三菱電機は16日、自動車機器事業を担う完全子会社「三菱電機モビリティ」(東京都千代田区)の発行済株式の50%を、台湾の鴻海精密工業(Foxconn)が全額出資する投資管理会社「Lin Yin International Investment」に譲渡する契約を結んだと発表した。譲渡額は1,150億円を見込む。三菱電機に残る自動車機器関連の権利義務も会社分割で同社に移したうえで、鴻海側と50%ずつ持ち合って共同運営する。国内外の競争法に基づく当局の承認などを条件に、2027年10月に譲渡を終える予定だ。

譲渡額1,150億円はどう決まったか

両社の共同発表と、三菱電機が東京証券取引所の適時開示(TDnet)で出した資料によると、今回の契約では自動車機器事業全体の企業価値を3,200億円と評価した。企業価値は、株主の取り分に借入金などの負債も含めた事業そのものの値打ちを示す。そこから契約締結後の資産の変動を踏まえて株主の取り分にあたる株式価値を算定し、2,300億円とすることで合意した。譲渡額1,150億円は、その半分にあたる。

譲渡の相手のLin Yin社は1998年設立で、本店は台湾・新北市にある。資本金は81億7,704万2,000台湾ドルで、鴻海精密工業が100%を出資する。事業内容は「投資活動全般」とされ、三菱電機との間に資本・人的な関係はないという。

株式の数でみると、三菱電機は会社分割の対価として受け取る予定の新株を含めて1,006株を持つことになり、このうち503株を譲る。譲渡後は503株を持ち、議決権の割合は100%から50%に下がる。三菱電機は、三菱電機モビリティが2028年3月期から連結子会社から外れ、持分法適用会社になるとの見通しを示した。持分法適用会社になると、売上高などは三菱電機の連結決算に合算されず、利益のうち持ち分に応じた額だけを取り込む形になる。

一方で、三菱電機は今回の譲渡に関連し、2027年3月期の連結決算で約1,000億円の減損損失を「その他の損益」に計上する見込みだと明らかにした。2027年3月期の業績予想はほかの要因も含めて精査中で、10月30日に公表するとしている。

切り出す事業の規模

三菱電機モビリティは2024年4月1日、三菱電機の自動車機器事業を引き継いで設立された。社長は三菱電機の上席執行役員を兼ねる田中和徳氏で、社員は三菱電機からの出向者だ。資料によると、同社の売上高は2025年3月期が6,903億8,800万円、2026年3月期が6,575億6,500万円。本業のもうけを示す営業利益は2025年3月期の10億8,000万円の赤字から、2026年3月期は131億8,300万円の黒字に転じた。

ただ、今回の取引の対象はこの1社にとどまらない。三菱電機本体に残っている自動車機器の資産や契約を会社分割で三菱電機モビリティに移すほか、国内外のグループ会社が持つ自動車機器関連の権利義務も、同社やその子会社に集める。こうした対象事業全体の2026年3月期の売上高は8,756億円で、三菱電機の連結売上高5兆8,947億円の約15%にあたる。対象事業の資産は合計7,275億円、負債は合計3,754億円としている。いずれも社内管理上の数字で、監査は受けていない。

自動車機器事業は、三菱電機の報告セグメントでは「インダストリー・モビリティ」に含まれている。会社分割は、移す資産が会社全体に比べて小さい場合に三菱電機側の株主総会の承認を省ける「簡易吸収分割」の手続きをとる。

今後の日程

取引は今後、次の順に進む。

時期 手続き
2026年4月24日 提携の検討開始に関する覚書を締結
2026年10月16日 社内で取引を決定、株式譲渡契約を締結
2027年度上期中(予定) 会社分割契約の締結、三菱電機モビリティの株主総会で承認
2027年10月(予定) 会社分割の効力発生、株式譲渡の実行
三菱電機の自動車機器事業の譲渡をめぐる日程出典: 三菱電機「自動車機器事業に伴う会社分割(簡易吸収分割)等及び三菱電機モビリティの株式の50%譲渡に係る株式譲渡契約締結のお知らせ」(2026年10月16日)

海外のグループ会社が持つ権利義務の移管は、国や地域ごとの許認可の状況を見ながら、株式譲渡の実行日までに終える予定だ。会社分割の対価として三菱電機モビリティが発行する新株の具体的な内容や、分割後の同社の資本金は未定としている。分割の後も、三菱電機モビリティの社名や所在地、代表者、事業内容、決算期は変わらない。三菱電機側も、社名や資本金などに変更はない。譲渡の実行には、日本を含む各国・地域の競争法に基づく関係当局の承認を得ることが条件となっており、審査の進み具合によっては日程が動く可能性もある。

3月の報道から半年で最終合意

今回の合意に至るまでには、段階を踏んだ経緯がある。三菱電機は3月18日、鴻海精密工業による自動車機器事業への出資受け入れが報じられたことを受け、「当社が発表したものではない」とする文書を出した。そのうえで、あらゆる選択肢を念頭に事業ポートフォリオ戦略を進めているとし、三菱電機モビリティの持ち分の一部を譲渡する可能性を検証していると認めた。この時点では「確定した事実・方針はない」としていた。

4月24日には、鴻海精密工業との間で自動車機器事業の共同運営を通じた戦略的提携の検討を始める覚書を結んだ。電動化、自動運転、SDV(ソフトウェアで車の機能や価値を定義・更新できる自動車)を協業の対象に挙げ、三菱電機モビリティへの50%の出資受け入れを視野に検討するとしていた。発表文には、鴻海精密工業で電気自動車(EV)の最高戦略責任者を務める関潤氏と、田中氏が並ぶ写真が載った。

今回の最終合意は、この検討開始から半年近くを経て、法的拘束力のある契約に進んだものだ。3月の時点では方針が定まっていないとし、4月の覚書でも「視野に」との表現にとどめていた50%の譲渡と、その金額や日程が、初めて確定した。

狙いは「日本発のEVプラットフォーム」

両社は共同運営の目的について、三菱電機モビリティが積み重ねてきた電動パワートレイン(モーターやインバーターなど車を動かす電動の駆動系)やソフトウェア・制御の技術と、鴻海精密工業の「市場展開におけるスピード・スケール」を組み合わせると説明している。そのうえで、高品質な日本発のEV用プラットフォーム(基本構造)を提供し、国内の産業基盤の強化と自動車産業の持続的な成長につなげるとした。中長期的には日本発の技術と品質を海外市場へ広げ、「Made in/by Japan」の価値を高めることを目指すという。

鴻海精密工業は、電子機器の受託製造サービス(EMS)で40%を超える市場シェアを持つ企業グループの中核企業だ。共同発表によると、グループの2025年の総売上高は8.1兆台湾ドル(約2,600億米ドル)で、24か国に240以上の拠点を持つ。電気自動車、デジタルヘルス、ロボットの三つの産業に重点的に投資する戦略を掲げている。

一方の三菱電機は、3月の文書で「あらゆる選択肢を念頭においた事業ポートフォリオ戦略」を進めていると説明していた。今回の取引で、自動車機器事業は持分法の対象として半分の持ち分を残しつつ、連結決算からは外れる形になる。三菱電機は4月の覚書の時点で、取引先との信頼関係の維持や部品の安定供給と品質の維持を最優先にするとしていた。譲渡の実行に向けては今後、各国の競争当局の審査が焦点になる。