警察庁がまとめた令和8年版警察白書によると、2025年(令和7年)に全国で確認された財産犯の被害額は4983億6000万円で、前年の4020億7000万円を962億9000万円上回った。10年前の2016年(平成28年)の1473億円と比べると3.4倍になる。白書がいう財産犯とは、強盗、恐喝、窃盗、詐欺、横領、占有離脱物横領の6つを指す。
罪種別では詐欺が4029億5000万円で全体の80.9%を占めた。以下、窃盗775億円(15.6%)、横領159億6000万円(3.2%)、恐喝9億3000万円(0.2%)、占有離脱物横領6億9000万円(0.1%)、強盗3億4000万円(0.1%)と続く。金額のうえでは、財産を狙う犯罪のほとんどが詐欺という構図になっている。
増えた963億円のうち874億円は現金
被害の中身を現金と物品に分けると、2025年は現金が3466億4000万円、物品が1517億3000万円だった。前年からの増え方には差があり、現金が874億4000万円増えたのに対し、物品の増加は88億6000万円にとどまる。1年間で増えた962億9000万円のうち、9割が現金で奪われた計算になる。
財産犯の被害額は2019年(令和元年)の1193億3000万円が直近10年の底で、そこから6年連続で増えている。とくに2022年の1607億8000万円から2023年2519億1000万円、2024年4020億7000万円と、ここ3年の伸びが急だ。品物を盗まれる被害が横ばいのなかで現金の被害だけが膨らんでいることは、被害の中心が侵入や置き引きから、だまして振り込ませたり手渡させたりする手口へ移っていることを示している。
被害額の65%を占める特殊詐欺 4年で11.6倍に
詐欺被害を押し上げているのが特殊詐欺だ。白書によると、2025年の認知件数は4万3000件、被害額は3257億4000万円で、認知件数は5年連続、被害額は4年連続で増加し、いずれも過去最悪を更新した。特殊詐欺だけで財産犯の被害額全体の65.4%、詐欺被害額の80.8%を占める。
被害額は2021年の282億円から11.6倍に膨らんだ。急増の背景には、2023年からSNS型投資詐欺・SNS型ロマンス詐欺が特殊詐欺の統計に加えられたことがある。SNSで投資話や恋愛感情を装って近づき、多額の送金を繰り返させる手口だ。認知件数と被害額から1件あたりの平均被害額を割り出すと、2021年は約195万円だったのに対し、2025年は約758万円に上がっている。件数が3倍に増えただけでなく、1件で奪われる金額そのものが4倍近くになった。特殊詐欺の被害は2026年に入っても増えており、3月末までに937億9000万円と前年同期を413億9000万円上回っている。
認知は3倍でも検挙件数はほぼ横ばい
被害が膨らむ一方で、摘発は追いついていない。特殊詐欺の検挙件数は2021年の6600件から2025年は7205件、検挙人員は2374人から2735人で、認知件数が1万4498件から4万3000件へおよそ3倍になったのとは対照的にほぼ横ばいだ。
刑法犯全体でも同じ傾向がある。2025年の認知件数は77万4142件で4年連続の増加となり、新型コロナウイルスの感染拡大前だった2019年の74万8559件を2万5583件上回った。検挙件数は26万4485件から30万1055件へ増えているが、認知件数の伸びのほうが大きく、検挙率は2021年の46.6%から2025年は38.9%に下がっている。
「匿名・流動型犯罪グループ」対策が焦点に
白書は特殊詐欺を、SNSなどでその都度実行役を集めて離合集散する「匿名・流動型犯罪グループ」の資金獲得活動の一つと位置づけている。実行役が使い捨てで入れ替わるため、末端を検挙しても指示役や首謀者にたどり着きにくいことが、検挙が伸びない一因とみられる。
警察はこれに対し、都道府県警の管轄をまたいで捜査を進める「特殊詐欺連合捜査班」(TAIT)を2024年4月に各都道府県警へ置き、2025年はこれを使って535件を検挙した。捜査員が身分を隠して犯罪実行者の募集に応じる「仮装身分捜査」も2025年に13件実施している。2025年10月には警察庁に「匿名・流動型犯罪グループ情報分析室」、警視庁の対策本部に全国の捜査員で構成する専従チームを新設した。政府は2025年4月の犯罪対策閣僚会議で「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」を決め、預貯金通帳の不正譲渡などへの罰則引き上げを含む法令の見直しも検討課題に挙げている。
