政府の情報(インテリジェンス)部門の司令塔となる「国家情報局」が2026年7月31日に発足した。同じ日に国家情報会議設置法(令和8年法律第28号)が施行され、その附則で内閣法が改正されたことに伴うもので、それまでの内閣情報官と内閣情報調査室を発展的に解消したうえで、官邸直属の情報機関として内閣官房に置かれた。木原官房長官は同日午前の記者会見で「本日、国家情報会議設置法が施行され、これに合わせ、第1回目となる国家情報会議を開催いたしました」と述べた。官房長官は同日、首相官邸で国家情報局の看板掛けを行っている。
内閣情報調査室は「発展的に解消」された
国家情報局の土台になったのは、首相直属で情報の集約・分析を担ってきた内閣情報調査室(内調)である。内閣官房は、設置法の附則第5条による内閣法の改正で「内閣情報官及び内閣情報調査室を発展的に解消」し、国家情報会議の事務局ともなる情報機関として国家情報局を設置した、と説明している。内閣情報官というポストも同時になくなり、局の事務を統括するのは国家情報局長になった。内閣官房の幹部紹介によると、国家情報局長は原和也氏である。
内閣官房によると、国家情報局には局長と次長のほか、内閣情報分析官8人が置かれる。部門は総務部、分析部、研究部、国内部、国際第一部、国際第二部、経済部と、24時間態勢で情報を集める内閣情報集約センターの8つだ。国際部門が第一・第二に分かれ、経済分野に専従の部が置かれている点に、扱う対象の広がりが表れている。情報収集衛星の運用を担う内閣衛星情報センターも、この局の下に入る。
局の役割は二つある。一つは自ら情報の収集調査に当たり、各省庁が集めた情報を集約して総合分析すること。もう一つは国家情報会議の事務局として、会議の調査審議にかかる事務や資料の整理をしながら、各省庁が行う情報活動の総合調整と、省庁横断的な施策の企画立案を行うことである。法案の概要資料では、外務省や防衛省、警察庁などの情報機関が「プロバイダー」、首相官邸や各省庁が「カスタマー」と位置づけられ、国家情報局がその間に立って政府全体を俯瞰し、戦略的に総合調整を行う図が示されている。
1952年の調査室が源流、74年かけて「局」になった
内閣官房は国家情報局の沿革も公表している。源流は1952年(昭和27年)に総理府へ置かれた内閣総理大臣官房調査室で、1957年(昭和32年)に内閣官房の組織として内閣調査室が設けられた。1986年(昭和61年)には合同情報会議が設置され、内閣調査室は内閣情報調査室へ改組されている。
その後は機能の積み増しが続いた。1996年(平成8年)、緊急の重要情報を24時間体制で集めて首相らに伝える内閣情報集約センターを設置。1998年(平成10年)には内閣情報会議が設けられ、情報収集衛星の導入が閣議決定された。2001年(平成13年)の中央省庁再編では内閣情報調査室長が内閣情報官へ格上げされ、衛星を運用する内閣衛星情報センターが発足している。
2008年(平成20年)に内閣情報分析官が置かれ、2014年(平成26年)に特定秘密保護法が施行、2015年(平成27年)には国際テロ情報集約室が設けられた。そして2026年(令和8年)の国家情報会議設置法の施行を、内閣官房は「国家情報会議を設置、内閣情報官を国家情報局長に格上げ、内閣情報調査室から国家情報局に改組」と整理している。調査室の発足から74年、内閣情報官が置かれてから25年を経ての組み替えになる。
なお国家情報局は、我が国や日本国民に対する脅威に関する情報を広く受け付ける情報提供フォームも、ホームページに設けている。
事務次官級の会議が閣僚級へ格上げ
新設された国家情報会議は、重要情報活動と外国情報活動への対処に関する重要事項を調査審議する機関として、内閣に置かれた。ここでいう外国情報活動への対処には、影響工作への対処も含まれる。
議長は内閣総理大臣が務め、議員は内閣総理大臣臨時代理、内閣官房長官、金融担当大臣、国家公安委員会委員長、法務大臣、外務大臣、財務大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、防衛大臣の10人である。金融庁、警察庁、公安調査庁、海上保安庁といった情報を扱う機関の担当閣僚が並ぶ構成で、出席者は議題に応じて議長の判断で増減できる。
重要なのは、これが「ゼロからの新設」ではなく格上げだという点だ。内閣官房は、法施行前に置かれていた内閣情報会議は事務次官級で、今回その格上げが図られたと説明している。事務方の申し合わせの場だったものが、首相と関係閣僚が自ら方針を決める場に変わった。
会議が決める5つの事項
法案の概要資料によると、国家情報会議が調査審議するのは次の5つである。
第一に、重要情報活動に関する基本的な方針。ここには関係行政機関における重要情報活動の重点、関係行政機関の連携・協力に関する重要事項、情報収集衛星の開発・運用に関する重要事項が含まれる。第二に、外国情報活動への対処に関する基本的な方針。第三に、重要情報活動の推進と外国情報活動への対処に際して配慮すべき内外情勢についての基本的な認識と評価。第四に、特に重要な事案の総合的な分析・評価。第五に、その他の重要事項である。
会議に情報が集まる仕組みも法律に書き込まれた。第7条は、内閣官房長官と関係行政機関の長が、会議の調査審議に資する資料や情報を適時に提供し、議長の求めに応じて資料・情報の提供と説明その他必要な協力を行わなければならない、と定めている。各省庁が持つ情報を会議へ上げることを義務として明記した条文で、縦割りで情報が滞る事態を避けるねらいがある。
外部の目を入れる場も後から設けられた。政府は9月25日の内閣総理大臣決裁でインテリジェンス機能の強化に関する有識者会議を設置し、構成員17人による第1回会合を9月28日とした。庶務は国家情報局が担う。
首相は「改革の第一歩」と位置づけ
高市早苗首相は、法律が成立した5月27日の記者会見で、この法律を「我が国のインテリジェンス機能を強化するための改革の第一歩」と述べた。また「我が国のインテリジェンスの基盤を整備する、そして情報力を高めることによって、直面する困難な課題に的確に対応する」と語り、国家情報会議と国家情報局については「衆参両院の附帯決議も踏まえまして、運用をしてまいります」と説明した。
情報を集約する体制は、実際の事案への対応と地続きにある。政府は9月、北朝鮮のハッカー集団による攻撃を日米豪独で名指しして公表しており、こうした複数国・複数省庁にまたがる判断が、今後は国家情報会議と国家情報局を通す形になる。テロが起きたときの政府の初動を定めた閣議決定も、首相らへの報告を国家情報局を通じて行う形に改められ、10月にはCBRNEテロに専門家会議を置く改正も加わった。9月18日に閣議決定された高市改造内閣の基本方針でも、強い経済と並んで外交・安全保障が柱に据えられている。
会議が何を扱ってきたかは、内閣官房が公表している開催状況で分かる。7月31日の初回の議題は「会議の運営方針・諸規則の制定等について」で、まず会議そのもののルールづくりから入った。2回目は9月25日に開かれ、議題は「令和8年度上半期の情勢認識及び令和8年度下半期の重点事項について」だった。有識者会議の設置が決まったのと同じ日である。ただし公表されているのは議題までで、議事の内容や会議が定める基本方針の中身、局の人員規模は、現時点で一次情報としては確認できていない。
その後、9月28日には国家情報局が庶務を担う有識者会議の初会合が開かれ、政府の情報活動の中長期的な推進方策を「国家情報戦略」として取りまとめて公表する方針が示された。
