経済産業省の中小企業庁は、人手不足が深刻になる「労働供給制約社会」を見据えた中堅・中小企業向けの新たな戦略をまとめた。事業の立て直しや生産性の向上、企業同士の再編を後押しし、「稼ぐ力」の強化と賃上げの好循環を目指す。6月24日に公表した。

「数より質」で強い中小企業を

「労働供給制約社会」とは、少子高齢化で働く人の数が減り、人手を十分に確保しにくくなる社会のことだ。中小企業庁は、こうした時代には「人も中小企業も、数より質が大事になる」と指摘する。

そのうえで、現状維持ではなく、事業の作り直し(再構築)や生産性の向上、企業同士の連携・再編に取り組む中堅・中小企業を、徹底して支援する方針を掲げた。経済全体の供給力を高めるため、規模は小さくても「強い中小企業」を増やすことを狙う。

「質」をどう保つかは、現場の技能を誰が引き継ぐかという問題にも直結する。製造業の技能継承、「うまくいっている」は1.9% 2026年版ものづくり白書 最も多い対策は高年齢者の継続勤務で54.8%によれば、製造業が技能継承のために最も多く取り組んでいるのは、若手の育成ではなく高年齢者に働き続けてもらうことだった。

賃上げを「成長戦略の起点」に

戦略で目を引くのは、賃上げの位置づけだ。中小企業庁は、賃上げを単に利益を従業員に配る「分配政策」ではなく、人材を惹きつけ、生産性を高める投資を促す「供給力強化政策」だとした。賃金を上げることが企業の行動を変え、成長につながるとして、「成長戦略の起点」と位置づけている。

賃上げと「稼ぐ力」を同時に高め、好循環を生み出すことを目指す。

支援は6つの柱で

具体的な支援は、6つの柱で整理された。①コスト上昇分を取引価格に反映させる「価格転嫁」と取引の適正化、②成長支援と生産性の向上、③M&A(合併・買収)や事業承継による事業再編、④成長を促す中小企業向けの金融、⑤賃上げの促進、⑥経営を立て直すための「伴走支援」体制の強化――だ。

付加価値の裏づけになる知的財産では、大企業との差が開いている。中小企業の特許出願は全体の13.4%に低下 前年の16.0%から 企業数では99.7%を占めるのに 特許行政年次報告書2026年版によれば、2025年に国内から出された特許出願のうち中小企業によるものは13.4%で、前年の16.0%から下がった。

中小企業は日本の雇用の多くを支えている。人手不足と物価高が重なるなか、中小企業の底上げが進むかどうかは、賃上げや地域経済の行方を左右する。中小企業庁は、政策の達成度を測る新たなKPI(重要業績評価指標)もあわせて設けた。

従業員の定着策としては、国が用意する退職金の仕組みもある(中退共の加入は約55万社 10月に加入促進強化月間 掛金納付が1年未満だと退職金はゼロ、掛金総額を上回るのは43か月目から)。

成長支援の中核だった補助金は、2026年9月末に新しい制度へ引き継がれた(中小企業の新事業進出補助金、第4回で公募終了 応募1499者のうち508者を採択 採択率は第1回の37.2%から33.9%へ 後継補助金は10月30日締切)。