国土交通省は10月16日、自治体などが歩道の段差や幅、バリアフリートイレやエレベーターの場所といった情報をデータにして公開するための「歩行空間における移動支援サービスの取組に関するガイドライン」と、施設のバリアフリー情報を全国共通の形式でまとめる「バリアフリー施設等データ整備仕様」を策定したと発表した。高齢者や車椅子の利用者、ベビーカーを押す人が段差を避けて目的地へ行けるよう、道案内アプリなどの民間サービスにデータを使ってもらう狙いがある。

同省は発表で、自治体ごとに異なる仕様でデータが作られると、地域をまたぐサービスの展開やデータの連携が難しくなり、利用者にとって便利なサービスの実現を妨げると説明した。同じ日、人工知能(AI)を使って歩道の段差などを自動で読み取る現地実証の実施先に、大阪府池田市を選んだことも明らかにした。

何を決めたのか

今回の文書は2つある。1つ目のガイドラインは、自治体のまちづくり・福祉・観光・道路・防災の担当職員らが、データづくりを実際に進める際の手順や考え方をまとめた手引きである。2018年7月に出した従来のガイドラインを改定し、2019年3月の「効率的な歩行空間ネットワークデータ等の整備に向けた手引き」の内容を取り込んだ。

国交省がまとめた概要によると、ガイドラインは自治体の担当者が直面する4つの悩みに答える形で構成されている。「何から始めるべきかわからない」にはデータを整備・更新する作業の流れと手順を示し、「どの部署と組めばよいかわからない」には庁内の体制づくりや、民間事業者・市民団体との役割分担の整理の仕方を解説した。「どんなデータを作ればよいかわからない」には、地域の課題や使い道を踏まえて整備する範囲と優先順位を決める方法を示した。「予算や人材が足りない」には、自治体の既存の施策や業務で持っているデータを、整備と更新に生かす方法を紹介している。

2つ目の整備仕様は、施設のバリアフリー情報をどんな項目と構造で記録するかを定めた技術的な決まりである。データの作り方を全国でそろえることで、別々の自治体や施設管理者が作ったデータを、変換や結合の手間なく組み合わせて使えるようにする。

施設ごとにばらばらだったデータをそろえる

国交省の概要資料によると、これまでバリアフリー施設のデータは施設の管理者がそれぞれ独自の形式で作って公開してきた。役所はCSV、駅はExcel、商業施設はJSONといった具合にファイルの形式が違い、項目も「施設名」「名称」「スポット名」のように呼び方がそろっていない。アプリを作る側は、使う前にデータの変換や結合をしなければならなかった。

新しい仕様は、データを「施設」と「バリアフリー設備」の2種類で大まかに構成する簡素な形にした。「施設」は名称や位置(緯度・経度)など施設全体の情報、「バリアフリー設備」は個々の設備の詳しい情報を記録する。それぞれ必ず入れる「優先項目」と、作る側の判断で選んだり加えたりできる項目を分け、整備の手順も示した。

設備のデータは、バリアフリートイレ、バリアフリー対応のエレベーター、車椅子使用者用の駐車施設など、授乳室やおむつ交換台といった乳幼児用の施設、段差やスロープのある出入口の5つについて仕様を定めた。対象となる施設の例として、仕様は役所や郵便局、銀行のATM、警察署、図書館、学校、病院、福祉施設、大規模な小売店や商店街、ホテル・旅館、公園や体育館、鉄道駅やバス乗り場、公共トイレ、観光施設、駐輪場などを挙げている。

歩道の段差はアルファベット3文字で

道案内に欠かせないもう1つの柱が、歩道を「リンク(線)」と「ノード(結節点)」で表し、幅や坂の傾き、段差の情報を付けた「歩行空間ネットワークデータ」である。国交省はこのデータの整備仕様を2024年7月に改定済みで、今回のガイドラインはその作り方と更新の進め方も解説している。

2024年の改定では、通れるかどうかを判断するのに最低限必要な情報として、幅員(道幅)、縦断勾配(進む方向の傾き)、段差の3つを、それぞれランクで表す方式にした。3つのランクを順に並べた英字3文字(例えば「ABB」)で、その区間の通りやすさが分かる。人だけでなく、自動配送ロボットなどの移動支援にも使えるようにする狙いがある。

ランク 幅員 縦断勾配 段差
S 2m以上(すれ違い可能) 0%(平坦) 0cm(段差なし)
A 1m以上2m未満(通行可能) 0%超5%以下 0cm超2cm以下
B - 5%超8%以下 2cm超5cm以下(電動車椅子で通行可能)
C 1m未満(モビリティで通行可) 8%超18%以下(一部モビリティで通行可) 5cm超10cm以下(一部モビリティで通行可)
Z 1m未満(通行不可) 18%超(通行不可) 10cm超(通行不可)
X 不明 不明 不明
歩行空間ネットワークデータの幅員・縦断勾配・段差のランク区分

出典: 国土交通省「歩行空間における移動支援サービスの取組に関するガイドライン」(2026年10月)

ガイドラインは、各ランクの境目は道路のバリアフリー化に関する国のガイドラインや、車椅子などの性能を参考に決めたと説明している。国交省の資料のイメージ図には、「厳しい坂道と段差を避けた経路」として勾配8%以下・段差5cm以下の経路を選ぶ例や、「この車椅子が通れる経路」として勾配18%以下・段差10cm以下の経路を選ぶ例が描かれている。利用者の体の状態や使う機器に合わせて、通れる道だけを選んで案内する使い方である。

自治体に求められる役割と公開のルール

ガイドラインは、この取り組みでは自治体の役割が重要だとしている。市町村がバリアフリーのマスタープランや基本構想にバリアフリーマップの作成などを明記すれば、鉄道駅などの旅客施設と道路の管理者は市町村の求めに応じて情報を提供しなければならず、建築物や路外駐車場、公園の管理者も情報提供に努めることになっている。ガイドラインはこうした既存の制度を使って情報を集めやすくできると説明する。そのうえで、これまでのように自治体が自前でデータを作り更新するやり方から、施設管理者や教育機関、商工会、市民ボランティアらも加わってデータを整備・更新する体制への移行を描いている。

作ったデータは、営利・非営利を問わず誰でも二次利用できる「オープンデータ」として公開することを前提にしている。利用条件については、出典を示せば自由に使える「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示4.0国際(CC BY)」か、これと互換性のある国の「公共データ利用規約(第1.0版)」を使う考え方を示した。

データの作成や管理を手助けする仕組みとして、国交省は「歩行空間ナビゲーションデータプラットフォーム(ほこナビDP)」という試作システムを運営している。ガイドラインによると、バリアフリー施設等データと歩行空間ネットワークデータの整備システムは現時点で未公開で、3次元地図の整備システムは2025年5月23日に試行運用を始めた。

AIで段差を読み取る実証、池田市で

データづくりの大きな負担は、歩道を1本ずつ調べて幅や傾き、段差を記録する現地調査である。国交省は同じ16日、AIなどを使って歩道の幅員、縦断勾配、段差の情報を自動で抽出する技術と、データ整備の効率化を確かめる現地実証の実施先に池田市を選んだと発表した。

実証に協力する団体は9月3日から10月2日まで募集し、応募した団体の提案書を外部の有識者の助言を踏まえて総合的に評価したという。予定では10月下旬から12月に現地で実証を行い、2027年1月から2月に成果をまとめる。

今回の取り組みは、2014年6月に設けられた有識者委員会(委員長=坂村健・東洋大学情報連携学部機構長)が2023年3月にまとめた提言を踏まえたものである。国交省は、ガイドラインと仕様を参考に自治体がデータ整備を進めることで、バリアフリーのルート案内アプリなどデジタルサービスの創出や高度化につながると期待している。ガイドラインと仕様は同省のウェブサイトで公開されている。