金子恭之国土交通相は9月17日午後、第2次高市改造内閣の発足を前に国土交通省で退任の記者会見を開き、在任332日を振り返った。昨年10月21日の着任から数えて、この日の会見が80回目になるなる。同じ日に発足した改造内閣の顔ぶれは第2次高市改造内閣の閣僚名簿にまとめている。

「自民党としては16年ぶり」

金子氏は会見で「高市内閣発足とともに、自民党としては16年ぶりに国土交通大臣に指名をいただきました。私自身も驚いたわけですが」と述べた。国土交通相のポストは長く自民党の手を離れており、昨年10月の高市内閣発足で党に戻ってきた形だ。

在任中に掲げたのは「国民の安全・安心の確保」「力強い経済成長の実現」「個性をいかした地域づくりと持続可能で活力ある国づくり」の3本柱だという。自身の政治活動26年を踏まえ、「国土交通行政は正に、国民に近いところで全ての方々が関係する、一番身近な行政だ」と位置づけた。この日は総務相も交代しており、同じ日の退任会見は林前総務相が退任会見 在任11か月で26道府県を訪問で伝えた。

熊本地震、非常災害対策本部会議は15回

在任期間は災害対応に重なった。7月28日に令和8年熊本地震が発生し、8月には千葉豪雨をはじめとする線状降水帯による大雨が相次いだ。金子氏の地元は熊本で、「熊本県はこの10年間で4回目の激甚災害です。全てのこの激甚災害は私のふるさとで、私の地元に全て関係をしている」と語った。

地震後は被害状況の早期把握と人命救助の最優先を指示し、省の非常災害対策本部会議を15回開いた。自治体の要請を待たずに物資などを送る「プッシュ型」の支援も指示している。復旧の見通しや進み具合は、SNS(交流サイト)で動画を交えて発信した。

インフラの復旧では、断水した水道の本管が発災から約1か月で直り、九州自動車道は約2週間で全線の一般車両の通行が可能になった。九州新幹線は9月18日に全線が復旧する見込みだと説明し、「高速道路と新幹線という二つの大動脈が復旧する」と述べた。この見込みは、会見の翌日に実際のものとなった(後述)。

復旧の進め方については、まず片側だけでも通れるようにしてから舗装の凹凸を直す、水道はいったん地表に管を転がして水を届けてから埋設管を本格復旧する、という2段階の方式を現場に指示したと明かした。「最初から完全に直そうとすると生活ができない」と理由を挙げている。

8月27日には政府の非常災害対策本部が「被災者の生活となりわい支援のためのパッケージ」をとりまとめた。国土交通省の分は住宅の応急修理の支援、旅行・宿泊料金の割引支援、鉄道復旧への財政・技術支援などで、省内に「令和8年熊本地震復旧・復興支援チーム」、九州地方整備局に「熊本復興まちづくり・住まいづくり・土地対策支援チーム」を置いた。

補正予算は「省の発足以来初めて2兆円超」

予算・法案の実績にも触れた。令和7年度補正予算では、国土交通省の発足以来初めて2兆円を超える公共事業関係費を確保したという。令和8年度予算は、東日本大震災以降で最大規模になったと説明した。臨時国会と特別国会で計6本の法案を提出し、すべて成立している。

後任の井林辰憲氏について、金子氏は「井林新大臣は国土交通省のOBであり、まさに国土交通行政は、私以上に実務的なことも含めて、よくわかっておられる方だ」と語った。首相官邸が公表した閣僚名簿によると、井林氏は国土交通相に加えて水循環政策担当と国際園芸博覧会担当を兼ねる。

金子氏は省の職員約6万人のうち約8割が地方整備局や地方運輸局、海上保安庁、気象庁など地域の現場で働いている点を挙げ、「現場力・総合力を最大限に活かしてほしい」と後任に注文を付けた。会見では、大雨時に事前通行規制をかける国道のアンダーパス(道路が鉄道や別の道路の下をくぐる掘り下げ区間)の対策箇所が前日夜に15か所ほど追加されたことについても質問が出た。金子氏は千葉豪雨や名古屋の市街地の浸水を挙げ、「ハードと言っても限界がありますので、いかにして早く避難するか」と述べ、直轄国道だけでなく都道府県や市町村が管理する道路でも柵や表示の整備を進めるとした。

九州新幹線は会見の翌日、9月18日に全線で運行再開

金子氏が「見込み」として語った九州新幹線の復旧は、会見の翌日に実現した。JR九州が9月18日に公表した10月分の臨時列車の運行計画のお知らせは、冒頭で「『令和8年熊本地震』により一部区間で運行を見合わせておりました九州新幹線につきまして、本日9月18日に全線で運行を再開いたしました」と記している。

運行を取り止めていたのは熊本駅から新水俣駅までの区間だ。JR九州が8月31日に公表した再開後のダイヤの資料によると、再開は9月18日の始発列車からで、資料には「余震等の状況により運行再開日は変更となる場合があります」との注記が付いていた。再開後に乗れる定期列車の切符は、9月1日の正午から売り出している。

ただし、地震前の状態に戻ったわけではない。JR九州は再開後も一部区間で速度を落として運行するとしており、公表したダイヤもその速度制限を反映したものだと説明している。熊本駅から鹿児島中央駅までの各駅では、災害前の通常の時刻での接続列車に乗り換えられない場合があるという。全線がつながっても、所要時間と乗り継ぎの面では影響が残っている。

後任の井林氏は3本柱をそのまま引き継いだ

後任の井林辰憲国土交通相は、発足翌日の9月18日に就任会見を開いた。掲げたのは「国民の安全・安心の確保」「力強い経済成長の実現」「個性をいかした地域づくりと持続可能で活力ある国づくり」で、金子氏が在任中に掲げた3本柱と同じ3つだ。政策の枠組みをそのまま引き継いだ形になる。

最初に挙げたのは災害対応だった。井林氏は令和8年熊本地震と令和8年8月千葉豪雨を挙げ、「まずは災害対応に万全を期すとともに、被災された方々の生活やなりわいの再建が円滑に進むように取り組んでいく」と述べた。熊本地震については、金子氏の時期にまとまった「被災者の生活となりわい支援のためのパッケージ」に基づく支援を続けるとし、「前大臣からも特にお話をいただきました」として井戸の洗浄・修理への支援に触れている。

高市首相から受けた指示の内容も明かした。全閣僚に共通する指示とは別に、国土交通相に対しては災害対応のほか、令和の国土強靱化対策、自動運転の導入促進を含む地域公共交通の確保、「地域未来戦略」の産業クラスター計画に必要なインフラ整備、物流の革新に向けた抜本的・総合的な対策、観光業の振興とオーバーツーリズム対策が挙がったという。さらに航空・鉄道輸送の安定と安全の確保、航空産業の発展、インフラシステムの海外展開、領土・領海・領空の警戒監視、地下水の採取実態の把握を含む水循環施策の推進、2027年国際園芸博覧会の準備と運営も指示されたと説明した。閣僚名簿で井林氏が水循環政策担当と国際園芸博覧会担当を兼ねていることと、指示の内容が対応している。

内水氾濫の検討委員会は、金子氏の退任翌日に発足した

金子氏が退任会見でアンダーパスの対策に触れた論点は、組織の形になった。井林氏は就任会見で、千葉豪雨のような「都市型水害」は「いつでもどこでも起こりうる」との認識を示し、首相の指示を受けて内水氾濫(下水道や水路が雨を流しきれずに市街地があふれる現象)への対応を扱う「水災害調査・対策検討委員会」を9月18日に新たに設置したと述べた。被害の実態と浸水の現象を把握し、課題を抽出して、設備の整備と避難の呼びかけの両面から対策を検討するとしている。

千葉豪雨の現場対応はその後も続いた。印旛沼では堤防の決壊が3か所で起き、井林氏は10月4日に千葉県庁を訪れている(印旛沼の堤防決壊、3か所すべてで荒締切が完了)。

井林氏は9月26日に熊本を視察 井戸の水確保が課題に

引き継ぎから8日後、井林氏は熊本県の被災地に入った。9月29日の会見での報告によると、視察したのは9月26日の土曜日で、南九州自動車道の八代ジャンクション、八代市内の井戸、八代港を回り、被害の状況と応急復旧の進み具合を確認したうえで、熊本県知事と意見を交わした。

井林氏は「多くの井戸が被災し、水の確保が難しくなるなど、被災された方々の生活に深刻な影響が及んでいることを直接伺いました」と述べている。熊本県知事からは、井戸の被災による水の確保の課題と、公共土木施設についてこれから本格的な復旧が必要になることの説明を受け、復旧・復興に向けた「息の長い」技術的・財政的な支援を要望されたという。

金子氏が会見で挙げた水道本管の復旧や高速道路・新幹線の再開は、幹線の機能が戻ったという段階にあたる。一方で井戸や公共土木施設の本格復旧はこれからで、応急の段階を越えた支援が引き続き論点として残っている。