総務省は10月9日、情報通信審議会の陸上無線通信委員会(主査・三次仁慶応大教授)がまとめた「300MHz帯無線式列車制御システムに係る技術的条件」の報告案について、意見募集の結果を公表した。鉄道の列車制御に使う無線の新しい方式を、技術基準適合証明(技適)の対象とするための条件を定める内容だ。7月17日から8月20日までの募集に12件の意見が寄せられ、委員会はこのうち4件を踏まえて報告案を修正した。報告は次回の情報通信技術分科会で審議される。
線路の設備を減らす「無線式列車制御」
従来の列車制御は、レールを電気的に区切った「軌道回路」で列車の位置を検知し、信号機で後続列車の運転士に走行できる区間と速度を示す。報告によると、この方式は長い歴史と高い安全性を持つ一方、線路周辺に軌道回路や信号機、ケーブル類など多数の地上設備が必要で、保守作業の負担が大きい。運転間隔を見直すたびに工事が要り、設備の経年劣化も進んでいる。
これに対し無線式列車制御システムは、走行する列車が自らの位置を把握し、無線を使って車上と地上の間で双方向に情報をやり取りして列車を制御する。報告は、軌道回路などの地上設備を簡素化でき、保守の効率化や輸送障害の削減にも役立つとして、人口減少で働き手の確保が難しくなる中、都市内・都市間の鉄道を問わず導入が期待されていると位置づけた。
300MHz帯を使う方式は、2011年に国内初の無線式列車制御として仙石線(あおば通―東塩釜間)で使用が始まり、2017年には埼京線(池袋―大宮間)に広がった。今後は京浜東北線と山手線への導入が予定され、山手線ではドライバレス運転の導入も計画されている。報告は、このほかにも複数の鉄道事業者が関心を示しているとしている。
新方式は「個別免許」が壁に
今回の検討のきっかけは、無線の変調方式の切り替えだ。従来方式(π/4 DQPSK)は将来の自動運転やドライバレス運転に必要な情報量を送りきれないため、伝送容量を2倍にする新方式「相対空間マッピング変調方式」が採用されている。1チャネル6.25kHzの帯域幅を保ったまま、従来の2倍の毎秒19.2キロビットで送れる。
新方式は、電波の位相に加え、2本の送信アンテナ間の相対的な振幅の差にも情報を乗せる。単純に位相の数を増やす方式に比べて信号点の間隔を広く取れ、雑音に強いまま速度を上げられるという。
問題は制度上の扱いだった。従来方式は電波の型式が「G1D」で、狭帯域デジタル通信方式の無線設備として技適の対象になっている。新方式は振幅にも変調をかけるため型式が「D1D」となり、技適の対象外のため、現状は無線局ごとに個別に免許を受けている。報告は、今後さまざまな線区で導入が進めば新方式の無線局の量産・設置が見込まれ、大量の無線局を1局ずつ免許する対応は導入の障壁になり得ると指摘。新方式に対応した技術基準を作り、技適の対象とすることが効率的な導入に役立つとした。
変調方式も出力も「規定しない」
委員会は5月14日の第100回会合で検討を始め、7月9日の第102回で報告案をまとめた。技術的条件は、使う周波数を移動局(車上)が330MHz帯、基地局(地上)が350MHz帯とし、それぞれ6.25kHz間隔で24波を割り当てる。占有周波数帯幅の許容値は5.8kHzとした。一方で通信方式、変調方式、電波の型式はいずれも「規定しない」とした。今回の検討は新方式の導入が契機だが、将来の拡張性を考えると特定の変調方式に限らない方が望ましいとの判断だ。
基地局は1局につき1周波数を使い、1局の無線エリアは3キロ、1線区に4波を割り当てて繰り返し使うのが基本となる。おおむね12キロ以上離れて干渉のおそれがない線区同士は同じ周波数を使う。報告は、当面導入が予定されている線区は24波で運用できるとしている。総務省が業務用無線の周波数を見直す動きとしては、「総務省、800MHz帯の新無線システムで省令改正案 12日から意見公募 2029年に空くMCA跡地に高速無線とGPSを補う測位網」もある。
JR東日本と三菱電機は賛同、出力の上限は設けず
意見を出したのは法人・団体2件、個人2件、匿名8件。東日本旅客鉄道(JR東日本)は、自動運転やドライバレス運転の導入を検討しているとしたうえで、方式を限らず将来の拡張性に配慮した点を評価し、賛同した。三菱電機も、これまで方式を追加するたびに技術基準の改定が必要だったとして、特定の方式に限らない今回の形を「良い事例」と評価した。
報告案の修正につながったのは4件。異なる鉄道事業者の基地局の配置をそろえられない場合の干渉対策として「アンテナ指向方向の調整など代替的な手段」を追記したほか、地上制御装置が基地局、車上制御装置が移動局にあたることの明記、電波の伝わり方の計算式に関する注釈の書き直し、実測した条件(地上15メートルのアンテナから3ワットで発射し、高さ4メートルの車上アンテナで受信)の追記を行った。
空中線電力(送信出力)は、技術的条件では上限を定めていない。「1キロワットなど暫定でもよいので上限を」との意見に対し、委員会は、線路や周囲の地形に応じた回線設計の柔軟性を確保するため上限は設けず、総務省が免許審査で個別に妥当性を判断するのが適当だと答えた。通信障害の発生率などの成果指標を定めるよう求める意見には、列車制御の性能はシステム全体の仕様によるもので、製造者や鉄道事業者が妥当性を判断すべきだとした。異なるメーカーの機器の相互接続性については、国土交通省の「都市鉄道向け無線式列車制御システム(CBTC)仕様共通化検討会」で取りまとめられているとの考えを示した。
