しの対象になる。
厚労省が公表している「労働者派遣事業に係る行政処分」の一覧は、実施中のものだけを載せる形式になっている。9月8日現在の版では、改善命令と事業停止命令はいずれも1件も載っていない。同じ一覧の許可取消し欄には、取消しから5年以内の16社が掲載されている。静岡労働局が取り消した例としては、静岡県内の派遣会社1社が2025年1月31日付で許可を失っている。
同社は命令に基づく総点検と是正、再発防止策の実施を求められており、静岡労働局が今後その履行状況を確認する。
