中小企業で働く人の数が、2040年には2018年に比べて最大で16%減る——。中小企業庁がまとめ、2026年4月24日に閣議決定された2026年版中小企業白書が、こうした推計を示した。15〜64歳の人口が減り続け、働き手の供給そのものが制約される社会が本格的に到来するためだ。白書は「現状維持は最大のリスク」と記し、中小企業に事業構造の転換を促している。

中位推計で約8%、低位推計で約16%

白書は、中小企業における雇用者数の将来推計を2018年を基準として示した。中位推計にあたる「成長率ベースライン・労働参加漸進シナリオ」では、2040年に約8%低下する。経済成長も労働参加も進まない低位推計の「一人当たりゼロ成長・労働参加現状シナリオ」では、約16%低下する可能性があるとした。

推計は、総務省の労働力調査を再編加工した実績値に、労働政策研究・研修機構による性別・年齢階級別の就業者数の推計値を乗じて算出している。ここでいう雇用者は役員を除いた数だ。

前提となる人口の見通しは、国立社会保障・人口問題研究所が令和5年に公表した将来推計人口による。15〜64歳人口は今後も減少が続く見込みで、白書はこれを「労働供給制約社会の到来」と表現し、人手不足がさらに深刻化すると推測している。従業員数過不足DIで見ると、中小企業の人手不足感は2020年前後の感染症の感染拡大以降、高まったままだ。

賃上げは4.65%、それでも余力は小さい

働き手が減る一方で、賃上げは続いている。2025年の春季労使交渉による賃上げ率は、全規模で5.25%、中小組合を対象とした「中小賃上率」でも4.65%となった。2025年度に賃上げを実施した割合(予定を含み、定期昇給は除く)は、中規模企業で約8割に達している。小規模事業者では正社員が約5割、パート・アルバイトが約6割だった。

ただし、その中身は必ずしも好調さの表れではない。白書によると、業績の改善をきっかけとしない賃上げを行う企業の割合は4割を超え、賃上げを実施した企業のうちの過半数を占める。人材をつなぎ止めるために、原資の裏づけが乏しいまま賃金を上げている企業が多数派だということだ。

賃上げの余力を測る指標である労働分配率、つまり付加価値額に占める人件費の割合は、中規模企業で約7割、小規模企業で約8割に上る。稼いだ付加価値の大半がすでに人件費に回っており、白書は大企業と比べて「更なる賃上げ余力は小さい」と分析した。

「稼ぐ力」の土台は原価の把握

白書が処方箋として掲げるのが「稼ぐ力」、すなわち付加価値を生み出す力の強化である。労働投入量が減るなかで付加価値額を維持・増加させるには、労働投入量当たりの成果を示す労働生産性を高めるしかない、という論立てだ。具体策は二つに整理されている。価格転嫁の推進、成長投資による高付加価値化、事業承継・M&Aによる事業再編といった「付加価値額の増加」と、AI活用・デジタル化による「労働投入量の最適化」である。

その土台として白書が重視するのが、経営者が持つべき基本的知識としての「経営リテラシー」だ。なかでも原価の把握は価格交渉の前提になる。中小企業庁は価格交渉において原価計算が有効であり、とりわけ製品・商品・サービスごとに原価を把握することが重要だとしている。

しかし実態は追いついていない。原価を「製品・商品・サービス単位」で把握している事業者は約4割にとどまる。「拠点・事業・部門単位」が約3割で、「全社単位」と「把握していない」を合わせた事業者も約3割存在する。原価管理データを社内のどこまで活用できているかを見ると、「現場担当者まで」が35.0%、「管理職まで」が35.5%だった。白書は、原価管理データの活用を社内に浸透させることが価格転嫁の実現と転嫁率の向上につながる可能性があるとしている。

自社の製品がいくらで作れているのかを把握できていなければ、取引先に値上げを求める根拠も示せない。働き手が2割近く減りうる将来を前に、白書はまず足元の数字を押さえることから始めるよう求めている。