日本学術会議は10月1日に法人化し、会長に加藤和人氏を選任した。公式サイトに掲載した「発足のお知らせ」で明らかにした。あわせて公式ウェブサイトを公開している。
法人名はそのまま、所在地は港区六本木
「発足のお知らせ」が示した法人概要は、法人名が日本学術会議、英語名称がScience Council of Japan、所在地が東京都港区六本木7-22-34である。名称も所在地も国の機関だったときから変えていない。学術会議は発足にあたり、学術の向上発達を図るとともに、学術に関する知見を活用して社会の課題の解決に寄与し、人類社会の持続的な発展と国民の福祉の向上に貢献するとした。
法人としての最初の対外発信は、同じ10月1日付の会長談話だった。加藤会長名で「ウクライナ国立科学アカデミーへの攻撃について」を出し、死傷者を伴い同アカデミーに被害をもたらしたロシアによる攻撃を「強く非難します」と表明している。研究機関や研究施設は学術活動を支える基盤であり、その被害は当該機関だけでなく国際学術コミュニティ全体の損失だとして、ウクライナの研究者らへの連帯を示した。
会長は「会員のうちから、総会の決議で」
会長の選び方は新法が定めている。日本学術会議法(令和7年法律第70号)第21条第1項は、会長を「特に優れた研究又は業績があり、人格が高潔で、かつ、会議の業務を適切かつ効果的に運営することができる能力を有する会員のうちから、総会が、その決議により選任する」と規定する。任期は選任の時から、選任後3年以内に到来する会員の任期の末日以後、最初に開かれる総会で次の会長が選ばれる時までで、職務の執行が特に優れたものであるときは1回に限り再任されることができる。
選任の準備は法人成立の前に進んでいた。学術会議は8月6日と7日に第197回総会(臨時総会)を開き、会員予定者の候補者案を議決するとともに、会則などの主要な規程案と会長の選任方針案を議題にのせた。会長が提案した「成立時総会における会長の選任に関する方針(案)」は、法第21条第1項の要件に加え、会長に求められる資質として「学術及び学術会議の方向性への明確なビジョン」「組織マネジメント及びガバナンスに係る能力・経験」「会員や国民・社会とのコミュニケーション能力」の3つを挙げている。
法は選任の後にも義務を課している。第21条第4項は、会長が選任されたときは遅滞なくその旨を内閣総理大臣に届け出るとともに、「会長の選任の理由その他内閣府令で定める事項を公表しなければならない」と定める。10月1日の「発足のお知らせ」は選任の事実を伝えているが、選任の理由には触れていない。
10月1日から「国の機関」ではなくなった
新法は令和7年6月18日に公布され、附則第1条で「この法律は、令和八年十月一日から施行する」と定めていた。10月1日が学術会議の法人としての出発点になった。
これまでの学術会議は、旧法(昭和23年法律第121号)に基づく国の機関だった。新法は第3条で「会議は、法人とする」と定め、主たる事務所は東京都に置くと規定している。資本金は政府の出資額の合計とし、必要と認めるときは予算の範囲内で政府が追加出資できる。国の組織の一部から、政府が出資する独立した法人へ器を移す形だ。
一方で新法は第2条第2項に、国は法律の運用にあたり「政府の諮問に対する答申等を行うという会議の組織及び業務の特性に鑑み、その運営における自主性及び自律性に常に配慮しなければならない」との規定を置いた。法人化した後も運営の自主性と自律性に配慮するよう、国の側に義務づけた規定である。
評価委員会は内閣府に設置、委員は会員以外から
政府は9月11日の定例閣議で、法人化に伴う政令2本を決定していた。「日本学術会議法の施行に伴う関係政令の整備に関する政令」と「日本学術会議評価委員会令」で、いずれも内閣府本府が所管する。この日の閣議では、政府、経済安保の基本方針と指針5本を一括改定 海外の港湾・通信設備の整備を国が後押しする新制度の指針を初決定で扱った経済安全保障関係の基本指針の決定・変更もあわせて決まっている。
評価委員会の枠組みは法第51条が定める。内閣府に日本学術会議評価委員会を置き、日本学術会議評価委員5人以上7人以内で組織する。委員は会員その他内閣府令で定める者以外から選ばれ、学術研究の動向と内外の社会経済情勢、産業や国民生活における研究成果の活用状況、または組織の経営に関して「広い経験と高い識見を有する」ことが要件になる。任命するのは内閣総理大臣で、任期は3年、1回に限り再任されることができる。
評価委員会の仕事は2つだ。1つは、学術会議がまとめる自己点検評価書について、点検の方法と結果を調査審議し、必要があれば学術会議に意見を述べること。もう1つは、中期的な活動計画について意見を述べることである。
6年ごとの計画と毎年度の自己点検
新法は学術会議に、6事業年度ごとに中期的な活動計画を定めるよう義務づけた。計画には業務の目標と達成手段、業務運営と財務内容の改善目標、人件費の見積もりを含む予算や収支計画などを盛り込む。策定するときも変更するときも、評価委員会の意見を聴くことが条件になっている。計画を定めたり変更したりしたときは、遅滞なく公表しなければならない。毎事業年度の開始前には、中期的な活動計画に基づく年度計画も定めて公表する。
毎年度の点検はより細かい。学術会議は事業年度が終わってから3か月以内に、自らの業務の実績を点検・評価した報告書を評価委員会へ提出し、公表する。財務諸表は内閣総理大臣に提出して承認を受ける仕組みで、業務を監査する監事も置かれる。
監事2人を9月16日に指名
移行の実務は法人成立の前から動いていた。新法の附則は、内閣総理大臣が施行日の前に、会員となる予定の人を指名し、そのなかから会長が選ばれるまでの間に会長の職務を代行する人を指名すると定めた。監事となるべき人も、施行日前に内閣総理大臣が指名する。指名された監事は、法人が成立した時点で監事に任命されたものとみなされる。
内閣府は令和8年9月16日付で、日本学術会議法附則第8条第2項に基づき、監事となるべき者2人の指名を公示した。BACeLL法律会計事務所代表の石田惠美氏と、東京国際大学大学院経済学研究科教授で研究科長の清水誠氏である。法第23条は監事の員数を2人とし、会員以外の者から内閣総理大臣が任命すると定めており、法律・会計の実務家と経済学の研究者という組み合わせになった。
会員予定者は125人
法人としての学術会議を構成する会員予定者は125人である。学術会議が8月21日に公表した会員予定者名簿には、大学教授や研究所長など125人が五十音順で並び、所属・職名と専門分野が付されている。
選考の入り口は推薦だった。法附則第4条に基づき、大学、研究機関、学会、経済団体その他の民間団体など多様な関係者と、現在の会員・連携会員から、「優れた研究又は業績がある科学者」の推薦を受け付けた。旧法の下では、会員は学術会議が推薦した候補者を内閣総理大臣が任命する仕組みだった。新法では、法人の設立時の会員について、候補者選考委員会が選んだ候補者をもとに内閣総理大臣が指名する形をとる。推薦の入り口を学界の外にも広げた点が、旧法との違いになる。
残るのは評価委員と副会長の人選
発足後に残っている人事は2つある。1つは内閣府に置かれる評価委員会の委員5〜7人で、内閣総理大臣が任命する。もう1つは副会長だ。法第22条は副会長の員数を3人以内とし、会員のうちから総会の同意を得て会長が任命すると定める。いずれも本稿執筆時点で、内閣府・学術会議の公表資料では確認できていない。
学術会議の運営を支える機関としては、会員候補者選定委員会、選定助言委員会、運営助言委員会が置かれる。選定助言委員会は選定助言委員5人以上7人以内で組織し、委員は会員以外の優れた研究又は業績を有する科学者のうちから総会が選任する。会長は学術会議を代表し、経営に関する事務を取りしきるとともに、経営の状況を定期的に総会へ報告する義務を負う。最初の節目は、事業年度末から3か月以内に提出する自己点検評価書と、評価委員会の意見を聴いて定める中期的な活動計画になる。
