他国から弾道ミサイルが発射され、日本に飛来する可能性があると判明した——そう想定して国と自治体が共同で行う住民避難訓練は、2026年度に全国19件が予定されている。3件目にあたる熊本県人吉市の訓練は9月27日、人吉スポーツパレスの大アリーナを主会場に行われた。残る16件のうち次は10月10日の愛媛県久万高原町で、以降は2027年2月19日の石川県宝達志水町まで続く。
防災無線が流した文言は「建物の中、又は地下に避難してください」
人吉市の訓練は、市が9月9日に告知した予定どおり午前8時30分から正午までの枠で行われた。市は当日午前8時、防災無線で「本日、午前8時30分から、令和8年度人吉市国民保護訓練/防災研修を行います。防災行政無線で特別なサイレン音とメッセージを流します」と予告している。
8時30分の第1報は「訓練。訓練。ミサイル発射。ミサイル発射。ミサイルが発射されたものとみられます。建物の中、又は地下に避難してください。これは訓練放送です」という文言だった。10分後の8時40分には「訓練。訓練。ミサイル通過。ミサイル通過。ミサイルは、8時40分頃、熊本県周辺から太平洋へ通過したものとみられます。避難の呼びかけを解除します。不審な物には近寄らず直ちに警察や消防などに連絡してください」と流し、避難の呼びかけを解除した。市が訓練終了を告げたのは11時50分である。
この2本の文言は、内閣官房がJアラート(全国瞬時警報システム)で流すと定めている内容をなぞったものだ。内閣官房は弾道ミサイル飛来時にとるべき行動として、屋外にいる場合は近くの建物の中か地下へ避難すること、近くに建物がない場合は物陰に身を隠すか地面に伏せて頭部を守ることを示している。屋内にいる場合は窓から離れるか窓のない部屋へ移り、窓ガラスの散乱でけがをしないようカーテンを閉めるよう求めている。発射から着弾までは10分もかからない可能性があるとも説明している。
自衛隊・警察から鉄道・バス・アマチュア無線まで
人吉市が公表した参加機関は、内閣府と総務省消防庁、熊本県知事公室危機管理防災局、陸上自衛隊北熊本駐屯地、人吉警察署、人吉下球磨消防組合、人吉市消防団、日本赤十字社熊本県支部、国土交通省、天草広域連合消防本部、人吉市医師会、人吉球磨薬剤師会、人吉市建設協会、人吉市社会福祉協議会、自主防災組織、西瀬少年消防クラブといった防災・医療の担い手に加え、輸送と通信の民間事業者が並ぶ。くま川鉄道、産交バス人吉営業所、つばめタクシー、むつみ交通球磨営業所、人吉レンタカー、NTT西日本熊本支店である。訓練の主催は内閣官房、消防庁、熊本県、人吉市の4者だ。
訓練項目は、県と市の初動対処訓練、防災行政無線などによる情報伝達訓練、避難所の受付・運営訓練、バスによる域外避難訓練、消防署・警察署・自衛隊・消防団による避難誘導訓練など。スポーツパレスの駐車場では特殊車両の展示も行った。輸送事業者がこれだけ加わるのは、市の訓練が「屋内へ逃げる」だけで終わらず、住民を市外へ運ぶところまで含んでいるためだ。
避難先となる緊急一時避難施設は、内閣官房が示す「近くの建物・地下」にあたる施設を自治体があらかじめ指定したもので、人吉スポーツパレスのように体育館やホールが指定される例が多い。もっとも、爆風や破片を避けるうえで有利な地下の施設は数が限られる。政府が3月に閣議決定したシェルターの基本方針の時点で、地下の緊急一時避難施設は全国4540か所、収容人数は人口の5.9%分にとどまっていた(弾道ミサイルの避難先、地下は全国4540か所 人口の5.9%分にとどまる 政府は3月にシェルター基本方針を閣議決定、目標を都道府県から市区町村単位へ)。
10月24日の福島県会津坂下町は「地下歩道」も避難先に
内閣官房と消防庁は9月18日、福島県と同県会津坂下町の訓練を10月24日午前11時から11時45分ごろに行うと発表した。避難先に指定したのは町立坂下東小学校と「古坂下地下歩道」の2か所で、どちらも緊急一時避難施設である。校内放送で模擬のJアラート音声を流し、屋外にいる参加者が小学校の体育館か地下歩道へ避難する。
体育館だけでなく地下の歩行者用通路を避難先に組み込んだ点は、前述の地下施設の不足を補う現実的な選択といえる。市街地に地下街や地下鉄がない自治体では、地下道や地下駐車場が数少ない地下空間になる。
国は施設の指定をさらに増やそうとしている。消防庁は7月30日、「緊急一時避難施設と一時滞在施設のデュアルユースの推進に関する検討会」を8月4日に開くと発表した。ミサイル飛来などの武力攻撃事態で使う緊急一時避難施設と、大規模自然災害で帰宅困難者らを受け入れる一時滞在施設を同じ建物で兼用できるようにする環境整備を検討するもので、指定促進と災害対策の相乗効果を狙うとしている。検討会は非公開である。
なお、避難の合図となるJアラートそのものが鳴るかどうかも、年4回の全国一斉試験で確かめられている。2026年8月26日の試験では、全国1741市町村のうち自動起動を実施したのは1583市町村で、うち5市町村は機器の故障で住民に音声を流せなかった(Jアラートの一斉試験、8月は5市町村で住民に伝わらず 自動起動したのは1741市町村のうち1583 158市町村は試験に参加せず)。
残る16件の日程 広島と秋田は市町村が未定
2026年度の19件は、6月16日の青森県佐井村、8月26日の長野県佐久市、9月27日の人吉市と続いてきた。残る16件の日程は次のとおりである。
10月は10日に愛媛県久万高原町、15日に新潟県十日町市、20日に宮崎県えびの市、24日に福島県会津坂下町と石川県羽咋市が同日で並ぶ。11月は1日に大阪府和泉市、10日に山形県米沢市と富山県黒部市、29日に熊本県宇土市。12月12日に宮崎県新富町。年明けは2027年1月24日に広島県、25日に千葉県四街道市、26日に栃木県矢板市、30日に秋田県、2月14日に長崎県大村市、19日に石川県宝達志水町である。
このうち広島県と秋田県は、実施する市町村が9月18日の発表時点でまだ決まっていない。7月10日の発表から具体化したのは2件で、実施市町村が未定だった富山県が黒部市に、日程が未定だった宮崎県新富町が12月12日に定まった。日程を曜日でみると、19件のうち土曜か日曜が10件、平日が9件である。住民が参加しやすい休日に寄せる自治体と、行政機関の動きを確かめるため平日に組む自治体に分かれている。
